続・時代劇レヴュー㉓:天と地と(1969年、1990年)

タイトル:①、②天と地と

放送時期:①1969年1月~12月(全五十二回) ②1990年6月

放送局など:①NHK ②角川春樹事務所(製作)、東映(配給)

主演(役名):①石坂浩二(上杉謙信) ②榎木孝明(上杉謙信)

原作:①、②:海音寺潮五郎

脚本:①杉山義法 ②鎌田敏夫、吉原勲、角川春樹


海音寺潮五郎の代表作の一つで、越後の戦国大名・上杉謙信の半生を描いた『天と地と』とは、過去に三度映像化されている。

その最初の事例が今回取り上げる二作品のうちの①であり、これはNHKの所謂大河ドラマの第七作目の作品である。

大河ドラマには初めて起用された杉山義法が脚本を務め、原作通り謙信の誕生から第四回川中島の戦いまでを描いているが、最後の二話で原作では描かれなかった謙信の後半生を扱っている。

ただし、この作品は他の最初期の大河ドラマ諸作品がそうであるように、当時の映像がほとんど存在せず、現存しているのは第二回と第五十回、および総集編前後編のみである(ただし、第二回は部分現存で、総集編の前編は視聴者からの寄贈で画質が悪く、冒頭の20分ほどが欠落している)。

このうち、現在第五十回がDVD化されて、現在でも比較的視聴が容易である。

そのため、ここで書く①のレヴューは、あくまで第五十回に限った話である。

この五十回は、「川中島の章 その四」と言うサヴタイトルで(本作は現在の大河ドラマのように一話ごとに異なったサヴタイトルではなく、全部で十の章からなり、それを「その一」「その二」のように何話かに分割したサヴタイトルとなっている)、本作のクライマックスである第四回川中島の戦いのうち、妻女山を下山した上杉軍が八幡原の武田本戦と合戦を開始し、信玄と謙信(作中では「上杉政虎」)の一騎打ちを経て、謙信が越後に引き上げる途中に妙高の裾野で宇佐美定行から恋人・乃美の死を聞く所までが描かれている(ちなみに、この謙信が乃美の死を聞く場面は、原作のラストシーンである)。

謙信を若き日の石坂浩二、信玄を大河ドラマの常連となる高橋幸治が演じているが、双方ともに役によくはまっており、脇を固める面々でも宇佐美定行役に宇野重吉、謙信の旗本・鬼小島弥太郎役に竹村市之丞(現・中村富十郎)、他にも第五十回には登場しないが、謙信の父・長尾為景役は滝沢修、母の袈裟役は新珠三千代など、豪華な顔ぶれが出演している。

また、若き日の杉良太郎が織田信長役で出演しているのも目を引く。

配役的にも、また本作が『天と地と』を完全に映像化している唯一の作品であるため、今後映像の発見や寄贈が待たれる作品である。

ただ、本作の五十回を見た上で気になるのは、かなり史実と異なる創作が見られる点である。

その最たるものは、謙信の従兄で姉婿である長尾政景が、川中島の戦いに従軍し、しかも戦死してしまう所であろう(史実では政景はこの時は留守居役で春日山におり、その死もそれより数年後のことである)。

当時のことを知らないので、この創作がどのような意図で行われたのかは不明であるが、大河ドラマが意外と史実と違うと言うのは現在も初期も共通する傾向であることを示す好例かも知れない。


引き続き②であるが、こちらは所謂「角川映画」の一作として1990年の6月に公開されたもので、原作のうち後半部に当たる謙信の長尾家家督継承直後から、第四回川中島の戦いまでを描いたものであるが(ちなみに、原作の前半部は映画の公開に先行して同年4月に日本テレビの「金曜ロードショー」枠でスペシャルドラマとして放送されている。そちらは「時代劇レヴュー④」参照)、原作と異なり信玄と謙信の戦いにのみスポットが当てられていて、それ以外のエピソード(例えば、謙信の上洛や小田原攻めなど)はほぼ登場しない。

謙信役には、当時まだそれほど知名度のなかった榎木孝明が抜擢され、榎木にとっては本作が出世作となり、その後は大河ドラマを始め数多くの時代劇作品に出演している(本作は当初は謙信役には渡辺謙が予定されていたが、撮影中に急性白血病で倒れ、角川が代役としてオファーした松田優作もスケジュールの関係で出演出来ず、急遽オーディションで榎木が抜擢された)。

信玄役は津川雅彦、宇佐美定行役には渡瀬恒彦のほか、風間杜夫、大滝秀治、岸田今日子など、ワンシーンしか登場しない役にも知名度の高い俳優を当てるバブル期の映画ならではの豪華キャストで、渡瀬恒彦と昭田常陸介役の伊武雅刀は、先行するドラマ版でも同じ役で出演している。

本作は巨額の予算を投じ、合戦シーンはカナダで行うなど映像的には大いに見どころがあるが、反面ストーリー的には内容が希薄で意味不明な描写も多く、かつ宇佐美定行が謙信に謀反を起こした末に謙信に討ち取られてしまうなど、史実とも原作とも反する無意味な創作も多い(原作との相違で言うと、他にも原作では登場していない、と言うか、海音寺が意図的に登場させなかった山本勘助が作中では登場している)。

後、これは作品の質を落とすものではないが、映像的にわかりやすくするために、武田軍の甲冑を赤、上杉軍の甲冑を黒一色に統一させたり、映像に迫力を出すためかやたらと騎馬兵が多かったりするなど、結果として戦国時代の合戦としてはあり得ない描写になってしまったことは、シーンの迫力に感嘆しつつも、個人的にはどこか白けてしまう。

ラストの信玄と謙信の一騎打ちは、『甲陽軍鑑』によるものではなく、上杉側に立って書かれた軍記物である『川中島五箇度合戦之次第』の描写を元に創作されたもので、川中島の戦いを描いた映像作品としては極めて珍しいチョイスであり、その点は面白い(『甲陽軍鑑』の一騎打ちとて到底史実とは思えないから、個人的にはもっと『川中島五箇度合戦之次第』の描写を採用する作品があっても良いと思うのだが)。

また、これは先行するドラマ版にも言えることであるが、原作のシーンの改変の仕方がうまい所もあり、個人的にそう思うのは、前述の乃美の死の知らせが、原作とは異なり謙信が妻女山を下る直前に届くが、これによって謙信率いる上杉軍が、武田軍を蹴散らしながら越後の引きあげると言う映画らしい壮大なヴィジュアルのラストシーンになっている。

心の恋人であった乃美の死をもって物語を閉じるのは、小説としては効果的なラストなのかも知れないが、映像で見せるドラマや映画としては合戦の終わりで締める方が、見る側もすっきりと見終われるのでその点ではうまい改変だと思う(ただ、乃美の死を悼んで謙信がその場で剃髪してしまうのは、個人的にはいただけない)。

このように、本作は内容的にはまったくと言って良いほどほめる所がなく、海音寺潮五郎の『天と地と』を読んだ後で見るとがっかりすると思うが、部分的にはうまく作っている所もあるため、一見する意味はあるように思う(後、小室哲哉が担当している音楽は文句なく良い)。

ソフト化の面でも、VHS、DVDともにリリースされていて視聴は容易である。


最後に、本作の三番目の映像化で、かつ最も新しいものとしては、2008年1月6日に、テレビ朝日でドラマ化されたものがあるが(主演の謙信役は松岡昌宏、脚本はジェームス三木が担当)、こちらは2時間ちょっとの作品であるために、原作のダイジェスト的な作品になってしまい、内容的にはジェームス三木が脚本を担当したとは思えないくらい雑なものであり、さしてレヴューする意味もないので紹介だけにとどめる。


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