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東京のオンナ、虚しいプライド

冬休みが終わり、福岡から東京に戻る直前に空港内の本屋に立ち寄ったら平積みされた一冊の本にビビッときた。

 林真理子 『東京』

裏表紙のあらすじも読まず、中を見ることもなく直感を信じてそのままレジへ。東京の家に着くまでに一気に読み切った。

東京での人間模様を切り取った短編集。どの作品も洗練された「東京のヒト」になり、煌びやかな街に溶け込もうとする主人公たちが印象的だ。

東京出身でないことに引け目を感じている、つまり地方コンプレックスを抱えながらお洒落な洋服を纏いテレビドラマで聞くような言葉を遣い、一等地での生活や優雅な生活に憧れる女性たち。なんとなく自分と重なり合う。

上京する前からずっとずっと、私は東京のヒトになりたかった。国内では東京にしかない海外ブランドの洋服を着て、休日は流行りのカフェで友達とおしゃべりしてインスタグラムはいつも華やか。有名人と道ですれ違ったり、エリートと言われる人たちと連んで自分もその一員となる、みたいな野望が密かにあった。

地元が福岡であることが嫌だと思ったことは一度たりともないけれど、「東京の大学に行ってるんだ」と言うのはちょっぴり気持ちがよかった。ヒールで歩く表参道も、人気のカフェでバイトするのも、ジャズを聴きながら見る六本木の夜景も最高だった。

そうやって優越感に浸りながらも、東京の眩しさにかき消されないように、人混みの中で埋もれないように、必死に輝こうとしてた自分がこっそりといた。

でも3年もすると、『東京のお洒落なオンナごっこ』も、変なプライドを持った自分も虚しくて疲れる。

自惚れて誰かを見下したって、そんなの自己満足。その先にあるのは虚無。そしてふとした時に「嫌な奴になったなー」って自分で思ったりする。

お話の中に出てくる女性たちもまた、結構嫌なやつ。

東京育ちの気取った女性や育ちのいい男性に憧れるあまり、自分が見えなくなっていく。彼らの仲間入りを果たそうと仕草やライフスタイルを真似してみたり、そしてそんな自分に酔ってみたり。かと思えば、田舎コンプレックスを抱いて自分が見下されているような気持ちになったり。

私が東京で感じたことを彼女たちも感じている。

この本と出会えてよかった。自分の東京生活を表す思い出の本の仲間入り。

春からは田舎に戻る。東京のオンナとしての私はどこへ行ってしまうんだろう。いい意味で少し落ち着くかもしれない。今年のテーマはエフォートレスで自然体だから田舎暮らしくらいがちょうどいいのかな。東京のワタシに会いたくなったらこの本を読むよ。

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