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第2回『失語症者、言語聴覚士になる -ことばを失った人は何を求めているのか』平澤哲哉著

脳に何かがあってからST(言語聴覚士)になった人や、STになってから脳に何かがあった人の書いた闘病記は、どちらも貴重な記録であり、多くの人に勇気を与える。今後、その多くを紹介したいが、今回は古典といえる1冊を取り上げる。

●失語症とは孤独病?

 22歳で大学生だった著者は1983年9月に交通事故に遭い、左肩裂創、左側頭部陥没骨折を負う。
 CT検査で硬膜下血腫と脳挫傷が認められ緊急手術。一命をとりとめるが意識障害、記憶障害などの困難が次々と襲いかかる。
 懸命なリハビリでやがて大学に復学するまでになるも、失語症が残った。
 コミュニケーションが取れないことから友人たちが離れていった。言葉が思い出せず話し始めても尻切れトンボ。
 小説や新聞も意味が取れず、読むのに時間がかかった。日記や手紙も時間がかかり、誤字だらけ。
 教員採用試験や就職試験にも失敗し、ホテルの客室清掃のアルバイトに就く。
「ちっとも笑わなくなったね」と母が心配した。

●STが国家資格になる前夜

 事故から3年目、東京での一人暮らしにピリオドを打ち故郷山梨に戻った。
 ある病院の事務職募集に応募した。その系列病院で働くSTとの出会いが運命を変える。そして、「東京失語症友の会」の例会で出会った遠藤尚志先生から具体的なアドバイスを受け、STを必要としていた病院に再就職し経験を積んでいくことになる。

 この本の特筆すべき点は、STが国家資格として制定される時期とシンクロしていることだ。PT(理学療法士)やOT(作業療法士)が、すでに国家資格として医療点数を稼げる職種として優遇されていた時期に、ST不在というリハビリテーション病院が多々あり、経験を積むことでSTの仕事に就けた時代の状況が詳しく記されている。まさに、STの歴史を証言している内容だ。
 STの第1回国家試験は1999年3月。著者も受験し4003名の合格者の1人となった。

●訪問リハビリの嚆矢

 高齢化が進み、障害者を迎える受け皿が病院から地域社会へ移っていく。
「障害はあるけれど、私は良い人生を送っていますよ」といえる地域の環境作りが必要と著者は訴える。自らそれを実践するために、病院を辞め、訪問ケアの道を歩み出す。
 この本には失語症の患者だった視点から、患者の立場に立った指摘がたくさんある。
 自分がリハビリ中に経験して嫌だったこと、例えば「あなたの名前は?」「これは何?」という質問を無造作にされること。うっかり年配の患者にしてしまい、怒りをぶつけられた失敗談などは参考になる。

 失語症者の思いが詰まったこの闘病記を、一番読んでほしい読者、それは日々リハビリに励む患者と向き合い奮闘している、STだと思う。

■書籍情報
平澤哲哉(ひらさわ・てつや)著『失語症者、言語聴覚士になる -ことばを失った人は何を求めているのか』 2003年12月10日 株式会社雲母(きらら)書房刊 定価:本体1800円+税

<初出>
NPO法人Reジョブ大阪発行の情報誌「脳に何かがあったとき」2022年2月号

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