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こっちの世界と、あっちの世界

あっちの世界では、ほとんど何もできなかったな
どんなに血を流し、身を裂く嵐を受け、混乱して道化を演じたとしても

こっちの世界では、それに比べればずっとマシだな
嘘をつかなくて済むし、だからと言って、すべてが解決したわけじゃないけど


あっちの世界では、まだ阿修羅たちが果て無き戦いを繰り広げているのかな
彼らも心の奥では気がついているから、あら探しをやめられないんじゃないか

こっちの世界でも、争いはよくあるね
でもそれは、上手な嘘のつきかたのトーナメントではない


あっちの世界の人は、自分は全てを知っていると主張していた
でも本当は、何一つ知らなかったようだ

こっちの世界の人は、防衛的な語尾と渾身の一打に分かれている
せっかくだから、破れかぶれでも後者になりたいね


あっちの世界の人は、私達に相談して決めろと言った
私達より無能な奴隷として従属し、永遠に奉仕し続けろと言った

こっちの世界の人は、自分一人で決めろと言った
自分の心の声にこそ、耳を澄ませろと言った


あっちの世界では、白い光の中に笑顔が満ちていた
でもそれは、本性を隠す歪んだ仮面であり、他人を攻撃するための武器だった

こっちの世界では、路上に憎しみが転がっている
でもそこでは、欺瞞の二重構造が白日の下にさらされ、審判を受ける


遠くで銃声が鳴り響いた 硝煙の匂いがした
河の流れの向こう岸では、追い詰められた人が身を投げていた
しかし地上に残ったほうの人間も、同じくらい追い詰められていることが見て取れた

狭い世界しか知らないのは、誰なんだろう
閉じ込めようとしているのは、閉じ込められているのは、本当は誰なんだろう
そりゃ人間だから誰しも完璧ではないよ


あっちの世界では、地軸が歪んでいた
地面に立っているだけで、乗り物酔いしそうになったね

こっちの世界では、空を飛ぶことが出来た
でも宙を行く船は、自分が手作りしなければならない


あっちの世界では、どんどん元気がなくなっていった
もう一歩も、動けなくなっていた

こっちの世界では、勇気がわいてきた
敗北は取り戻せない喪失ではなく、むしろ闘志の雄叫び


向こうの世界は、本当に行くべき場所ではなかった
でもまずは探索から、回り道こそが最終到達点を規定する

今いる世界は、ようやくたどり着いた場所
でもそこは、始まりの場所

ずっとあなたのことを、静かにただ待っていた
待っていたんだ


(終)


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#詩 #音楽 #小説 #言葉

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