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第8回『山手線で心肺停止! アラフィフ医療ライターが伝える予兆から社会復帰までのすべて』熊本美加著(漫画:上野りゅうじん)

脳卒中や事故による脳損傷から高次脳機能障害になった闘病記はたくさん出版されている。しかし、心肺停止による低酸素脳症から高次脳機能障害になった闘病記は数が少ない。久しぶりにその部類の闘病記が出版されたので紹介したい。

●急病は他人事ではない!山手線で突然心肺停止となった!

 著者は52歳の医療ライター。2019年11月19日、仕事の打ち合わせで乗った山手線の車内で突然心肺停止となった。冠攣縮性(かんれんしゅくせい)狭心症による心肺停止だった。
 救命処置のおかげで一命は取りとめたものの、低酸素脳症となり高次脳機能障害が残った。注意力・記憶力の低下、妄想や暴言などが激しく出た。
 その後、主治医やリハビリ病院の適切な対応で、著者は社会復帰するまでに至る。その過程で登場する作業療法士や理学療法士だけでなく、心理療法、さらには臨床心理士の仕事についても触れられていて参考になる。
 著者は3年前に母親を乳がんで亡くしていた。独身だった著者を親身に介護してくれたのは妹だった。独り身への痛切な警鐘と、家族の大切さを訴えている。
 それと、もしもの時のために、身元と連絡先が分かるものを身につけておくことも、経験者として提言している。

●マンガ半分、文章半分で構成されたコミックエッセイ

 本の中身は、まずマンガにてストーリー(時系列の物語)を描いている。
それに対して、用語の解説も含め、文章にて状況を詳しく説明している。
マンガと文章の量は、ほぼ半分ずつである。
 定価の安さからしてジャンルとしては、体験をマンガで表現するコミックエッセイといえるだろう。
 それ故、理解しやすいのだが、マンガ特有のオーバーなアクション描写があり、シニア世代にはとっつきにくいかもしれない。若者向けの闘病記といえる。
 ただ、リハビリのことも描かれているし、ペットのこと(著者の場合は3匹の猫)や携帯電話をパスワードでロックしているとまったく役立たずになることなど、非常時の対応についてもいろいろ書かれているので、シニア世代の人にも知ってほしい内容である。
 また、近所や地域とつながること、居場所を求めて積極的に動くことの大切さも書かれていて、年齢に関係なく読んでほしい。

●自分だけは大丈夫と思っていないか?!

 医療ライターの著者は、年間約8万人、1日に約200人、7分に1人が心疾患の突然死で亡くなっていると警告する。
 自身の2週間前からあった胸の痛みが、心疾患の予兆だったと猛反省する。
 突然やってくる病(著者の場合は心肺停止)とその後に残る後遺症(著者の場合は高次脳機能障害)の厄介さを知らしめる、とても意義のある闘病記である。
 救命処置への啓蒙と普及という点でも、良い闘病記が出版されたと思っている。

■書籍情報
著者:熊本美加(くまもと みか)、漫画:上野りゅうじん
『山手線で心肺停止! アラフィフ医療ライターが伝える予兆から社会復帰までのすべて』
2022年6月20日 株式会社講談社刊 定価1,320円⑩

<初出>
NPO法人Reジョブ大阪発行の情報誌「脳に何かがあったとき」2022年9月号

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