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急いては事を仕損ずる話/緊急入院体験記

 急かされることが苦手です。これまでの人生で急いで/慌てて上手くいった試しがありません。
 かつてオンライン・チェスのレート戦に明け暮れていた頃、私は高い勝率を誇りハイレートを維持していました。しかし1手あたりに制限時間を設けると、途端にミスが目立つようになり思うように勝てません。測ってみると思考時間にはほとんど差がないにも関わらず、です。

 メンタルの問題であることは明白で、これは私の「弱点」のひとつと認識しています。

 事件は、つい先日起きました。

 夜、入浴中の妻(+2歳児・0歳児)が叫びます。

「助けて!すぐ来て!!」

 只事ではありません。異様な気配を感じ私は風呂場に急ぎます。

「オムツ持ってきて!!」

 成程、ウンの者が来よったか。私はおむつを取り出します。颯爽とオムツを手に脱衣所に差し掛かったとき、アニメのようにツルっと滑って前のめりにバランスを崩します。

 転倒。
 握りしめたオムツそのままに、額から柱に激突しました。愛用の眼鏡は宙を舞い、なんだか頭全体が痛い。これは激痛の部類です。頭上を星が舞い、視界が赤く染まります。赤?

 眼鏡を拾おうとすると、床が赤いではありませんか。手のひら2枚分くらい血が広がっています。激痛は続き、くらくらします。あ、頭部外傷か。

 大丈夫だ、問題ない。(フラグ)

 とりあえず出血を止めようと、手に持っていたオムツを開き、ポリマー部分で額を直接圧迫止血します。数分、その場から動けない。

 妻(軍曹)に「ごめん!動けない!!血が出てて!!」というと、はぁ?みたいな感じで此方を見て、流石の軍曹も絶句します。

 息子「ひっこんじゃった…」

 すまぬ、息子よ。風呂から出てからリトライしてくれ。

 止血を確認し、鏡を見ます。ああ、3cmくらいの裂創(パックリ割れた傷)があります。ちょっと深めにみえます。これは縫合が必要です。
 意識あり、健忘なし、麻痺なし。家から一番近いのは勤め先の病院です。救急車を呼ぶほどではないし、でも受診はしたほうがいい。たしか今日は友人の救急医が当直しているはずと思い、電話をかけてみます。

「まーじかー。いいよ、おいで。」

 ありがとうスーパードクターT。
 ほどなく病院に到着し、救急外来に向かいます。もちろん一人です。これからねんねタイムな息子と娘を連れ歩くわけにはいきません。

 確かにコレは縫わないとダメだね、と言われながら、一応CT撮っとく?というノリでオーダーが入ります。持つべきものは友人ですね。ちなみに救急外来のスタッフもほぼ皆知人です。頭部CTを撮ったところでドクターTは他にも急患がいるからと席を外し、皮膚科ドクターYが登場、縫合いただくことになりました。見るからに器用そうな女医さんです。特殊性癖の方にはたまらないようなシチュエーションで、右の眉の上にできた3cm程の裂創の縫合が始まります。筋層までは到達していないけど、ここはちょっと深いですねー、なんて話をしながら5-0と6-0の糸(めちゃ細い)を使って次々と縫合を進めます。鮮やかですね。

 これが終われば帰れる…

 そう思ったとき、聞き慣れた声が響きます。

「渡邊さー、やっぱ入院でいい?」

 スーパードクターT、どういうことですか。
 どうやら先ほどの頭部CTに気になるところがあって、脳外科医と放射線科医も含めて検討した結果、「急性硬膜下血腫」の疑いありと判断されました。画像自体はすごーく微小なもので、血腫があるかどうか悩ましいくらいの所見です。

「ご存じとは思いますが、もし血腫が増大した場合、命の危険もあります。緊急手術になります。」と脳外科ドクターから説明が続きます。

 って説明軽ゥッ!?

 よろしくお願いします、お任せしますと返答。断る理由もありません。

 今のところfull code (必要時、医学的適応の範囲で蘇生処置や人工臓器、集中治療も希望)でお願いします。意識が無くなったら、判断は妻に一任します。リビングウィルは妻に伝えてあります。と答えました。

 そのまま緊急入院、止血剤の点滴が始まります。当面はベッド上で安静。移動は車椅子、トイレまでの歩行のみ許可となりました。SpO2とECGモニターを装着し、血圧は4時間毎の測定です。

 うわぁ…なにこれガチっぽい…。

 入院の旨を相方の思うさんに伝えます。
 妻には「万が一のときは息子と娘を頼む」と。
 相方には「万が一のときはnote-M1と(遺作になるかもしれない)合作記事を頼む」と。そう伝えてから眠りにつきました。

 翌朝、存外ふつうに眠っていた私は爽やかな目覚めを迎えます。頭も痛くありません。しかし回診に来た脳外科ドクターから「やはりMRIも撮らせてください」と提案がありました。

 MRIは近未来的工事現場かと思う騒音でしたが、結果、もう大丈夫だろうという判断になりました。ほどなく退院になりますが、こんな状況ではせっかくのイベントにも参加できそうにありません。凛さん、申し訳ない。

 以上、
 「急いては事を仕損ずる」の痛感エピソードでした。


 ところで鏡をみると、右眉の上に傷。眼鏡…。

 あ、これ…ハリー・ポッターだ。

 昔のあだ名を思い出します。あの頃「傷はないよ!」なんて言っていたけれど、額にソックリな傷まで出来てしまいました。

あの柱、ヴォルデ…例のあの人だったんですね。

さて、「闇祓い」に転職しましょうか。


 拙文に最後までお付き合い頂き誠にありがとうございました。願わくは、貴方が自分のペースで穏やかな生活を送ることができますように。


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