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カフェテリアの回転率

新宿から快速で5駅ほどの街は賑やかだけど、なぜかのんびりと日々が漂っている。

あの人は
「へんぴなところだよ」
とよく言っていたが、へんぴではない、と思う。
でも、何と例えてやよいのか分からない。

程よく面倒くさいすれ違いが生じる、駅テナントを街ゆく人々。彼らの顔色もよく、駅前を少し歩いた脇道にもゴミが一切落ちていない。不思議とどこか癒される気持ちになる街なのだ――。

この駅に行き始めた理由。
あの人の唯一の知り合いが営業する喫茶店があるから。それだけ。
純喫茶なのか、喫茶店なのか、中途半端なこぎれいな店内に髭面のマスターがいる。
「おう、久しぶりだね……」
マスターは優しい感じの口調が特徴的だが、声が小さく目つきが悪くてきっと人生でどえらい損をしているだろう。

あの人は死んだ父親だ。
3歳のときに死んだから父親の記憶は、マスターから聞いたもので成り立っている。
ひときわ渋い声で「マチで一番のワルだったよ!」
とマスターは言うが、母親は完全否定しており、どちらが真実なのか分からない。そして顔も思い出せない父親に興味もない。まぁしょうがないよね。

今日はたまたま仕事の営業帰りの空き時間に店に寄っただけで、特別用事もなかったが、マスターがコーヒーとケーキを出してくれた。

ぬるいアイスコーヒーは酸味が強く、おいしいとは言えない。
店は若者で溢れ返っていて回転率が悪い。
チョッキを着て目がぎらついた雰囲気はきっといかがしいビジネスの勧誘だろう。いや、帰らせろよ。

きっと売り上げも立っていないだろう。でも店を続けて30年。ちょうどアタシと同い年だ。

渋すぎるコーヒーが胸に染みる。この後、会社に戻って退職届を出す。
そんな相談をできたらいいなと思っていたけれど、周りを見渡して言うのを諦めた。

また遊びに来るよ、マスター。






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