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Web3.0と暗号通貨

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暗号通貨(crypto-currency)関連のこと。政治学的な視点から眺めています。DAOやWeb3.0など。
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記事一覧

拡張次元と現実次元が交差する

いまポケモンGOでは、期間限定でミュウツーに出会うことができる。少し前なら特別の条件を満たした人しか出会えなかったのに、いまは全員に解放されている。 さいきん再開した人はもちろん、積極的にポケGOをしてこなかった人も、みんなミュウツーに会えるようになった。ポケGOマニアにとっても、ミュウツーをたくさん捕まえるいい機会だ。 だから、ポケモントレーナーは街に集う。 ※ ミュウツーに会える場所は、場所と時間で固定されている。 ミュウツーは、特定の時間だけジムに現れる。ジム

国家主導で乗り出すブロックチェーン開発──中国のニュースを振り返る

「イノベーションのための重要な突破口として、ブロックチェーンを捉えなければならない」 2019年10月24日、習近平主席が中央委員会の研究会のなかで述べた。ここ数年、中国はブロックチェーンを活用しており、ついに国家主席が直接言及したことになる。フェイスブックの「リブラ」と並んで、2019年の画期的な日として記憶されるだろう。 習主席がこう述べてから、重要なニュースがあいついだ。ブロックチェーンの重要な要素である暗号技術の推進を目的とする法律が、全人代で可決された。中国の中

第二回「暗号通貨と金融」

暗号通貨が既存金融の一部として認識されるようになった。新しいように見えるが、数年前に通り過ぎた議論だ。次はDeFi(分散型金融)の理解が進んでいくだろう。 ビットコインはコモディティ(投資商品)として公式に認められた。ニューヨーク証券取引所の親会社「ICE」が設立した子会社は、9月にも現物決済の先物取引を開始するとしている。 背景にはさまざまなことがある。マネロン対策を主導する国際組織のFATFは6月、暗号通貨の規制に関する解釈を確定した。これにより「綺麗なビットコイン」

G20福岡出張ーーはじめてのG20

6月7−10日にかけて、G20福岡に行った。ヤフオクドームのすぐ隣、ヒルトンホテルに、各国・各地域の財務大臣・中央銀行総裁が集まった。 (きのこ傘みたいな照明@ヒルトン) 私は暗号通貨メディア「CoinDesk Japan」の記者として福岡に行った。新卒から数ヶ月でG20に行くとは予想外だった。出張費用は5万円。それだけの成果を持ち帰らなければいけない。 不安を胸に羽田から飛行機に乗った。 (テレビスタッフは、これらの幕を背景にして撮影していた) 意外と福岡は近い。

ソーシャル・スケーラビリティとは何か。

2019年3月27日、ethereum「plasma chamber」開発者の落合渉悟さんが、Litigable Protocolsを発表した。 この余波は大きく、ジャーナリストの星暁雄さんによって記事にされ、「落合提案」と名付けられた。落合提案については、その視野の広さと視座の高さから他にも解説記事が生まれ、Twitter上でも議論が続いている。 ただし、「ソーシャル・スケーラビリティ(social scalability)についての理解が足りないのではないか」と思われ

暗号通貨と金融──三つの意味

暗号通貨は、金融の領域で語られがちです。規制動向がうんにゃらとか、どこぞの銀行がカストディ始めたとか、ICOのつぎはSTOだとか。でもそれだけじゃないんです。 「暗号通貨と金融」と言われたら、その人の属性によって、おおきく三つ、意味するところが変わります。 ①既存金融と暗号通貨の接点について ②分散型金融について(dopefi, defi) ③将来的な価値流通基盤としての分散型金融について このツイートへの返信を見ていて、三つの分類に気づきました。説明していきます。

物理現実と情報現実

熱海でVRを体験した。 海に面した高台に、熱海城が構えていて、その地下にゲームセンターがあるのだ。 「お城にゲーセンがあるの?」 半信半疑で地下に足を踏み入れると、開けた空間に筐体が乱雑に置かれていた。なんとゲーム料金は無料。太鼓の達人や、よくあるシューティングゲーム、マリカーのリアルバージョン、UFOキャッチャー、バスケのフリースローをやるやつ、卓球台やホッケー台もあった。 もちろん、筐体の型式は古い。数世代まえのやつだから、太鼓の達人は最近のがカバーされてない。

ガバナンスへの招待

これまで指摘してきたように、暗号通貨には権力性が内在しています。スマートコントラクトという永続的なプログラムが、権力性の源泉です。 誰にも止められない、改竄されない、動き続けるプログラムは、そのネットワークを使う人たちを拘束します。国家の法律のように、その国内にいる人間の行動を規律します。国外の人は規律しません。 この性格を指して、社会契約のようだと指摘する研究者もいます。 強制力のあるチェーン(国)に、社会契約をして入る。嫌になったら、退出できる。そして、その強制力自

擬制としての国家――暗号通貨は、擬制を実態化させた

正統性、という話をしました。その正統性は、国民からくるものだという話もしました。 けれど、こう問われたらどうでしょうか。 「あなたは政府を積極的に支持していますか」 多くのかたは、否だと思います。だって、不満ばかりがあります。あたりまえです。政策の成功は目に見え難く、政策の失敗は目に見えやすいからです。課題の量も質も、増えてきました。政府は、常に存在する国民からの不満に答える必要があります。そうでないと「正統性」というフィクションを維持できません。 正統性とは、フィク

国家の正統性について

前回の記事で、国家について語るとき、最初に物理的暴力を軸に考える必要があることを指摘しました。ただし、意図的に触れなかった点があります。 国家とは、ある一定の領域の内部で――この「領域」という点が特徴なのだが――正当な物理的暴力行使の独占を(実効的に)要求する人間共同体である(『職業としての学問』) このウェーバーの定義には、「正当な」という限定が付いています。これは、「正統な(legitimate)」を意味します。 政治学において、「正当性(justness)」と「正

国家の最大の機能について――正当な物理的暴力行使の独占を(実効的に)要求する

この記事は、国際政治学徒からの、sgさんの記事に対する応答である。 sgさんは、日本で最先端をいくPlasmaの開発者である。Plasmaは暗号通貨Ethereumのlayer 2nd solutionsのひとつで、EVMの処理をネイティブ・チェーンから逃がしてchild chainで行う理想的な技術である。 ぼくが彼をフォローしているのは、彼が技術者であるだけでなく、技術が現実にどう影響するのかを、真摯に見つめているからである。現実と技術の接点を見つめたうえでPlasm

ライトニング・ネットワークを試そう!

こんな声を聞いたことはありませんか? 「ビットコインは送金速度が遅いから使われない」 「ビットコインは送金手数料が高いから使われない」 「ビットコインはみんなが使うとキャパオーバーで使えなくなってしまう」 ハイ、これらすべては過去の話です。 たしかに、送金速度は遅いです。ブロックタイムが10分間なので、オンチェーンに残高が記録されるのは10分毎です。送金手数料は高いですよね。とくにみんなが一斉に送金すると、送金手数料の高い順に処理されていくから、手数料を上げる必要が

"Binance will transition from being a company to a community" and Now.ーー「我々バイナンスは、会社からコミュニティに変わる」そして今

バイナンス、という暗号通貨の取引所がある。 取引高世界一の取引所で、暗号通貨界が活発だったときには四半期利益が2億ドルを超すほどの勢いもある。それでもなお、その地位には満足せず、革新的なサービスを生み出しつづけている。ついに昨日、DEXをテストネットに上げた。 この記事は、コミュニティ化するバイナンスを、観察したものである。 ※ 暗号通貨の取引所と聞くと、怪しげに思われるかもしれない。言ってしまえば証券取引所と一緒だ。顧客の資産を預かって、取引してもらって、取引手数料

FEMAとDAO――ネット時代の組織について:自律分散組織

21世紀の初頭、9.11のテロ事件が起きたアメリカでは、緊急事態への対応を根本的に組み替えた。 そのひとつが、これまで独立組織だったFEMAを、国土安全保障省に統合することだった。FEMAは連邦緊急事態管理庁と呼ばれ、ハリケーンや洪水、原子力災害など危機的な事態を管轄する組織である。国土安全保障省に統合することで、緊急事態に対して、より一元的にスムースな対応ができると目されていた。 しかし2005年、その構想はあっけなく崩れた。 ハリケーン・カトリーナに対してうまく対応