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掌篇随筆

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手のひらにのるほど小さな随筆集
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掌に収まるように短い随想集
「無人駅の駅長」
「東京模様」
「こころはペパーミント」
のなかから何篇か選び音声化しました。

耳で読むエッセイ。

他愛ない身辺雑記です。
後半は映画批評となっていますが、扱った作品が1990年代以前のものばかりです。

目次
・無人駅の駅長
・知的な経験
・早春
・烟りが眼にしみる
・宴
・印度 古往今来
・朧月
・節子とカティ
・出る
・黒と赤
・心はペパーミン

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東京模様

東京模様

ぷうぷうぷう

 ボタンを押しても反応しないもの。音量調節キーが壊れていて相手の声が蚊の鳴き声のごとく聞き取れないもの。コインを入れてもストンと釣り銭受けに落ちるばかりでかけられないもの。
 キーを強く押したり、弱く押してみたり、右方向から押してみたり、いろいろやって、やっとかかるもの。
 町から大半の公衆電話が撤去されて久しいが、残存するわすかな電話をようやく発見。

 いざ勇んでかけようとする

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無人駅の駅長

無人駅の駅長

無人駅の駅長 初冬の寒い夜。

 仕事を終えた私は田舎の小さな無人駅に着いた。
 すぐに乗れれば良いが、と思いつつ時間表を見上げると、あいにく数分前に出たばかり。30分ほど待たなければならなかった。

 駅前は雨戸を閉めた元煙草屋兼雑貨店が一軒あるのみ。古く痛んだ駅舎の木の壁のスプレー書きの落書きの文字が薄れ消えかけていた。
 そこに中に人間はいなかったが、茶トラの猫が一匹ちょこんと長椅子の上

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