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[小児科医ママが解説] おうちで健診:便秘のあれこれ。どれくらいウンチが出なかったら便秘?水分や食事はどう気をつけたら良い?薬はクセになる?

「教えて!ドクター プロジェクト」の「乳幼児健診を知ろう!」にそって、解説させていただいている「おうちで健診」シリーズ。


今回は「便秘」です。

「産まれてすぐは良くでていたのに、なんか最近、ウンチが出ない日がある。」
「ウンチを出すたび、泣いてしまう。これって便秘?」
「便秘の薬ってクセになるってホント?」

そんな、あるあるな疑問について、今回もなるべく医学的な根拠をお示ししつつ、見ていきましょう。

今回の参考文献はこちら。

●小児慢性機能性便秘症ガイドライン
(日本小児栄養消化器肝臓学会、日本小児消化機能研究会)

●UpToDate
"Chronic functional constipation and fecal incontinence in infants, children, and adolescents: Treatment"
"Recent-onset constipation in infants and children"
"Constipation in infants and children: Evaluation"
"Functional constipation in infants, children, and adolescents: Clinical features and diagnosis"


「1週間に2回以下」「便が漏れる」「出す時に痛がる」は便秘のサイン。


ウンチが出る回数やペースは、本当に個人差が大きいです。

また、お子さんのコンディションによっても変わりますが、一応、以下のような目安が提示されています。

【ウンチの回数・ペースの目安】

●産まれたばかりの赤ちゃん
生後24時間以内にウンチが出る赤ちゃんが90%。
遅くても、通常は、生後36時間以内にウンチが出る。

●生後3ヶ月くらいまでの赤ちゃん
産まれてから生後6週間くらいで徐々にウンチの回数は減ってくる。
1日2~3回くらい。
だが、母乳のたびに出る子もいれば、1週間くらいウンチが出ない子もいる(正常)。

●生後3ヶ月以後~のお子さん
1日1~2回くらい。

※参照:「小児慢性機能性便秘症ガイドライン」、UpToDate ”Constipation in infants and children: Evaluation”、 「正常ですで終わらせない! 子どものヘルス・スーパービジョン」(阪下和美、東京医学社、2017年)

また、国際的につかわれている便秘の診断基準「RomeⅢ」によると、便秘とは以下のような状態です。

【便秘の診断基準(RomeⅢ)】

●排便ペースが、1週間に2回以下
●(トイレットトレーニングが終わっているのに)週に1回、便が漏れる(失禁)
●便を出す時に痛がる
●硬い便が出る
●トイレが詰まるくらい大きな便がでたことがある
●便を我慢して足を交差させる姿勢をとる

「小児慢性機能性便秘症ガイドライン」より一部抜粋・編集

また、お子さまの成長の過程で、便秘になりやすい時期というのがあります。

【便秘になりやすい時期】

●母乳から、人工乳・ミルクに切り替えたとき。
●離乳食を始めたとき・最中。
トイレトレーニングを始めたとき・最中(2~4歳が便秘のピークともいわれています)。
●小学校がはじまって、学校で便を出すのを意図的に避けるようなとき。


なお、便秘は「遺伝する」わけじゃないですが、「ご家族の既往がある」ケースも多いです。いろんな研究を統合すると、便秘のお子さんについて、親御さんやご兄弟も便秘症状がある割合が30~62%くらいとのこと(小児慢性機能性便秘症ガイドライン)。
ご家族で便秘の方がいると、お子さんも便秘の可能性はあるかもしれません。

そして、診断基準のうち「”便が漏れる”って、便秘じゃなくて下痢じゃないの?」と疑問の方も入ると思います。

ウンチがオムツをこえて漏れたり、あるいはパンツに漏れちゃう場合、もちろん、単純に下痢のこともあります。
が、中には、硬いウンチがお尻の出口で詰まっていて、その隙間を、やわらかいウンチが漏れ出てきていることもあるのです。

この場合は、硬いウンチがそもそもの原因になっているので、ウンチをやわらかくする便秘の治療が必要になります。


水分、食物繊維、マッサージ・・・すべて、医学的なエビデンスは無い?!


さて、便秘というと、しっかり水分をとったり、食物繊維をとったり・・・といった、まずは日常生活でできることが思い浮かぶ方も多いとおもいます。

(便秘というよりは)一般的に推奨されている、水分や食物繊維の量としては、以下が挙げられています。

【(便秘にかかわらず)推奨されている、水分や食物繊維の量】

●お子さんの体重と、推奨の水分量
・5kg :500mL
・10kg :960mL
・15kg :1260mL
・20kg :1500mL

※最低ラインの目安なので、これ以上飲んでももちろんOKです。
※参照:UpToDate” Recent-onset constipation in infants and children”

●食物繊維の量
1~2歳の場合、1日あたり6.6 g。
※乳児については、摂取基準の記載なし。
※参照:厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2020年版)」
https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/000586559.pdf
https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/000586577.pdf

もちろん上記の基準で、水分や食物繊維がとれれば、それに越したことはありません。
が、お子さんの場合、親御さんの願うとおりに、飲んだり・食べたりしてくれないことも多いです。

実は、医学的には「お子さんが、これくらい水分をとったら・これくらい食物繊維を食べたら、便秘が絶対良くなります!便秘になりにくくなります!」と証明された方法はありません。

水分にからんでいえば、牛乳のとりすぎが便秘につながるんじゃないかという説や、ジュースの果糖が浸透圧になって便秘に効果があるんじゃないかという説もあります。
が、いずれもまだ議論があるところで、医学的な根拠として確立はしていません。
※なお便秘にかかわらず、お子さんに牛乳を選ぶときのポイントや、1日に飲んでいいジュースの量などは、それぞれ前記事を参照にされてください。

またとくに1歳未満のお子さんなどは、便が出ないと「お腹をマッサージして」「綿棒浣腸して」と言われた親御さんも多いと思います。
が、お腹のマッサージや綿棒浣腸も、便秘に絶対効く、という医学的なエビデンスは、これまた無いのです。

お腹さわると嫌がるんだけど。
綿棒浣腸ってちょっと怖いからやりづらいし、泣くのを見るのがつらい。
そんな場合は、ムリしてしなくてOKなんです。


もちろん、お子さんの体質はそれぞれですし、これを食べるとよく便が出る!調子が良い!という場合は、ぜひぜひ続けていただいてOKです。
お腹をマッサージされるのが好きで、ご機嫌になる赤ちゃんもいますし、綿棒浣腸して(ウンチはでなくても)ガスが出てスッキリするお子さんだっています。

でも「私がさつまいも(食物繊維)食べさせなかったから、便秘になったんだ・・・」とか「水分とってくれないから便秘なんだよ~もう~!」とモヤモヤする必要はないよ、というメッセージとして受け止めていただけたら嬉しいです。
水分とったって、食物繊維とったって、便秘になるお子さんは便秘になるし、逆もまたしかりです。


受診や、お薬での治療を考える、便秘のサイン。


・・・というわけで、水分や食物繊維、マッサージや綿棒浣腸など、のきなみお家でできる便秘対策に「エビデンスがない」と言ってしまい、じゃあどうすりゃいいんだよ、という話になってきました。笑

繰り返しになりますが、お子さんにあった食事・水分、マッサージや浣腸の仕方などがあれば、ぜひ続けていただいて良いんです!

が、今からお伝えしたいのは「頑固な便秘は、生活習慣だけではなかなか治らない」「便秘の薬を使うタイミングを逃さないで」ということです。

便秘で受診されたお子さんに、まずは水分や食事を・・・などと、生活習慣で様子を見ることは、私たち小児科医としてもよくあることです。

が、「この子の便秘は、最初から、お薬使ってあげたほうがいいな」と思う便秘のポイントがあります。

【最初からお薬を使ったほうが良さそうな、便秘のサイン】

●排便ペースが、1週間に2回以下(たとえウンチが硬くなくても)
●トイレトレーニングが終わっているのに、たびたび便を漏らす(失禁)。
●足を交差させるなど、便を我慢する姿勢をとる。
●ウンチを出す時に痛がる。

「小児慢性機能性便秘症ガイドライン」より一部抜粋・編集

もちろん、これのどれかに1つ当てはまったから、即、お薬!というわけではないです。

ウンチの回数が少なくても、お子さんがお尻やお腹を痛がることもないし、食欲もめっちゃあります!という場合は、お薬なしで様子を見ることもあります。

とくに1歳未満の赤ちゃんだと、「便秘じゃなくても」ウンチを出す前にいきんだり・顔を真赤にしたり・泣いたりしてしまうお子さんも多くいます。
これは単純に、赤ちゃんの腸管の機能が未熟だったり、お腹の筋肉を使ってうまくいきめなかったりするだけなので、便秘ではないのです。
(英語でも” dyschezia”つまり単純に”排便が困難な状態”といいます)(①Arch Dis Child. 2015 Jun;100(6):533-6 ②Gastroenterology. 2016 Feb 15. pii: S0016-5085(16)00182-7.)

この場合は、マッサージや綿棒浣腸、また便秘のお薬もあまり効果がなく、成長に伴って自然に治るのを待つ、という流れです。
健康な赤ちゃんでもよくみられます。

が、上記のサインにいくつか当てはまっているのに、便秘くらい・・・と思って放っておくと、あまりいいことはありません。

おしっこの感染症(尿路感染症など)を繰り返す原因にもなったり、トイレトレーニングがすすまなかったり(おしっこはパンツがすぐ取れても、ウンチはなかなかパンツが取れない、ウンチを出すのが痛いからトイレに座りたがらない)、といった原因にもなります。

また重症な便秘だと、便秘で吐いてしまったり・食欲がなくなったりするために、体重が増えづらい、という事態にもなりかねません。

便秘薬をつかっても、クセになるというエビデンスはなし!恐れずにしっかり使ってほしい。


うーん、食事や水分など、気を使ってみたけど、あまり良くならない。
じゃあ次の手は、便秘のお薬かな?

でも「便秘のお薬を使うと、クセにならないんですか?」というご心配はよく聞きます。

結論からいうと、もちろん個人差はあるものの、「便秘の薬を使ったからクセになる」とは医学的には証明されていません。

なので、もし便秘で受診されて、お薬を処方された場合は、恐れず・しっかり飲んでいただけたら嬉しいです。

また「薬をすぐやめない」というのも大事なポイントです。数日や数週間で薬をやめてしまうと、また便秘がぶり返す可能性が高いです。

【便秘の薬は、すぐにやめない】

●お薬を始めてから、6ヶ月以内に、規則正しい・理想的な排便習慣がえられる確率は50%。
●初回の治療がうまくいっても、50%のお子さんは、5年以内に1回は再発する。
2年以内に、完全にお薬を中止できるのは50%。
※参照:小児慢性機能性便秘症ガイドライン


便秘の薬をやめるには、すくなくとも6ヶ月間、安定した排便習慣があることを確認するのが望ましい。
※参照:Loening-Baucke V. Constipation and encopresis. In: Pediatric Gastroenterology and Nutrition in Clinical Practice, Lifschitz CH (Ed), Marcel Dekker, New York 2001. p.551.


●便秘の薬をやめるには、数ヶ月~数年くらいかかることもある。
※参照:Gastroenterology. 1993;105(5):1557.など。


●便秘の薬をやめていくには、徐々に薬の量を減らしていくのが良いかもしれない。
※参照:Curr Opin Pediatr. 2002;14(5):570.など。


・・・というわけで、一度お薬を飲む!ときめたら、しっかり飲んだほうが良いのが、便秘のお薬です。

ちなみに、病院に行くほどでもないのかな・・・と迷われた結果、ドラッグストアなどでイチジク浣腸をゲットして、お子さんに使ってくださるケースもよく聞きます。

イチジク浣腸は、医療機関で行う浣腸でも使うグリセリンが入っていて、お子さん用の容量のものもあります。

が、基本的には、赤ちゃんに漫然と浣腸を行うことは、あまり推奨されていません。
(UpToDate” Chronic functional constipation and fecal incontinence in infants, children, and adolescents: Treatment”)

もちろん肛門の出口近くにたまった便を出すのに、一時的に浣腸を使うぶんにはOKです。
が、(先ほど基本的には便秘の薬は、クセにならないと書きましたが)浣腸については、連用することでクセになるリスクがあるのでは、と言われています。

毎回毎回、浣腸しないとでてこない・・・というのが、1~2週間以上も続いてしまうような場合は、しっかり「飲む」お薬もあわせて、治療をしたほうが良いでしょう。


どんな種類のお薬を使うかは、かなりケースバイケースなので、ここでは詳細ははぶきます。
が、一般的に、とくに赤ちゃんの場合で使うことが多い・推奨されることが多いのは、マルツエキス・ラクツロース(モニラック)・酸化マグネシウムといった、「ウンチをやわらかくする」作用のあるお薬です。


どうでしょうか。

かなり詳しく、便秘のことを見てきました。
最後に、ポイントをまとめておきましょう。

【受診したほうがいいかもしれない、便秘のサイン】
排便ペースが、1週間に2回以下(たとえウンチが硬くなくても)
トイレトレーニングが終わっているのに、たびたび便を漏らす(失禁)
足を交差させるなど、便を我慢する姿勢をとる。
ウンチを出す時に痛がる。
●よく嘔吐する。食欲がない。体重が増えづらい。
体重については、以前の記事も参考にどうぞ。

【お薬について】
●使ったからクセになる、というのは医学的には証明されていない。
お薬は恐れずしっかり、数ヶ月くらい飲む。
お家での浣腸はほどほどに。

(この記事は、2023年2月20日に一部改訂しました。)

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