日本人の思想の底流 儒教の家族観を検討する

「儒教入門」 土田健次郎:著

 日本人がどうして選択的夫婦別姓に反対するのか、その考え方の底流に儒教の考え方があるかもしれない、ということで、本屋で買って読んでいます。

 社会科科目が苦手で理系に進んだ私にとって、儒教について今まで考えようと思ったことはありませんでした。しかし、非常に面白く読んでいます。

 儒教は宗教とは少し異なります。日本には神社やお寺などは身の回りに多く存在しますが、儒教の祖である孔子を祀った孔子廟は数えるほどしかありません。

 しかしそれは儒教がマイナーな存在だったからではなく、学校で教えられる、より一般に浸透した教えだったからです。それを指して、儒教は宗教というよりは思想と言われます。

 儒教は戦後に一度大きく否定されることになりますが、いまなお、日本人の考え方の底流に存在していると思います。

 「仁者は自分がそこに立ちたいと思えば人を立たせてやり、自分がそこに行き着きたいと思えば、人を行き着かせてやる」(『論語』雍也)

といった考え方は、どこかで聞いたことがあるような気がしませんか?

 儒教のテーマの1つは『家族』です。

 孔子の教えを継いだ孟子は、家族の間には、他の人よりも多くの愛を注ぐように説きました。これは、親類と疎遠なものを区別し、差別する思想です。

 儒教の教えの中心となる「仁」は、その愛を親しい間柄(家族や上司)から始めて周りに広げていくベクトルを持った考え方ですが、もう1つ大事な「義」は、その愛情に秩序を生じさせるベクトルを持っています。

 これは、墨家の「兼愛」という、誰でも等しく愛する博愛主義とは異なります。『家族』を大切にするのは儒教の教えなのです。

 それは、「三綱五常」にも表れています。

 「三綱」とは、「父子、夫婦、君臣」という3つの人間関係を指します。すなわち、親子、特に父と子の関係、夫婦、君子と臣民の関係の3つです。

 「五常」とは、「仁、義、礼、智、信」のことで、より抽象的な道徳規則です。

 五常の道徳を、三綱の基本的な人間関係において備えて、それを周りにも広げていきます。

 「儒教入門」においては、「仁=秩序ある愛情」、「義=規範意識」、「礼=謙譲の精神」、「智=道徳的認識判断力」と説明されますが、詳しくはまた別のnoteにまとめたいと思います。

 ここでは、三綱のうちの2つが家族に関係していることに注目します。「父子」と「夫婦」です。

 「父子」から注目していきましょう。

 「父子」の間にあるのは孝です。対応して、「君臣」の間にあるのは忠です。そしてこの2つは、万人が逃れられぬものとされました。

 なぜなら、これらは「天性」だからです。子は生まれながらにして父の子であり、臣は生まれながらにして王(君)の土地の臣であります。

 「孔子が言われた。天に二つの太陽は無く、土に二人の王者は無い。」(『礼記』曾子問)
 「孔子が言われた。天に二つの太陽は無く、土に二人の王者は無く、家に二人の主人は無く、尊者に二つの至上は無い。」(『礼記』坊記)
 「天に二つの太陽は無く、土に二人の王者は無く、国に二人の君は無く、家に二人の尊者は無い」(『礼記』喪服四制)
 「天に二つの太陽は無く、国に二人の君は無く、家に二人の尊者は無い」(『大戴礼』本命)

 父子、君臣の関係が、夫婦関係にも引き継がれていきます。

 しかしここで引用したものの、2つ目と3つ目には乖離がありませんか?

 家に主人は1人かもしれませんが、尊者は1人と限ってしまってはまずいのではないでしょうか?

 これが法家の教えまでいくと、

 「臣は君につかえ、子は父につかえ、妻は夫につかえるものです。三者が順であれば天下は治まり、三者が逆であれば天下は乱れます。これが天下の常道です。」(『韓非子』忠孝)

となってしまい、社会秩序の維持が第一におかれてしまいます。

 儒教はそこまでいかず、父も子に対して「慈」が必要であることなどを説いていますが、いずれにせよ、日本の家族観の土台の奥深くに儒教が入り込んでいることは確かです。

 山本七平は、「空気」の研究のあとがきで、

「…徳川時代と明治初期には、少なくとも指導者には「空気」に支配されることを「恥」とする一面があったと思われる。「いやしくも男子たるものが、その場の空気に支配されて軽挙妄動するとは・・・」といった言葉に表れているように、人間とは「空気」に支配されてはならない存在であっても「いまの空気では仕方がない」と言ってよい存在ではなかったはずである。」

と述べています。

 そもそも「空気」に支配されている現代において、その支配から逃れ、武士道に代わる、よって立つ原理を取り戻さなければなりませんが、儒教の考え方もアップデートしていかなければならないと感じます。

 そのために、まずは、儒教についてよく知ることが先決です。

 まだ読書途中ですので、この問題意識を持ちつつ、この先も読んでいきたいと思います。

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