希瀬望 作家・脚本家(瀬戸大希)

脚本、小説、コント作家。『ウルトラマンオーブ』『世にも奇妙な物語』『イタイケに恋して』…

希瀬望 作家・脚本家(瀬戸大希)

脚本、小説、コント作家。『ウルトラマンオーブ』『世にも奇妙な物語』『イタイケに恋して』『魔法のリノベ』『オクトー』『好きやねんけど~』ほか。 setodai4@yahoo.co.jp 富山県出身。ドラマ、映画、欅坂46(櫻坂)、お笑い全般(漫才、コント)、アマチュア野球。

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最近の記事

酸素カプセルの妖精

昨日はひどく飲みすぎたようで全身が重く、頭が割れるように痛い。 取引先の中年社員と朝までラウンジをはしごしたせいだ。 口下手な俺は酒を飲むことでしか時間を潰すことができず、ついつい酒量も増えてしまう。 酒を飲めば饒舌になるわけでもなく、最後は虚ろな表情で必死に愛想笑いをしていたが、きっと取引先のおっさんは俺のことを気に入ってはいないだろう。これの繰り返しだ。 こんな泥酔した日は、酸素カプセルに入りに行く。 そこでしばしの仮眠を取れば、すごく楽になれる。 60分4000円が安

    • メンタル・アップル・ビッグバン

      「あー。ブチった」 彼女が耳元でそうつぶやいたことを思い出した。 同期で一番かわいくて、仕事のできる女性社員の紗綾。 聞くところによると、彼女の頭がぶっ壊れたそうだ――。 爆弾で弾け飛ぶみたいに。 紗綾とその上司たちが動かしていた再開発プロジェクトは政治家の介入があったのでは…と騒ぎになり中止をせざるを得ない状況になった。会社は大赤字を背負った。 彼女は会社をほぼクビと同じような状態で自主退職し、毎日飲んだくれていたらしい。 頭が弾けると人はとんでもないことをするモノだ

      • 俺じゃ物足りない不倫

        今夜もテーブルには冷めた肉料理が置いてある。わざとらしく――。 それをひとつまみする。 冷めた料理は意外とおいしかったりするから不思議だ……。 日に日に、夫婦の会話が減り、夕食のおかずが減り、ベッドで体を交わせることもなくなった。 そう、うちの妻は不倫している。 相手は、同じ部署の後輩で、コンペを勝ち抜いてプロジェクトを実行させた憎らしい男だ。 女性から見たら細マッチョのモデル体型で高い鼻と茶色の瞳を持つ完璧顔面の持ち主で、スペックは最強。 社内の女子社員はみな彼を気に

        • あおりあおられ惚れられて

          いま、思えばラブホが遠かったせいだと思う。 その日。免許のない俺を彼女がラブホに連れて行ってくれた。 正確には俺が誘ったしおごったのだが、送迎してくれる人に頭は上がらない。 いつだって出かけるときは彼女の運転だ。 「免許取りなよ」と優しく言う彼女だが、俺は何度も試験に落ちていることを隠して、「まだいいかな」とごまかす。 よく田舎でやっていけているなと思う、いろんな意味で。 夜明けの前の国道に摩擦音がこだました。 彼女が運転するミニバンは後方から迫るドでかいSUVに思い切

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        • キセノート
          0本
        • セトノート
          2本

        記事

          冷凍庫のシロクマをはんぶんこ

          やけに暑い店内が逆に食欲をかき立てるから不思議だ。茶色がかった店の柱が老舗であることを物語っている。 「土用の丑って別にうなぎの旬じゃないんだよ。平賀源内がね――」 と、おじさんが二回りほど下の女性に、使い古された雑学を話している。 女性は言い慣れた「へぇ」を唱えながらメニューの裏に夢中だ。 「あたし、松で。あ。あと、う巻きも食べたいかも」 「いいよ。ここはハズレないから」 「ありがとぉぉ」 その光景を見ながら、ギリギリ嫌味にならない口角の上げ方でにやついている彼女。 そ

          冷凍庫のシロクマをはんぶんこ

          しつこくこびりついた純愛

          遠くに海の見えるテラス席に移動したとき、彼がふとつぶやいた。 そこには白い花が咲いていた。 「咲は、最後に会った日。僕にシロツメクサ、くれたんです」 「…………へぇ」 22年前。高校生だった彼は、当時付き合っていた初めての彼女に花束をもらったのだと説明する。それがシロツメクサだったらしい。 「シロツメクサの花言葉、『私を思って』『約束』だったんです。 でも僕、そんな意味とか知らなくて……」 「……そうですか」 彼女は国内でも数例しかない難病に侵され、卒業を待たずして2月に

          しつこくこびりついた純愛

          女々しい鰯ほど遠くへ泳ぐ

          やっぱり今週も彼女は忙しそうにしていた。 出会ってから1年半。 今夜もきっと違う男と遊びに行っているのだろう。 シャワーを浴びてどこかで見たことのあるようなフォーマットの女性が恋愛を斬る系の深夜番組をなんとなく見終えたころ、彼女から連絡が入る。 ニュアンスでいえば「チチカエル」ぐらいの一言と毎回同じ絵文字が添えられたLINEが写り込む。 僕の目に酒が入っているのか、慌てているのか毎回誤字脱字をしている。 そのたびに僕の心はえぐられているのが分かる。 結局眠れないまま、出

          女々しい鰯ほど遠くへ泳ぐ

          願うならば前のタクシー追ってください

          やっと見つけた。 私は思わずため息をついていた。もうすぐ12月。そりゃため息も濁って長く空中に漂っているわけだ。 でもその息は白さがなく、どこか濁って見えた。 私は芸能ライターをしている。 といえば聞こえはよいが、パパラッチだ。 学生時代に合コンした週刊誌記者とSNSでつながっていたところ、「ライターを探しています」と言うような書き込みをしていたのを見かけて、気がついたらDMを送っていた。 それには理由がある、つもりだ。 先月、広告系の会社の事務員を退職代行で辞めたばか

          願うならば前のタクシー追ってください

          大好きだったけど彼氏がいたなんて

          あなたが僕にせびったもの、うしごろバンビーナのランチ。 あなたが僕にせびったもの、巣鴨の行列かき氷。 あなたが僕にせびったもの、屋形船から見る花火。 あなたが僕にせびったもの、スタバの限定フラペチーノ。 あなたが僕にせびったもの、ロエベの一番高いカバン。 あなたが僕にせびったもの、うしごろバンビーナのディナー。 あなたが僕にせびったもの、帰りのタクシー代1万。 あなたが僕にせびったもの、コンビニのコンタクトケース。 あなたが僕にせびったもの、高校時代の卒業アルバム。 あな

          大好きだったけど彼氏がいたなんて

          老後は俳句で愛を語らいたい

          定年を迎えた瀬田稔と妻・てる子は熟年を迎えて、お互いの関係がギクシャクするように。稔は家庭を顧みず、趣味の「俳句」に没頭しており、独身を貫くアラサーの娘・のぞみにも無関心だ。 てる子は離婚届を役所から取り寄せていた。 そんなある日、稔は病気で意識不明になり一命を留めるものの、うまくしゃべることができず、「五・七・五」の俳句でしか会話できなくなってしまっていた――。 周囲から変わり者扱いされ、一人ぼっちになる稔を心配するてる子。しかし、稔は俳句でしか会話をしてくれない。しか

          老後は俳句で愛を語らいたい

          シチューしか作らない女(ひと)

          うちの嫁は、ホワイトシチューしか作らない。 本人いわく作らないというか作れない、らしい。 でも、そんなことで俺は嫌いにならない。 聡明で理論的だし、その反面無邪気で人懐っこいところもあるし、なによりスケベだ。かなりの上物だ。 そう、非の打ち所がない。 料理でホワイトシチューしか作らないことなんてどうにだってなる。 パンや他の総菜ではなく、ご飯と一緒に食卓に並ぶが、別にまずくはない。 慣れればカレーライスの恋しさは遠のく。 2年かかったけど。 なぜ彼女はシチューしか作らな

          シチューしか作らない女(ひと)

          塔の上と深海の間には

          誰が作ったのか分からない。 砂丘のど真ん中に600メートル級の塔がある。目が覚めると、塔の上に放置されていた。Tシャツに短パン。家で寝ていたときの格好だ。 「なるほどね、へへ」 俺はお笑い芸人。これはドッキリに違いない。テレビでよく見るやつだ。 これで俺の極貧人生も変わるかもしれない。この塔を降りる頃には俺は武道館ライブをするスターか、アッコさんの隣でヘラヘラしているに違いない。 売れた。 こんな激ヤバの場所に放置されて、それが放送される。 すでに震える寒さともはや感覚を

          パチンカス経理女子・佐和子さんは定時上がり ~17時から23時まで

          私はルーティンを絶対崩したくないし、崩されたくない。 17時5分に勤怠管理ボタンを押して、最寄り駅の店に向かう。 ギンギラギンに輝く店内。 今日も今日とて、私は「中森明菜・歌姫伝説~BLACK DIVA 極~」を打つ。 「佐和子さん、今日どうですか?」 「ごめんなさい。」 たまに、同じ経理部の後輩ちゃんが、近くの串カツ屋のハッピーアワーに誘ってくれるが、一度も行ったことがない。 お酒が好きじゃないし、串カツはもはや体が受け付けないし、何よりパチンコを打ちたくてしょうがない

          パチンカス経理女子・佐和子さんは定時上がり ~17時から23時まで

          推しに敷かれて眠りたい

          夜も眠れない東京の街。のちょっと外れた最寄り駅。 あたしたちオタクの間では、推しがこの周辺で暮らしていることは有名だった。コンビニで見かけたなど、タクシーで降りてきたなど、我々の犯罪スレスレの情報網がキャッチしていた。 そんなわけで給料の半分を削ってこのマンションに住んでいる。 奇跡を信じて暮らしていたある日。 某週刊誌で推しがアイドルと自宅マンションに入る写真が掲載された。 やっちまった……。とアタシは思った。 エントランスが明らかにウチと違う。 最悪だ。最低だ。 推し

          寿司屋のセガレがシロクロ付ける

          ったく、もう。 うちのせがれのやつがよぉ。 オヤジの代から続けてきた寿司屋を継がずに、刑事になりやがったんだよ。もぉ。やってらんねぇよ。 今はそう。湾岸署? レインボーブリッジ封鎖したかったのか、あのガキ。 シャリ握らずにチャカ握って。ざけんな。 せっかく少年マガジン買ってやってたのに、将太の寿司より金田一に夢中になってよぉ。金田一は刑事じゃねぇーての。 高校出るまでに、あいつには店の手伝いをさせてありとあらゆるノウハウ、技術ってぇやつを教えてきたんだぜ。 なのに、警察学

          寿司屋のセガレがシロクロ付ける

          君待が丘

          軽自動車のエンジンをベタ踏みして、ようやくたどり着く小高い丘の先に、あたしが務める老人ホームがある。 勤務して2年。正直言って心身ともに滅入っている部分も多いが、他の仕事を探す気力もなく今のところは続けている。 孫のように接してくれるおじいちゃんおばあちゃんたちは好きだし、古株の社員さんは優しい。 安い給料のせいで好きなブランドの夏服を買うことができないことは悔しいけど、案外悪い職場ではない。――うん。うん、そう言い聞かせている。 丘のてっぺんに公園がある。 といっても雑