希瀬望@脚本家、コント作家(セトダイキ)

脚本、シナリオ、コント作家。『ウルトラマンオーブ』『世にも奇妙な物語』『イタイケに恋し…

希瀬望@脚本家、コント作家(セトダイキ)

脚本、シナリオ、コント作家。『ウルトラマンオーブ』『世にも奇妙な物語』『イタイケに恋して』『魔法のリノベ』『オクトー』『好きやねんけど~』ほか。セトダイキ。 setodai4@yahoo.co.jp 富山県出身。ドラマ、映画、欅坂46(櫻坂)、お笑い全般(漫才、コント)、野球。

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そうめんもニュウメンも飽きたって

大人になって気づくのは、親のありがたみと酔っ払いのカッコ悪さだったりする。 子供のころ、うんざりするほど昼ごはんの食卓に並んだそうめん。 溶けた氷の生ぬるさと次第に固まってダマになる麺の様子を思い出しただけで虫唾がはしる。 だけど。 疲れた体と心に鞭打ってそうめんの束をほぐしてくれていたんだよね。めんつゆを変な柄のグラスに注いでいてくれていたんだよね。 今というか、最近。 そうめんも煮麺もホント美味しいって思うし、ちょっと大人のふりして食べてる自分がいる。 そのとき、

    • 理数科が一軍すぎることに関する教師による考察 初版

      アタシの中の記憶と記録がすべてが塗り替えられた。 去年の秋、県で2番目の進学校にして設立100年を超える母校に教師として戻ってくることになった。 「はい、よろしくお願いいたします。実は。アタシもここの出身なんです」 一応生徒のほとんどがこちらを見ているが何の反応も熱量もない。まぁOGが先生として戻ることは珍しいことではないし、いちいちへぇだのほぉだの言わないのは当たり前か。 ましてウチは進学校。教室にいる限りは勉強のこと、授業のことで頭がいっぱい。アタシがそうだったでは

      • アマギフなら受け取ってもええけど

        もうこれ以上みんなの邪魔をしたくない。 舞台終わりの通用口に並ぶ痛いファンにアタシは疲弊していた。 手持ちみやげやプレゼントを抱える図体のでかい男たちに囲まれるアタシと相方。 大半の人混みは相方のほうに流れるのだが、今日はいくばくかアタシのほうにも押し寄せてくる数が多い。 「……ありがとうございます」 「おおきに」 相方の細い声は震えており、明らかに不満そうだ。 お笑いをしたい、人を笑かせたい、男を黙らせたい。 そんな気概で芸人になった彼女には今の地位は不服なのだろう

        • なんかaikoの曲みたいだね

          あの星の上で花火見下ろしたいよね。 彼氏がaikoの曲みたいなことを言うので、一気に冷めた。本音でもわざとでも、とにかく気分が悪くなったことだけは鮮明に焼き付いている。 夏の真ん中ごろ。河川敷は蒸し蒸ししてただでさえ居心地が悪いのに、やめてくれよと思った。 蝉の声が響くなか、彼は「かき氷のシロップは全部おなじ味らしいよ」と笑った。 またこの人、aikoの歌詞を普段使いする素振りを見せた。 夏生まれだから夏好きだわ、やっぱり。 でも秋が一番好きかも。 ちょっと公園寄って行か

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        • キセノート
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        • セトノート
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        記事

          打たせて撮るタイプ

          この仕事、嫌いじゃないけど好きになれない。 文芸志望で入ったアタシだが、研修が終わって早々に週刊誌部署に配属された。 今日は球界のエースと呼ばれる在京チームの選手を追っかけて張り込んでいる。四股不倫をしているらしい。 どうでもいいけど。 年老いて140キロも出ないくせに遊ぶなよ。スキャンダルなしの彼は165キロ出してるからね? そういえば、アイドル時代のアタシもよく野球選手と遊んでた。 大体野球選手って胸が好きなんだよね。 アタシがタレこんだせいで、引退したスーパースターも

          傷ついてトイレットペーパー

          コンビニでトイレットペーパーのダブルを買う。シールだけ貼ってもらったトイレットペーパーをぶらつかせながら家へ急ぎ足で向かう。 スーパーで買い忘れるのも、同棲を始めてから何度目だろう。きっとまた彼女に怒られる。 家は真っ暗だった。 キョロキョロと廊下を探っていくと、彼女はトイレの便座に座って泣いていた。ちゃんとスカートは履いている。 なぜ……? 「もう別れよ」 「なんで」 「またコンビニで買ってるじゃん」 俺が持つ8ロール入りのトイレットペーパーを見つめて、彼女はため息をつ

          数分で終わるので、臨死魔法をかけさせてもらえませんか?

          日雇いの仕事は割りが良いのか悪いのか分からない。 時給にして1200円、炎天下の下で自分に興味のない人たちの関心を惹くのはラクじゃない。むしろつらい。人間、無視されるのが一番堪えるのだ。 「あの。少しお時間よろしいでしょう……」 「お時間よろ……」 世の中、そんなに甘くない。こんな見た目のヤツの話に足を止めるはずがあるわけない。 「まぁ……少しなら」 世の中、ホントに分からない。こんな見た目のヤツを信用する人もいるのだから。 無事確保したおじさんを近くの雑居ビルに案内

          数分で終わるので、臨死魔法をかけさせてもらえませんか?

          カレーを作りすぎた人の末路

          カレーを作りすぎるのは、日本人の病なんだと思う。 今日も作りすぎたカレーを薄暗い部屋で食べている。 引っ越しのときに邪魔になってテレビを置いてきた家は殺風景だ。 彼氏を探すために勧められたマッチングアプリも飽きてきた。 カレーは飽きないのに。 2年後。あたしはカレー屋でバイトしていた。 あれだけカレーを作りすぎていたのだから当然といえば当然だが、そこそこ給料の良かった事務職を辞めてまですることか、と旧友にあしらわれてた。 「いいじゃん。カレー好きだし」 「ウチも好きだよ

          芥川賞と直木賞とギャラクシー賞の兄妹

          「お子さん、3人とも立派に育って羨ましい限り」 「いえいえ、そんなことは……」 「偉大ですよ。近いうちにお母様の本を出したい、そう思っております」 「……困ります」 雑誌取材のライターからの賛辞に、いつも母親は謙遜する。それもそうだ。 長女の小枝は、18歳の若さで出した処女作で芥川賞を受賞した。目の前の光景がみずみずしい筆致で鮮やかな比喩を交える文体、現代を切り取ったテーマを評価された。 その弟・幹人は、驚きのどんでん返しとエンターテイメント性溢れるスパイ小説で、3度目の

          芥川賞と直木賞とギャラクシー賞の兄妹

          休講のときに行くカラオケは盛り上がりに欠ける

          あーなんて素敵な日だぁぁあ♪ 隣の部屋で誰かがMrs. GREEN APPLEを歌っている。昼の14時、お茶の水。きっと大学生に違いない。まぁそれにしても音痴すぎる。リズム感も終わっている。同じ卓にいる人を思うと同情するレベル。 ウチらはいつものように陣取り、リモコンに手を取る。 誰が何を最初に歌うかでその日のカラオケはまるで戦術が変わってくる。 智子がadoを歌えばはりきりなナンバーが並ぶし、あいみょんを入れたらバラードが続くし、懐メロを入れたらモー娘。やらAKBやら、小

          休講のときに行くカラオケは盛り上がりに欠ける

          真綿で締められるような恋

          じわじわ、じわじわ。その人はアタシの心を締め付けてくる。 優しいけれど、会社でひときわ目立たない存在で、なんだったら少し嫌われている小山田さん。あたしの3つ先輩にあたるが、仕事の覚えも悪い。 月の頭は憂鬱そうだし、月の中頃はお腹が痛そうだし、月末はクマだらけ。 会議であくびをしては怒鳴られている。 じわじわ、じわ。 きっと自分のことで精いっぱいのはずなのに、小山田さんは人の面倒ばかりみようとする。普通に心配になる。小山田さん、上司にレポート頼まれていたはずなのに。 じ

          僕はハリー杉山じゃない。

          だからさ、何回も言うけど僕はハリー杉山じゃない。 バナナマン設楽が司会をする朝の番組とか出てなかったし、テレビは昔、西武遊園地でインタビューされたぐらいだし。 そもそも英語も話せないし、ハーフじゃないし、あんな陽気じゃない。 日本生まれ、日本育ち。両親ともに東北人、学生時代は卓球部の補欠だった陰キャなんだよ、僕? ハリー杉山のわけがない。 23歳だけど彼女もできたことないし。顔の彫が深いだけじゃモテないってこと、これで証明されたでしょ。 女の子の裸だってお金を払わずに見た

          ミックステープは明日渡すから

          初恋は梅雨の匂いとともに動き出した。 クラスメイトの桜ちゃんと話ができたんだ。どんな話をしたかは覚えていないけど、帰りの自転車置き場でちょっとだけ立ち止まってくれた。 「じゃあさ、僕のテープ貸してあげるよ」 このセリフを言ったことだけは覚えていた。きっと音楽の話をしたんだろう。 夜、家、部屋。両手でやっと持てるWカセットテープレコーダーをベッドの上に置いた。きしむベッドの上でCDを置いては外す。 ミスチル、サザン、スピッツ、ユニコーン、エレカシ、たまを入れたミックステープ

          もう絶対に嘘つかないでね

          「もう絶対に嘘をつかないでね」 「うん……」 バーン。 俺は瞬時にして屍になった。嘘をついてしまったからだ。 嘘をついたら死んでしまう体になったのだ。 翌朝。ベッドで目覚めた。 嘘をついて死んでも蘇る体になったのだ。 嘘と正義は決して成立しない。誰かにとっての嘘は真実だし、誰かにとっての正義は悪だからだ。 「ごめん。味濃かったかも」 「ううん。てゆか、好きだし、濃いの」 バーン。 死んだ。 「来月飲みに行こうな」 「当たり前だろ」 バーン。 粉々になった。

          食べるだけの動画だから観てる

          33歳、結婚1年目。上からはまだまだ若いと言われるし、下からはおじさんがられる複雑な世代。同じ年の妻との生活は比較的心地が良い。 でも、ウチの奥さんはYouTubeが好きでテレビを見ない。そこだけどうもうまく生活に噛み合いの悪さが生じている。 しかも見ているのは旅行に行ってご当地グルメや酒を飲む動画ばかり。こいつら、ちゃんと店に許可取ってるのかと元ADの俺はイライラしているというのに……。 別にYouTubeやユーチューバーを否定するつもりもないが、そこまで夢中になられると

          受け止められない、回転数で。

          いきなりトイレの前で抱きしめられてキスされて、甘い言葉をつらつら囁かれてアタシは固まってしまった。 なんでこんな安い居酒屋に? という疑問なんか吹き飛ぶぐらいの衝撃、浮かび上がるような情熱。 目の前にいたのはアタシの推しのワタルだった。 キラーフレーズの元絶対的エース。家庭の事情で業界から足を洗ったというエピソードさえアタシたちをときめかせたワタル。 なぜ、この安居酒屋で、こんな大胆な。いや、ゲスなことしようとしてくるの……。