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第6回『脳卒中患者だった理学療法士が伝えたい、本当のこと』小林純也著

著者は脳卒中者と健常者が垣根なく楽しめるイベント「脳卒中フェスティバル(脳フェス)」の代表者。脳フェスは2022年には映画も作成し、意気軒昂な集団だ。この本は自らが脳梗塞となり、理学療法士を目指した青年が、熱い熱い思いを語った1冊となっている。

●昔の自分と比較してしまう切なさからの脱却

 本文は2部構成となっている。
 part1は「患者となった僕が伝えたい、本当のこと」。
 病気発症から、ボクサーになるという夢を諦める葛藤と、理学療法士になるという新たな夢を持つまでの自分史となっている。
 脳卒中を発症してどん底だと思えた時、支えてくれたものは「家族、仲間、夢」の3つ。人は人とのつながりの中で生きていると悟った。
 そこで、入院中は孤独だった著者が、退院後は積極的に脳卒中の患者と交わる。
 その中で、あることに気が付く。
「能動的な脳卒中経験者は皆さんポジティブだということ」
 さらに、そんな患者に3つの共通点があることを発見する。
①「社会的役割がある」
②「利他的な行動に報酬を感じる」
③「仲間がいる」
 この3点が揃っている脳卒中経験者は、キラキラした表情をしているのだ。
 これはとても大切な示唆だ。

●医療職の当たり前は患者にとっての当たり前ではない

 part2は「理学療法士となった私が伝えたい、本当のこと」。
 この部分は専門的で少し難しく、理学療法士やそれを目指している人向きの内容となっている。ただ、脳卒中になった当事者からの指摘がふんだんにあり、専門の教材とは違った視点で読めるのが魅力である。深くかつ多面的に脳卒中を学びたい人にはお勧めだ。
 運動麻痺・感覚障害・運動失調・高次脳機能障害・患者の心の中、の5つの項目の「本当」が解説されている。
 セラピストとして患者の主観を大切にして、患者が主体性をもって能動的に課題に取り組めるように関わること、それが何より重要だと説く。
 そのためにも、リハを提供する前に、医療職が率先して体験していく姿勢が必要だと諭す。

●回復限度なんてない!

 医療者がよく口にする「回復限度(機能の回復には限度があること)」。そんなものないよ!と著者は脳卒中の経験者として、さらには多くの患者を診てきた理学療法士として、声を大にする。
 もう一つ「新しく歩み出した自分を好きになること」も公言する。
「脳卒中は私から自由を奪っていきましたが、代わりに誇りを与えてくれました」「かけがいのないたくさんの出会いもくれました」と述懐し、「私は病前の人生よりも現在の人生のほうが大好きです」とまでいい切る。
 どん底から這い上がり、夢を実現した当事者の、心に突き刺さる生きた言葉が詰まった本だ。

■書籍情報
小林純也(こばやし・じゅんや)著『脳卒中患者だった理学療法士が伝えたい、本当のこと』 2017年9月19日 株式会社三輪書店刊 定価2,750円⑩

<初出>
NPO法人Reジョブ大阪発行の情報誌「脳に何かがあったとき」2022年6月号

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