理数科が一軍すぎることに関する教師による考察 初版
アタシの中の記憶と記録がすべてが塗り替えられた。
去年の秋、県で2番目の進学校にして設立100年を超える母校に教師として戻ってくることになった。
「はい、よろしくお願いいたします。実は。アタシもここの出身なんです」
一応生徒のほとんどがこちらを見ているが何の反応も熱量もない。まぁOGが先生として戻ることは珍しいことではないし、いちいちへぇだのほぉだの言わないのは当たり前か。
ましてウチは進学校。教室にいる限りは勉強のこと、授業のことで頭がいっぱい。アタシがそうだったではないか……。
あれから10年。当時を懐かしむ。友達なんてほぼ作らずに東京での大学デビューの画策をしていた。
結局、大学デビューも東京生活もうまくいかなかったけれど、悔しさとか惨めさはない。本気じゃなかったから。と言い訳しながら。
しかし、驚いた。アタシが受け持つ理数科の男女がイケすぎている。なんか一軍めいたオーラを感じる。
同じクラスメイトだったら友達にはなれないタイプだ。
遊ぶところは遊んで、従うところは従う。打算的で体温の低そうな感じ。
東京でのらりくらりと生きて、幸せを掴むタイプの子たちだ。
彼女たちはTikTokもやるしインスタでお店も探すけれど、英単語帳も覚える。
そんな子たちと相性が合わず東京を離れたはずなのに、母校の、しかも理数科が一軍と化しているとは!
なぜ、なぜ?
時代がそうさせたのか? 校風がさせたのか?
アタシはここから1年かけて彼女たちの未来を応援できるだろうか? アタシの安住の地を汚すノリに耐えられるのか?
アタシの授業。
多くの生徒がスマホをいじり、平家物語にまつわるうんちくを聞いていない。
当てられて吃る生徒に白い目を向けて冷笑してる。
だめ、だめ、だめ。
こんなの県立丸山高校理数科じゃない。
アタシの母校を守る戦争が、始まった。
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