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絶望の中にも人間の果てしない可能性を感じさせる力強い作品に…★劇評★【舞台=華氏451度(2018)】

 本を焼くという古典的な思想弾圧や自由の抑圧の方法は幸いにも今の日本では行われていないが、恣意的に創られたり、特定の考え方に染められたりした映像や、感覚だけに訴えて人間から思考する力を削いでいくような番組や音楽はむしろ現代のこの世界にあふれている。書物自体の所有や読書そのものを禁じ、見つかった場合は容赦なく強力な火炎放射器で焼却するという究極的なディストピア(反ユートピア)社会にはまだ到達していないものの、誰かの恣意や作為がひたひたと私たちの足元に近づいている感覚はひりひりするほどあるのが実際のところだ。私たちがぼやぼやしていると、レイ・ブラッドベリが「華氏451度」という小説によって警鐘を鳴らした社会は着実に現実のものとなるのだということを感じざるを得ない。そんな空気の今、この作品を採り上げたKAAT神奈川芸術劇場、そして芸術監督の白井晃の眼力には恐れ入る。おそるべく膠着した社会とそこから生まれる混沌を鮮やかに描き取り、思考という道を閉じられた人間が再び思考という方法によって再生することができるのかという大きな命題を私たちに差し出してくれている舞台「華氏451度」は脚本の長塚圭史が持つ深みと、演出の白井が持つ構築力の巧みさがかみ合い、絶望の中にも人間の果てしない可能性を感じさせる力強い作品に仕上がっている。
 舞台「華氏451度」は9月28日~10月14日に横浜市のKAAT神奈川芸術劇場 <ホール>で、10月27~28日に愛知県豊橋市の穂の国とよはし芸術劇場PLAT主ホールで、11月3~4日に兵庫県西宮市の兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホールで上演される。

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