城より高層ビルより、地べたがいい


2023.2.18

花粉症が始まってしまった。目のゴロゴロ感、あたまのぼんやり感、そして鼻のむずむずがひどい。鎌倉駅まで歩く。小春日和を満喫しようと沢山の人が街に出ている。自然食品のスリービーンズできのこを買う。探していた練りごまはなかった。発酵食品で美味しい韓国料理を出しているHANG-GUさんでベジビビンバ。ほんとうにここのビビンバは美味しい。発酵食材がふんだんに使われているからか、作っているお姉さんの手がすばらしいのか、生きているものを食べている味がする。既製品の味じゃない、ちゃんと個性のある、奥の深い味。

HANG-GUの隣の隣にあって、入り口は奥まっているので看板がないと見つけられない、先月知ってファンになってしまったカフェPlateroの店主さんがひらいている読書会に参加。時間をテーマにそれぞれが持ち寄った本の紹介をする。おなじようなものを好きなひとたちがちいさく集まって、ああだこうだと好きなものの話を延々としている空間はとても幸せだなあと思う。本が好きだと人生が豊かになる。

氣流の先生の治療があるので、名残惜しい気持ちのままひと足先に抜けて伊東行きの電車に乗る。なかなか予約の取れない先生だけど、11月から月一程度でやってもらえているおかげで左みぞおちの痛みもだいぶ減ってきた。先生のようなつねに患者と真っ向勝負の人がいてくれるのはほんとうに希望になるしうれしい。母と父が車で来て、私の大好物の中華ちまきを渡してくれた。けんちん汁も作ってジャーに入れてきてくれたが、治療のすぐあとだったので食べる気にならず申し訳なかった。母は加齢によるものらしいが左手の親指がずっと痛いそうで治療のため手袋を巻いていた。その状態で作ってくれたのだと思うとありがたみが増した。車の中で少しだけ話して鎌倉へとんぼ帰り。


2023.2.19

大山、伊勢原方面にでかける。道中、久しぶりに虹をみる。20度くらいまで気温があがるといっていたのでおでかけ日和だとうきうきしていたのに、雨は降り出すしあまりに風がつよく立っていられないほどでとても寒い。雨具と防水の帽子をつけながら移動。花粉で鼻もぐずぐず、生理で体もなんとなく浮腫み気味で重たい。

行ってみたかったひなたマルシェの倉庫で食材や日用品を買い出し。段ボールのまま大量の商品がずらっと並べられている。倉庫なので全品10パーセントオフとのことで、チョコ好きのパートナーは何種類かのオーガニックチョコを大人買い。陽の入らない食品倉庫のなかはひんやり冷たい。

すぐ近くでヤギが数頭飼われている。ほっかむりをした農作業中らしき地元のおばあちゃんが葉っぱをどっさりもってくるやいなや「メェ」と鳴いてものすごい勢いでみんな食らいついた。近所の子どもたちも集まってきて、たのしそうに餌やりをしている。

そのへんの道の地べたに、着古したはんてん姿のかなり高齢と思われるちいさなおばあちゃんがちょこんと座り込み、足をぶらぶらさせながら野菜やみかんを売っている。はい全部わたしが育てましたんです、お昼になったら息子が迎えにくるので引き上げるんです。こういう人に会うと、人間よりどうぶつみたいだといつも思う。この地に根を張り自分の手で食べるものと暮らしを作りあげ、それをしぶとく繰り返して生きてきた人。なんかもうかなわない。何もかなわない。おばあちゃんの分身のようなはっさくを買った。道の反対側からおばあちゃんまたね、と手を振るとはいい、と言った。雨や風をもろともせず、おばあちゃんは足をぶらぶら揺らして子どもみたいに座っている。

茅葺屋根に黒と朱色の装飾が珍しい本堂をもつ日向薬師をみたあと、ロープウェイで大山阿夫利神社へ。乗り場までのこま参道が縁日みたいでちょっとたのしい。悪天候で客はほとんどいないが、その静けさもまたいい。こじんまりとした雰囲気がどこか江ノ島の参道に似ている。自然食品の店で玉こんにゃく串を買い、軒下の席でいただいた。味がよく染みていて美味しい。目薬の木をブレンドした麦茶も出していて、冷えた体に滋養たっぷりの香ばしい味が沁みる。

神社に着くと本降りになったので、食堂で腹ごしらえをする。味噌こんにゃくに焼きおにぎり、むらさきいもとよもぎと迷ってかぼちゃだんごを食べる。パートナーはけんちんうどん。汁だけもらったがよく温まる。食べ終わるとやっと雨がやみ、雲間から陽がさしてきた。さっきまで霞がかって見えなかった眺めはさすがに圧巻。江ノ島がちょん、と浮いている。上からこう見下ろすのはへんな気持ちがする。

森まゆみさんが本で、男の人はなんでも上から眺めるのが好きだ、というようなことを言っていた。たしか城の話だったかもしれない。昔から城や高層ビルを作りたがるのはおそらく決まって男の人だと思うのでたしかにそういう男性は多いのかもしれないと思う。私は上からなにかを眺めるのはそんなに好きじゃない。ずっと見ていると不安定な気持ちになるから見ても一瞬でいい。日常の景色としてはぜんぜん求めていないので高層マンションにはきっと住めないと思う。飛行機に乗ってはるか下に見知らぬ町を見下ろすときはたしかにふしぎな感覚になってそれはぜんぜんきらいじゃないけど、見下ろすよりそこに立って歩くほうがずっといい。

下山は歩きで。なかなか急な階段がしばらくつづく。今度天候とからだのどちらもコンディションの良い時に頂上まで登りたい。ロープウェイの往復券を払い戻して浮いた分の千円でお土産を買う。大山こんにゃくと漢方薬湯。さきほどの玉こんにゃくのお店で。大山はそのきれいな湧き水で作るこんにゃくと豆腐が有名らしく、どのお店も田楽や豆腐料理を出している。三月の豆腐まつりにも来てみたい。

たまたま見つけた七沢という場所が気になり、温泉宿の元湯玉川館の日帰り入浴へ。明治の創業以来「健康な体づくりに役立つ宿屋」をコンセプトに長い歴史があり、映画やドラマでも何度もロケ地になっているらしい。総檜のこじんまりしたお風呂、すべて木でできた温かみある脱衣所にほっとする。お湯はすこしだけ濁っていてつるつるしている。築百年以上の古い建物とひっそりとした風情が素敵で、時間の流れからそっと外れたような空気は箱根の秀明館にどことなく似ている。湯上がりの喫茶もレトロでいい。

帰り道、大磯方面に南下した先にある、伊勢原で人気店らしい回転寿司で夕食。さすが、里山の夜は真っ暗でひっそりしてだれもいないのにここだけ人口密度がめちゃくちゃ高い。小田原と網代から仕入れている地魚セットが新鮮で美味しかった。注文が入ってからさばく魚や貝もあるらしい。どうやらトマト推しのようで自家製トマトジュースがあったり、卵焼きは一つ一つ焼き上げていたり、寿司以外にも食への愛情と気配りを感じるのも嬉しい。やっぱり食事は餌じゃない。体と心と明日を作るもの。そういうことをわかっているお店に出会えるのは幸せなこと。ホームセンターに寄って春らしい鉢植えをふたつ、除湿剤など日用品を買って帰宅。

虹のうえをすべってみたい
元湯玉川館の喫茶




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