マガジンのカバー画像

自選集:詩

35
密室で延焼する憎悪と、古戦場に揺れる花と。
運営しているクリエイター

#音楽

それでも進んでいきたい、薄皮でくるまれたような淡い世界を

調子に乗っていたのか また転んでしまった

格好つけてみたけど まるで似合わなかった

身分不相応な言葉たち 慌てて引っ込めた

新たに書き始めた それがいま見せてるこれだ

そこの君、少しだけ聞いていってくれよ 開いてみてくれよ

……じゃあ、準備はOKかな? 始めるとしようか

何か悲しいことがあったとする

そんなとき君ならどうする?

僕はいつもこうしてる その方法を示そうと思う

まず必

もっとみる
天使が飛んだ日

天使が飛んだ日

耳を塞いでも鳴りやまぬ罵声 外は灰色の雲と降り止まぬ雨

今日も少女は暗い部屋で 一人膝を抱えるだけ

「私は何も間違ってない! あなたが悪いんでしょ!」

「俺に偉そうな口を利くな! ぶん殴られたいのか!」

家の中ではいつも終わらぬ口論 拷問みたく傷増えていく心

今日も少女は出口のない迷路 どうやら一人取り残された模様

「いい加減ちゃんとお金入れてよ! あの子だけでも良い子に育てないと!」

もっとみる
さようなら、もう帰らぬ私のすべてよ

さようなら、もう帰らぬ私のすべてよ

春風が吹き 期待と不安に溢れた顔の若人が行き交う季節が来た
わたしはそれをただ一人見送っていた

少し昔は彼らと同じような道を歩いていた
着慣れない服と緊張気味の表情でね

月並みだけどまるで昨日のことのようだ
今はもう何も見えない 何もかもが失われて ただ佇んでいることしか出来ない

あの時に戻れるものなら戻りたいと願った
しかし同時に何度やり直してもわたしにはもう無理だと思った

共に生き 共

もっとみる
吐き捨てるような反駁の、あふれ出したような雑言の詩

吐き捨てるような反駁の、あふれ出したような雑言の詩

「あなたはそれを何年やったの?」
「頭でっかちだ」「理屈っぽい」「単なる想像」

僕が一番嫌いな言葉たち
論点をずらして反論を放棄し、人格攻撃へとシフトしているからだ

本当にあなたが十分な経験を積んでいるのなら、もっと冷静で具体的な反論ができるはずだ
まっとうな言葉や頼りになる背中で、しっかりと伝えられるはずだ

それが出来ないということは、つまり

何も伝えずに、ただ発狂してるだけの人への反応

もっとみる
虹色の絵図

虹色の絵図

「虹色だ。ああ、美しい!」誰かが言った。

どす黒いガソリンのような化学物質が辺りに塗りたくられている
樹木に、草花に、岩肌に、地面に、小屋に、

それらが光を反射して虹色に擬態している
神の創作物の絶唱が響き渡っている

どこかの工場から この地に排出されたのだろうか
その工場は 何を呑み込んで 何を吐き出しているのだろうか

何を犠牲にして 誰のためのものを出荷しているのだろうか

「虹色だ。

もっとみる
名も無き風として

名も無き風として

たくさんのシールが貼り付けられた人たちがいる
プロフィールに並んだ、肩書、経歴、受賞歴

僕はそれを見るほどにその人が誰なのか分からなくなる
その人の中身が 裸の姿が

無名の僕の嫉妬なのかもしれない
確かにそうなのかもしれない 技術が洗練されていることは理解できる

でも僕は 既存のシステムの棚に秩序よく陳列されることに我慢がならない
品行方正な嘘をつくことに我慢がならない どうしても自分に嘘は

もっとみる
多次元の朝

多次元の朝

小さな宇宙には朝があった
全ての始まりの刻印として

空気の振動が停止した
一世一代の計りの朝

燃える恋でもしているのか
ダムが決壊したような期待があふれ出す朝

悪夢の続きを目覚めてなお見るような
冷暗室の悲鳴の朝

異邦の床で目覚めた
いつもとは違う朝と、いつもとは違う自分

仮宿の友人と迎えた
喧騒の残滓が漂っている朝

しかし、
これらの朝の中には確かに殺人犯が紛れ込んでいるのだ
それを

もっとみる
こっちの世界と、あっちの世界

こっちの世界と、あっちの世界

あっちの世界では、ほとんど何もできなかったな
どんなに血を流し、身を裂く嵐を受け、混乱して道化を演じたとしても

こっちの世界では、それに比べればずっとマシだな
嘘をつかなくて済むし、だからと言って、すべてが解決したわけじゃないけど

あっちの世界では、まだ阿修羅たちが果て無き戦いを繰り広げているのかな
彼らも心の奥では気がついているから、あら探しをやめられないんじゃないか

こっちの世界でも、争

もっとみる