ガバナンスへの招待

これまで指摘してきたように、暗号通貨には権力性が内在しています。スマートコントラクトという永続的なプログラムが、権力性の源泉です。

誰にも止められない、改竄されない、動き続けるプログラムは、そのネットワークを使う人たちを拘束します。国家の法律のように、その国内にいる人間の行動を規律します。国外の人は規律しません。

この性格を指して、社会契約のようだと指摘する研究者もいます。

強制力のあるチェーン(国)に、社会契約をして入る。嫌になったら、退出できる。そして、その強制力自身を、コードで記述できる。

基本的には、このような性格があります。

しかし、それらは理論的な話に過ぎません。問題となるのは、退出可能なのか、という話です(以下のツイートは面白いです)

退出には、新たなチェーンを作り出してもいいし、それまでの履歴をもちながら分岐する「フォーク」をしてもいいです。しかし、これらの結果、各チェーンの参加者は減ります。

チェーンの価値は、分散性です。つまり参加者の質的・量的多様性です。退出が可能だからこそ、その分散性を保つメジャーなチェーンは、少ないままにとどまるでしょう。Vladの考えでは、「少数のメジャーなブロックチェーンにおけるガバナンス機構は、ブロックチェーン領域すべてのガバナンスの帰結を決めるだろう」ということです。

つまりメジャーなブロックチェーンのガバナンスは、そのチェーンだけではなく、暗号通貨領域全体に大きな影響を及ぼします(これは、social scarabilityの議論につながっていきます)(ガバナンスという用語が、2レイヤーに分かれていることの注意)

私の認識では、現在メジャーなパブリック・チェーンといえば、ビットコインとイーサリウムしか存在しません。先述のVladは、イーサリウムのコア開発者です。メジャーなイーサリウムのガバナンスは、決定的に重要です。

なのでVladは、ガバナンス問題について、さまざまに発信してきました。日本語で読めるものは、これです。

indivさんは、VladやVitalikを読んで、日本語で最初に本格的なガバナンスの議論をしています(オープンなネット上において。私の調べたかぎりでは)。

indivさんは、DASHについても、以下のスレッドで聞いています。

ガバナンス問題の一部として、現在cryptolaw(暗号律)に関しての議論が始まっています。

日本語で読めるものは、石井荘太さんの記事があります。

またsgさんが、ツイートでまとめています。

冒頭で触れたとおり、スマートコントラクト(≒DApps)は、その永続性、対検閲性、対改竄性を特徴にしています。だからこそ強制力をもち、我々は人間を信用しないでもP2Pで価値を移転できました。

しかしこのことは、破滅的なDAppがチェーンに乗っかったとしても、それを排除できないことを意味します。個人的な妄想では、「世界中のインターネットからセキュリティの脆弱なコンピュータを探しだし、バックドアをしかけるDApp」みたいなものをイメージします。なんかヤバそう……

そんなDAppが生まれたとして、現在の社会は、「まあ仕方ないよね」と受けいれられるでしょうか。無理でしょう。The DAOのときのようにハードフォークするかもしれません。しかし、社会基盤になるはずのイーサリウムが、巻き戻ってしまったら困ります。袋小路です(このことは、児童ポルノが書きこまれたりしても、同じことです)。

なんとかして、回復手段を組み入れたい。でも、スマートコントラクトの特徴を毀損してしまう......このジレンマよ。

スマートコントラクトのメリットは、デメリットと表裏一体です。「どうにかしなきゃいかん」というのがVladで、「いや、どうしようもないでしょ」というのがサイファーパンク的な発想です。

簡単にまとめると、これが暗号律(cryptolaw)の議論です。ただし、Szabo’s lawについての。

Vladは、暗号律には三つあると言います。

(明日に続く)

サポート金額よりも、サポートメッセージがありがたいんだと気づきました。 読んでいただいて、ありがとうございました。