見出し画像

[小児科医ママが解説] 牛乳ってどれくらい飲んでOK?背が伸びるってホント?"いい牛乳"の選び方は?


フォローアップミルク【Vol.1】【Vol.2】【Vol.3】ジュースにつづき、飲み物シリーズ、今回は牛乳です。

なんとなく、牛乳は1歳からOK、と言われてご存知の親御さんも多いと思います。でも、それってなんででしょう。
また、飲みすぎると太る・飲むと背が伸びるって、ホントなの?子どもにいい牛乳ってあるの?

そんなことを、今回も公式団体の見解や論文とともに、見ていきたいと思います。

今回の参考文献はこちら。

●AAP(米国小児科学会)
"Recommended Drinks for Young Children Ages 0-5"
https://www.healthychildren.org/English/healthy-living/nutrition/Pages/Recommended-Drinks-for-Young-Children-Ages-0-5.aspx

●AAFP(米国家庭医療学会)
“Nutrition in Toddlers”

https://www.aafp.org/afp/2018/0815/p227.html

●CDC(米国疾病管理予防センター)
“Fortified Cow's Milk and Milk Alternatives”

https://www.cdc.gov/nutrition/infantandtoddlernutrition/foods-and-drinks/cows-milk-and-milk-alternatives.html

●WHO(世界保健機関)
“Guiding Principles for Feeding Non-Breastfed Children 6-24 months of age”
https://apps.who.int/iris/bitstream/handle/10665/43281/9241593431.pdf

●NHS(イギリス:ナショナル・ヘルス・サービス)
“Drinks and cups for babies and young children”

https://www.nhs.uk/conditions/pregnancy-and-baby/drinks-and-cups-children/

●厚生労働省
「日本人の食事摂取基準(2020年版)」策定検討会報告書

https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_08517.html

1歳未満の牛乳は、鉄欠乏性貧血のリスク。


日本だけでなく、世界の公式団体ものきなみ、「12ヶ月未満には、牛乳は与えない」としています。

この理由はなんでしょうか?一言でいうなら、鉄欠乏性貧血のリスクがあるからです。

生まれた後に、赤ちゃんのときの赤血球が壊れること、お母さんからもらった鉄の貯金がなくなっていくことから、もともと生後6ヶ月以後は、鉄欠乏性貧血のリスクが高まっていく時期であることは、前の記事でも触れました。(記事:フォロミいるのか問題(Vol.1)タンパク質の多さは魅力。鉄も多いけど吸収率を考えるとビミョー。

またミルクや牛乳は、仮にそこに鉄が含まれていても、実際に体の中に吸収される割合(鉄の吸収率)が悪い(5~9%)んでしたね。
とくに牛乳に含まれている、カルシウムやカゼインといった成分が、両方とも、鉄の吸収を妨げるといわれています。(”Consumption of cow's milk as a cause of iron deficiency in infants and toddlers. “[Nutr Rev 2011;69(suppl 1):S37-S42.])


実際に、1歳未満で牛乳を飲む習慣があったお子さんは、そうでないお子さんに比べて、鉄欠乏性貧血の割合が高い・貧血になるリスクが高いのでは、という報告が数々あります。
(”Infant feeding in the second 6 months of life related to iron status: an observational study.” [Arch Dis Child. 2007 Oct;92(10):850-4.])
(”Iron Intake and Status of Children Aged 6-36 Months in Europe: A Systematic Review.”[ Ann Nutr Metab 2015;66:80-92])

1歳をすぎたお子さんであっても、牛乳を多く飲んでいるお子さんは、やはり貧血の割合が多いのでは、という報告も複数あります。
(”Measuring iron levels relative to the type of milk consumed within a population of 16 to 18 month old French infants”.[ Sante Publique 2005;17:339-346.])
(”Prevalence and risk factors of iron deficiency in healthy young children in the southwestern Netherlands.“ [J Pediatr Gastroenterol Nutr 2014;58:193-198.])


吸収率がそもそもよくない鉄を、離乳食で十分にとるにはハードルが高いなかで、さらにその鉄の吸収をさまたげてしまう牛乳を飲むのは、さらに鉄が欠乏して貧血になるリスクが高くなる。
1歳をこえると食事のバリエーションや量もふえてくるお子さんも多いですが、それでもやはり牛乳を多く飲む習慣があると、貧血のリスクが高い。

そんなわけで数々の公式団体が、世界的に、「牛乳を飲むなら1歳以後から」あと「年齢応じて量を守ってね」という見解をだしているわけです。

あとは牛乳の種類のよってもちがうので一概にはいえませんが、タンパク質やミネラルが多く含まれるので、まだ1歳になっていない乳児には、腎臓にも負担がありうる、という懸念をWHOは記載しています。
(100mLあたり、牛乳のタンパク質は3.3g・ナトリウムは41mg。一般的な人工乳では、タンパク質は1.9~2.0g・ナトリウムは 28~32mg。たしかに牛乳はいずれも多く含まれています。)

なお、牛乳を加熱して離乳食に使うぶんには構わない、とWHOもNHSも提言しています。
加熱することでタンパク質も分解されて、赤ちゃんにとっての腎臓やアレルギーと言った意味での負担も少なくなるからです。


牛乳の量は、年齢を目安に


じゃあ実際に、年齢ごとに適した牛乳の量があるのか。
上記の公式団体のステートメントをまとめると、以下になります。

●1~2歳 480~720mL/日 
●2~5歳 480~600mL/日
※上記をたとえば、朝+昼+おやつ+夜、など3~4回にわけて。
※簡易的に1オンス=30mL、1カップ=200mL で換算

これを超えた瞬間に、何か体に害がでる、という緊急性のある目安量ではないです。

上記の論文(つまり鉄欠乏性貧血のリスクになりうる量はどれくらいか)を参考にしたり、また一方で、一日に必要なカルシウムの量を確保するにはどうしたらいいかを検討したりした結果が、上記の量になっています。

また、牛乳の飲みすぎでよく、肥満になるのでは、といったウワサも聞きます。牛乳に含まれる脂肪分を懸念したものだと思いますが、これは医学的にホントでしょうか?

結論からいうと「牛乳を飲んだからと言って、肥満や過体重になるかは、絶対的な証拠・エビデンス・結論は示されていない」です。

論文によって、牛乳の消費量が多い人たちほど肥満の傾向がある、とするものもあれば、肥満とは関係なかった、とする報告もあります。

そもそも、牛乳を飲んだから肥満になったのか、それとも、もともと肥満の人が牛乳をたくさん飲みたがっていたのか。
そういった時間の流れを研究に組み込んでいるかどうかによっても、解釈が異なってくる
ので、むずかしいところです。


ちなみに、牛乳を飲むと背が伸びるかどうか、というのも、医学的には絶対的な結論には至っていません

一応、4歳で牛乳を1日4回以上飲んでいる子どもたちのほうが、1回あるいは1回も飲まない子どもたちに比べて、身長が1cm高い・体重が0.15kg重い。
そこからさらに1年後の経過をみてみたとき、やはり牛乳の摂取量が多いほうが、身長が高い傾向にあるのではないか。という論文はあります。
(”Milk intake, height and body mass index in preschool children.”[Arch Dis Child. 2015 May;100(5):460-5.])

ちなみに牛乳を多く飲んでいたほうが、体重が重いという傾向は、4歳のときにはありました。しかし5歳のときにみると関係なかったそうです。
この1つだけをみても、単純に牛乳を飲んだから太るかどうか、は一概には言えないことがわかります。

なおジュースと同じで(記事:子どもとジュース。1日にどれくらい飲んでいいの?便秘には効果ある?)、低温殺菌されている(つまりraw milkではない)ことを確認するように、とCDCは念を押しています
農場やその直営店で出されているような、殺菌処理されていないものは、細菌感染の恐れがあるので、子どもには与えないこと、という見解です。



2歳までは成分無調整=乳脂肪分たっぷりで。2歳以後は脂肪分を減らしていく。


ひとくちに牛乳といっても乳脂肪分の割合・%も様々ですし、「カルシウム・ビタミンD強化」などといった表示があるものもありますよね。

結局子どもに「いい」牛乳はどれなのか、迷われる親御さんも多いかと思います。

まず乳脂肪分の割合・%については、以下の見解があります。

●1~2歳 乳脂肪分 3.5%以上
日本:成分無調整牛乳(3%以上) 
海外:”whole milk”

●2~5歳(AAPとNHSで見解が分かれています。)
【AAP推奨】乳脂肪分 0.1~1.0%
日本:無脂肪乳、低脂肪乳(0.5~1.5%)
海外: “skimmed milk” “fat free milk” “1% low fat milk”
【NHS推奨】乳脂肪分 2~2.5%
日本:低脂肪乳と成分無調整牛乳のちょうど中間
海外:”semi-skimmed milk” “reduced-fat milk”


年齢が低いうち、つまり2歳くらいまでは、牛乳が脂質の摂取源になるので、脂肪をより多く含む牛乳のほうがよい。その後徐々に食事が進んでくれば、牛乳に頼る脂質の割合も少なくなってきてOK。
そんな理由から、上記の提案になっています。

なおこちらも、加熱して料理に使う分には、1歳から低脂肪乳でもOK、とWHOやNHSがステートメントを出しています。
牛乳から少しでも脂質やカロリーを補う、というのではなく、料理の一部としてであれば、必ずしも脂肪を多く含んでいる必要はないからです。


ビタミンDが入っているかチェック。


子どもにとって「いい」牛乳かどうか、もう一つの指標は「ビタミンD」です。AAFPもCDCも「子どもに与える牛乳について、ビタミンDが強化されていることを確認すること」と記載しています。

ビタミンDが不足すると、骨の発育に影響がでて、くる病になるなど、赤ちゃんの発達や成長に非常に重要な栄養素です。
感染症をふせぐ免疫などにも、大切な役割を果たしているのではないか、という報告もあります。


●ビタミンDの摂取目安量(厚生労働省)
 5.0 μg/日


●各飲み物にふくまれるビタミンDの量
 一般的な牛乳:0.3 μg/L

 普通ミルク:0.8~1.2 μg/L
 フォローアップミルク:0.5~0.98 μg/L
 ※母乳:0.06~0.3 μg/L

ほかに食事から摂るビタミンDがあるとはいえ、一般的な牛乳だけでは、ビタミンDを十分に摂るには心もとないです。

そこで、ビタミンDを強化した牛乳が販売されています。

なお日本では規制上、ビタミンDを添加した場合、「牛乳」ではなく「乳製品」の扱いになります。ネットスーパーやオンラインで、商品の項目を選ぶ時に、場合によっては注意が必要かもしれません。(日本乳業協会


以下はイメージがわきやすい・実生活で利用しやすいように、商品名を記載しています。
とくに白井個人がどの商品やメーカーさんと関係あるとかは一切ありません。また乳牛の脂肪分自体が季節で変動するため、乳脂肪分の%は目安であることに注意ください。調査した2020年4月23日時点での情報です。


【1~2歳:3%以上(成分無調整)+ビタミンD】

1~2歳で推奨されている、成分無調整牛乳(3%以上)に、ビタミンDが添加されている商品は以下です。

①毎日強骨ミルク(毎日牛乳)
②しっかり濃厚4.4(メイトー)
③味わい濃厚特濃(トモエ)
④濃くておいしいミルク(グリコ)


ビタミンD含有量は④が最も多いです(4.1μg/200mL)。

【2~5歳:2%(低脂肪~成分無調整の間)+ビタミンD】

NHSでは、5歳まではまだそこまで脂肪の量を減らさないほうがいいのでは、ということで、2%くらいの乳脂肪分を推奨していました。そんな牛乳で、ビタミンDが添加されているのは以下です。

①カルシウムの多いミルク(グリコ)
②毎日骨太MBP(雪印メグミルク)


なかなか2%前後の牛乳のチョイスが少ないです。あえてこの%を選ばなければいけない理由も大きくはないので、こだわりすぎる必要もないと思いますが。

ビタミンD含有量は②のほうが多いです(5.5μg/200mL)。

【2~5歳:無脂肪・0.5~1.5%(低脂肪)+ビタミンD】

AAPは、2歳をこえて食事もとれてきていれば、牛乳にそこまで脂肪分を求めなくてもよいのは、ということで、いわゆる低脂肪乳でもいいだろうと提案していました。そんな牛乳に、ビタミンDが添加されているのは以下です。

※乳脂肪分1%以上
 ①からだにカルシウム(オハヨー)
 ②ミルクラブ(明治)
 ③毎日骨太1日分のカルシウム(雪印メグミルク)
 ④PREMiL(森永)
 ⑤毎朝おいしく鉄分カルシウム(らくれん)

 ビタミンD含有量は④が最も多いです(3.4μg/200mL)です。

※乳脂肪分1%未満
 ①すっきりCa鉄(雪印メグミルク)
 ②さわやか低脂肪(トモエ)
 ③鉄分とカルシウムが取れる低脂肪乳(ローソンセレクト)
 ④カルシウム低脂肪乳(デーリィ)
 ⑤よつ葉濃いカルシウム(四つ葉)

 ①~④すべて2.7μg/200mLほどで同程度のビタミンD含有量です。
 ⑤のみ1.7μg/200mLで少なめ。

※上記では紹介しませんでしたが、「ミルクで元気(明治)(乳脂肪分 約2.2%)」はビタミンDが180mLあたり25μg含まれています。
ビタミンDの摂取上限が、1~3歳で63μg・4~8歳で75μg(厚生労働省より)であることを考えると、摂取上限を超えてしまう可能性があるので注意してください。
また「幼児優良牛乳(グリコ)(乳脂肪分3.5%以上)」にはビタミンDは含まれていません。


どうでしょうか。

1~2歳で成分無調整・たっぷり乳脂肪分が含まれていている牛乳で、ビタミンDを含むものはややメーカーさん・種類が限られますが、それ以外では、まずまずの種類があります。

値段や乳脂肪分も多少は変動しますし、他の家族が好きな牛乳もあると思います。あまりこだわりすぎず、ただ、選ぶ際の参考になれば幸いです。

(この記事は、2023年1月26日に改訂しました。)


いいなと思ったら応援しよう!