金井一弘

闘病記の専門家として、良い闘病記の啓発活動をしています。闘病記や障がいのある人の本を作…

金井一弘

闘病記の専門家として、良い闘病記の啓発活動をしています。闘病記や障がいのある人の本を作る出版社「株式会社星湖舎」の代表取締役です。また、患者やその家族を支援するボランティアグループ「チーム闘病記」の代表でもあります。

最近の記事

第11回<番外編1>障がい者が働く姿を紹介した2冊の本

今回は少し視点を変えて、病気や治療についてではなく、障がい者の「就労」について書かれた本を2冊紹介したいと思う。ここ3年くらいの間に出版された本なので、登場する事例は新しく、参考にできる内容だと思う。 ●『コロナ禍を契機とした障害のある人との新しい仕事づくり』  この本の著者である一般財団法人たんぽぽの家は、50年近く続く障がい者の音楽イベント「わたぼうし音楽祭」の主催者であり、障がい者の社会活動を支援する団体として有名である。  その団体が、コロナ禍の2020年11月か

    • 第10回『リハビリ医の妻が脳卒中になった時―発症から復職まで―』長谷川幸子・幹共著

      このコーナーでは脳の病気の良い闘病記を紹介しているが、今回は脳卒中の闘病記における古典的名著を書かれた著者が、実はリハビリテーション科の医師でもあり、最近、生きる力を引き出す「リハビリ」をテーマにした岩波新書を出されたので、それもあわせて紹介したい。 ●1999年3月に発刊された脳卒中の古典的名著  大学病院の看護婦長だった著者の妻・幸子さんは、1993年2月3日に自宅で夕食の準備中に脳卒中(脳出血)で倒れた。一命は取りとめられたが後遺症が残った。その治療からリハビリまで

      • 第9回『あのて、このて――高次脳機能障害のキセキ』伊藤尚子著

        重度の高次脳機能障害を負った息子を支える母親が書いた闘病記。発病の経緯から就労するまでを描いているので、高次脳機能障害の子を持つ親にはとても参考になる1冊だ。 ●突然襲った息子の不運にただうろたえるだけの母親  2005年10月2日、埼玉県で開催されたテニス大会のプレー中に、大学生だった息子遼輔君は心臓発作を起こした。  居合わせた看護師の友人による懸命の心肺蘇生のおかげで一命は取り留めたが、5日間の昏睡状態の後、意識を取り戻した彼には重度の高次脳機能障害が残った。  医

        • 第8回『山手線で心肺停止! アラフィフ医療ライターが伝える予兆から社会復帰までのすべて』熊本美加著(漫画:上野りゅうじん)

          脳卒中や事故による脳損傷から高次脳機能障害になった闘病記はたくさん出版されている。しかし、心肺停止による低酸素脳症から高次脳機能障害になった闘病記は数が少ない。久しぶりにその部類の闘病記が出版されたので紹介したい。 ●急病は他人事ではない!山手線で突然心肺停止となった!  著者は52歳の医療ライター。2019年11月19日、仕事の打ち合わせで乗った山手線の車内で突然心肺停止となった。冠攣縮性(かんれんしゅくせい)狭心症による心肺停止だった。  救命処置のおかげで一命は取り

        第11回<番外編1>障がい者が働く姿を紹介した2冊の本

        • 第10回『リハビリ医の妻が脳卒中になった時―発症から復職まで―』長谷川幸子・幹共著

        • 第9回『あのて、このて――高次脳機能障害のキセキ』伊藤尚子著

        • 第8回『山手線で心肺停止! アラフィフ医療ライターが伝える予兆から社会復帰までのすべて』熊本美加著(漫画:上野りゅうじん)

          第7回『壊れた脳 生存する知』山田規畝子著

          闘病記の場合、もし同じタイトルで単行本と文庫本があるのならば、迷わず文庫本をお勧めする。なぜならば、皆さんが知りたがっている出版されてからのその後、すなわち後日談が、文庫本には必ずといってよいぐらい書き加えられているからだ。今回紹介するのも文庫本の方だ。 ●タイトルが社会に与えたインパクト  単行本の初版が発行されたのが2004年2月26日である。  その当時、脳に重篤な病気を患った医師の書いた闘病記など、ほとんど存在しなかった。  さらに、「脳が壊れた」しかし「知は生存

          第7回『壊れた脳 生存する知』山田規畝子著

          第6回『脳卒中患者だった理学療法士が伝えたい、本当のこと』小林純也著

          著者は脳卒中者と健常者が垣根なく楽しめるイベント「脳卒中フェスティバル(脳フェス)」の代表者。脳フェスは2022年には映画も作成し、意気軒昂な集団だ。この本は自らが脳梗塞となり、理学療法士を目指した青年が、熱い熱い思いを語った1冊となっている。 ●昔の自分と比較してしまう切なさからの脱却  本文は2部構成となっている。  part1は「患者となった僕が伝えたい、本当のこと」。  病気発症から、ボクサーになるという夢を諦める葛藤と、理学療法士になるという新たな夢を持つまでの

          第6回『脳卒中患者だった理学療法士が伝えたい、本当のこと』小林純也著

          第5回『脳梗塞を生きる 改編「脳梗塞の手記」』菊池新平著

          人は実に傲慢な生き物である。病気に対して「自分だけは大丈夫」と思いたいのだ。この本の著者もそうだった。その著者がある日突然脳梗塞になり、自省と共に貴重な闘病記を残した。脳卒中が他人事ではないことを肝に銘じて読んでほしい。文章はちょっと辛口である。 ●兆候を見逃さないこと  2015年3月16日夜8時半、帰宅して玄関のドアを開けた著者を見た妻は救急車を呼んだ。それほど著者の顔が異常だったのだ。  搬送された病院で脳梗塞と診断された。  不摂生とはわかりつつも会社帰りには同僚

          第5回『脳梗塞を生きる 改編「脳梗塞の手記」』菊池新平著

          第4回『Keep your smile 半身麻痺になってしまった女の子が綴る、ハッピーでいるための15のコツ』momoちゃん著

          闘病記を探している人から「明るい闘病記はありませんか?」と聞かれることが多い。気持ちが前向きになる闘病記を読みたいというリクエストだ。そんな人のために今回の本を紹介する。著者は21歳で文章は弾けるように明るい。きっと読者の心も明るくなるだろう。 ●脳動静脈奇形が破裂  高校3年生になる直前の2015年4月1日、地元の佐賀から東京の吉祥寺に住む姉のところへ友人と遊びに行った。  ディズニーシーを満喫した翌朝、トイレに行ったその時、激しい頭痛に襲われその場に倒れて痙攣する。

          第4回『Keep your smile 半身麻痺になってしまった女の子が綴る、ハッピーでいるための15のコツ』momoちゃん著

          第3回『トラウマティック・ブレイン ―高次脳機能障害と生きる奇跡の医師の物語』橘とも子著

          頁数も多く厚みのある本だが、読み始めると引き込まれて一気に最後まで読んでしまった。事故から努力して医学部に入り、内科医になるまでのドラマ性もあり、つまらない小説よりもはるかに面白い。壮絶な闘病の記録を、よくぞ残してくれたと感動する1冊だ。 ●16歳で交通事故に遭遇  1978年2月5日、高校1年生だった著者は自転車で模擬試験会場へ向かっていた時に、反対車線から飛び込んできた自動車に突っ込まれ、前輪が原形をとどめないほどの交通事故に遭う。全身に瀕死の重傷を負い、1か月間意識

          第3回『トラウマティック・ブレイン ―高次脳機能障害と生きる奇跡の医師の物語』橘とも子著

          第2回『失語症者、言語聴覚士になる -ことばを失った人は何を求めているのか』平澤哲哉著

          脳に何かがあってからST(言語聴覚士)になった人や、STになってから脳に何かがあった人の書いた闘病記は、どちらも貴重な記録であり、多くの人に勇気を与える。今後、その多くを紹介したいが、今回は古典といえる1冊を取り上げる。 ●失語症とは孤独病?  22歳で大学生だった著者は1983年9月に交通事故に遭い、左肩裂創、左側頭部陥没骨折を負う。  CT検査で硬膜下血腫と脳挫傷が認められ緊急手術。一命をとりとめるが意識障害、記憶障害などの困難が次々と襲いかかる。  懸命なリハビリで

          第2回『失語症者、言語聴覚士になる -ことばを失った人は何を求めているのか』平澤哲哉著

          第1回『不運を不幸にしない ―高次脳機能障害との共生を』佐栁進著

          ●陣痛中にくも膜下出血  著者は厚生労働省の役職を務め、退職後は2カ所の病院長を経験した医学博士。その娘・ひかりさんが初めての出産のため、山口県の著者宅に里帰りしたのは32歳の時。当時、著者が院長を務める国立病院機構関門医療センターで行うことにした。  2014年6月30日(月)、計算通りの出産予定日に病院長室で報告を待っていた。すると、緊急挿管、至急病室に来てほしいという一報が入った。「コード・ブルー。コード・ブルー。〇〇病棟〇〇号室」という緊急放送が院内に響いた。  見

          第1回『不運を不幸にしない ―高次脳機能障害との共生を』佐栁進著

          ご挨拶

          私は闘病記の専門家です。年間150冊ほど出版される闘病記を読んで、良い闘病記を紹介しています。 闘病記には残念な(悪い)闘病記がたくさんあります。5割以上が残念な闘病記です。 そのため、良い闘病記を選んで紹介することにしています。 良い闘病記とは、 ①医療情報(治療方法や手術の内容など)がきちんと書かれていること ②家族、親戚、友人、会社、学校、近所、医師、看護師など人との関わりが描かれていること この2点が重要なポイントです。 一方、残念な(悪い)闘病記とは、 ①宗教へ