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母が好きすぎて生かしておけない

22歳の春、大学4年だがまだ就職が決まっていない。不景気続行中の日本とはいえ、就活売り手市場。
いま、こんなにも藻掻いている女子大生は珍しい。

理由は、45歳の母だ。
私は母のことを「はは」と呼んでいる。母が昔好きだったホームドラマの影響らしいが、響きがかわいくて母に合っており、気に入っている。
母もまんざらでもない。
若々しくて色気もあって、常識と思いやりのある才女。
買い物に行ったら好きなモノはなんでも買ってくれるし、食の趣味も合うし、24時間一緒にいても飽きない。
どころか、24時間一緒にいないとどうにかなってしまう体になってしまった。

いつも、いつだって手を繋いで歩いていたい。
手を離したら震えが止まらなくなる。

おかげで高校はまともに通えなかったので大検を取った。
大学には母と通っていた。母も何十年ぶりのキャンパスライフを謳歌していたし、大学生に見えなくない母がキャンパスに出入りすることを誰も注意はしなかった。

しかし、就職試験はそうはいかなかった。保護者の同伴不可。
注意事項にそんなこと書いていなかったのに、手を繋いでオフィスに入ろうとしたら人事課のおじさんに止められた。
日本は非常識で、遅れている。

就職を諦めて母と商売しようと話し合った。
ケーキ屋さん、雑貨屋さん、花屋さん。
いろいろアイデアは出たけど、母は働くのが嫌いなので断念した。

しょうがないから母と二人で旅行する動画を配信していたら、バズってそれでお金儲けができるようになった。
グーグル万歳。

でも、次第に飽きられてしまい、収入は激減。
廃墟や幽霊が出る場所を母と巡るチャンネルに切り替えたけど、うまくいかなった。
私は母の手をギュッと握って、涙をこらえた。

廃墟で崖に落ちた母は右手しか残っていなかった――。

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