希瀬望 作家・脚本家・コラム(瀨戸大希)

脚本、小説、コント作家。『ウルトラマンオーブ』『世にも奇妙な物語』『イタイケに恋して』…

希瀬望 作家・脚本家・コラム(瀨戸大希)

脚本、小説、コント作家。『ウルトラマンオーブ』『世にも奇妙な物語』『イタイケに恋して』『魔法のリノベ』『オクトー』『好きやねんけど~』ほか。 メール:setodai4@yahoo.co.jp 富山県出身。ドラマ、映画、欅坂46(櫻坂46)、お笑い全般(漫才、コント)、野球。

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最近の記事

富山県の高校。

富山県の高校は、プールがない。 富山県の高校は、修学旅行がない。 富山県の高校、うちの母校は3年に1度しか文化祭がない。他校の客はほぼいない。 富山県の高校は、全国で唯一夏の甲子園でベスト4に進んだことがない。 富山県の高校は、すべて共学。 富山県の高校は、富山県の人がみんなその偏差値と高校の特色をなんとなく知っている。 富山県は、高校でマウントを取る。 富山県の高校は素晴らしい。

    • 長袖に替える年頃

      また、知らない男子に振り返られて、透けている私を見られた。 学校で決められた衣替えの時期を迎えてもまだまだ暑い日は続く。 どんなルールを守っても衣替えだけは納得がいかなかった。 ずっと長袖でいい、ずっとブレザーでいい。 暑くないし、暑くても我慢できるし。 シャツ越しの私をまじまじと見られるより、うんとマシだ。 季節なんて日本人が作ったものでしょ。 なんで真っ白いシャツを着て、純白の心を持つ純粋な女子でいさせようとするのだろう。 私はもう、はち切れそうなんだよ。 真夏

      • 倖せは天ぷら油のように

        今日も「からあげクン」を買っている。 高校生のとき、アラフォーになってもこんなジャンクでファンクなめしを食べているとは思わなかった。 サクサクと、キッチンから天ぷら油の音が聞こえる。 そんな家庭が当たり前にあるものだと思っていた自分が愚かしい。 座敷席で蕎麦とかすすりながら、天ぷらをつつきたいな。 いや、いいや。 今の自分のカラダには、もたれてしょうがない。

        • ロンT一枚のキミに何がわかるワケ?

          まだ朝焼けが見え隠れするかしないか、そんな微妙な時間帯。 横で寝ていた彼女が棚の横で小さく丸まって泣いていた。 泣き疲れたのだろう、うとうとしながら。 彼女は俺のロンTを着ていた。 「もう好きじゃないんだよね……?」 彼女はポツリと呟いた。 きっと昨日のことだろう。 もう、ではない。 最初から、そんな感じの、なりゆきで。 そうじゃなかったら、ダボダボのシャツなんて貸さないし。 一緒に近くのおにぎりカフェでご飯だけ食べて帰った。 二度と彼女は来なかった。 それで

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        • キセノート
          0本
        • セトノート
          2本

        記事

          今日も恋人たちに岡焼きするので。

          ちょうど大学三年の夏に親父が死んだから、家業を継ぐしかなかった。 我が家は代々の煎餅屋だ。 周囲にも同じような店があるうえに歴史が浅く、味も深くないウチの店はいつも閑古鳥が泣いていた。 でも、俺の代で潰すわけにはいかない。 童貞をこじらせた22歳の俺は、朝から晩まで、煎餅を焼き続けた。 街を歩くカップルに毎日嫉妬しては その怒りの炎で煎餅を焼いた。 駅前でキスする者。 公園で舐め合う者。 薄い壁をつんざく嬌声を上げる者。 すべてが燃料になる。 うちの煎餅はカリカリに

          今日も恋人たちに岡焼きするので。

          最後の荷物になるのかな

          生きていくことは世知辛い。 何も言わずに別れを迎えた彼女から婚約指輪と合鍵が段ボールで届いた。受け取った僕は膝から崩れ落ちた。 宛名は、僕と知っている名前とは全く違うものだった。 僕が付き合っていたあの子は誰だったんだろう。 スピッツが好きで、炊き込みご飯が好きで、お化けより妖怪が苦手で、 キスがちょっぴり下手で、僕のことを「好き」だったあの子。 3年後、あっという間に経った。 僕は相変わらずだった。 あの子を見つけた。武道館でギターをかき鳴らしてファンを魅了していた

          28時くらいの宵闇で

          彼女は夜だけたまらなくかわいい。 僕らが出会ったのは、28時すぎの荒れた海だった。 眠れない夜、僕は浜辺で時間を潰す。 この子もきっとそうなのだろう。そう思うと自然と話しかけていた。 甘い声でいかにも女子っぽい話をしてくる。 恋愛のこと、占いのこと、好きな音楽のこと。 僕には全然ピンとこない世界の話だった。 「好きになったら困る? 困るよね、今日会ったばかりなのに」 「え」 「素敵だなって」 朝になる前に解散した。僕は何も返事ができなかった。 翌朝。高校の玄関で彼女に

          どうせまた明日になれば思い出すだろうから、今日も思い出す

          どうせ、また明日になってしまえば嫌でも思い出すだろうから、今日も思い出そうと思う。 その日は小雨だった。ちょっと寒くて気分が乗らないジメジメとした日。 待ち合わせは中目黒駅前のオシャレにだけ特化した本屋だった。 自称170センチの僕より遥かに小さい女性が傘を指して待っていた。 その人はどう見ても年上だった。 僕の一番上の姉が今年で42歳だから、きっとそれ以上だと思う。 マッチングアプリを開いてみる。今日会う予定の人は29歳。のはずだ。 何かもかもが疑問だらけだが、

          どうせまた明日になれば思い出すだろうから、今日も思い出す

          男の子の日もあるから

          まただ、もうマッチングアプリを始めて3回目か。 自分の帰りやすいルートにあるへんぴな場所を初デートに指定されるのは。 亀戸駅でセンスある店、探すの難しいから。 あと、結局タクシーで来てたけどなんで? 「いきなりスキンシップ取る男、まじできついんですよ」 からの 「なんか草食系ですね」 って。どう動いていいか分かんないから。 あと、やたらめったらポジティブ変換されるのしんどいって。 男って悪いけど、だいぶ鬱屈した感情で生きているから。 「こじらせてますね」 じゃないんだよ

          気になる(木になる)言葉たち 1

          アイドル A「ワタシ、誰かの前で涙見せたくないんだよね。だから泣かない」 B「……へぇそうなんですね。――それって自分にもですか?」 A「え?」 B「自分にも涙見せないですか?」 おっさん 上司「ヒゲダンは原曲で歌った方がいいのか?」 部下「ヒゲダンはまぁそうですね。ミセスはキー下げた方がいいかもしれないです」 上司「――なるほど、な――」 アプリで会った男女 女「そういうのやめましょう。なんかパワー吸い取られちゃう。私、批判する人、嫌いなんですよね」 男「それって俺のこ

          気になる(木になる)言葉たち 1

          誰かが、どこかで、きっと仲間はずれ

          久しぶりの再会が久しぶりに思えないのは、お互いに何の成長もしていないからなのだろうと思う。 居酒屋で8年ぶりの再会を果たしたが、全く感情は揺さぶられなかった。 3人とも30代後半になっても平社員まっしぐらで、キラキラした者は一人もいない。 でも、変化もあった。一応。 大石は結婚し、子供が二人いる。 多江原も結婚し、子供ができたばかり。 俺はと言うと、いい歳をして仕事を辞めた。 要は無職で独身、貧乏暮らしだ。 冴えないこいつらも家族トークで自然とマウントを取る。 悪気が

          誰かが、どこかで、きっと仲間はずれ

          わたし、西武新宿駅で待つわ

          夜の仕事を始めて半年が経つ。短いようで濃密な日々は意外と嫌なものじゃなかった。 女性に慣れていないのに虚勢を張っているメンズと話すことも、ジャスミンハイを飲むことも楽しかったし、自分が「この世にいる」ことを確信できる時間でもあった。 わたしが私になれる瞬間だった。 でも、両親に私の仕事のことがバレてしまった。 怒るわけでも貶すわけでもなく、ただゆっくりと抱きしめてくれた母。 ベッドの上で横たわりながら静かにすすり泣いた父。 あー。そっか。親不孝者なんだなと思い知った――。

          母が好きすぎて生かしておけない

          22歳の春、大学4年だがまだ就職が決まっていない。不景気続行中の日本とはいえ、就活売り手市場。 いま、こんなにも藻掻いている女子大生は珍しい。 理由は、45歳の母だ。 私は母のことを「はは」と呼んでいる。母が昔好きだったホームドラマの影響らしいが、響きがかわいくて母に合っており、気に入っている。 母もまんざらでもない。 若々しくて色気もあって、常識と思いやりのある才女。 買い物に行ったら好きなモノはなんでも買ってくれるし、食の趣味も合うし、24時間一緒にいても飽きない。 ど

          トリオのブレーンは今日もコーヒーゼリーの汗をかく

          今年の賞レースも3回戦で負けた。 まだ4年目。まぁまぁ順調だと事務所のチーフマネージャーはテキトーに励ましてくれるが、そんな言葉を鵜呑みにしていては売れるわけもない。 トリオ芸人がテレビのひな壇で売れるはずがない。 俺たちは賞レースを勝ち抜かなければ未来がない。 そんなことぐらい、俺たち自身が一番分かっている。――つもりだ。 このトリオのネタ作り担当は俺だ。ツッコミであり、ブレーンだ。 相方二人はあてにならない。飲みに出歩くかギャンブルをするかしかしていない。しかも、それ

          トリオのブレーンは今日もコーヒーゼリーの汗をかく

          絶対忘れないためにずっとずっと君を想い出すから

          「ごめんね」 と、小声で謝られてしまったから、二人の関係は終わりだなとスマホ越しで思った。 それから大好きだった彼から、二度と連絡はなかった――。 でも、私は彼のことを忘れられなかった。 一分一秒たりとも。 そんな重い失恋から、はや10年が経とうとする。 彼以外は男と感じない、彼以外は人に見えない、彼以外は彼になれない。 だから私にとっての10年は、10日ぐらいの感覚だった。 そりゃあ、友人たちから合コンや婚活パーティーに誘われて無理やり参加することもあった。 でも、

          絶対忘れないためにずっとずっと君を想い出すから

          ここは西新宿サボリパーク

          再開発が驚く早さで進む、いつだって騒々しい街・東京都は新宿区西新宿の西の西。 その周辺にあり雑居ビルの地下にひっそりと続く階段。基本的には誰も気づかない暗闇。 その中にわたしが働く場所がある。 通称「サボリパーク」。 ここには、仕事や家事、人生をサボる人たちが集まり、各々の時間を過ごす。 注文があれば、カレーやオムライス、豚汁など簡易的な料理を提供するのが仕事だが、注文する人はほぼいない。 内装も簡素だ。 コンクリート剥き出しの壁、ちょっとしたカウンターと靴を脱いで上