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[小児科医ママが解説] おうちで健診【Vol.1】「1日○g増加」に基準は無い?!「2本の成長曲線を横切る」体重の伸びなやみは、要注意。


「教えて!ドクター プロジェクト」の「乳幼児健診を知ろう!」にそって、解説させていただいている「おうちで健診」シリーズ。

第一回目は、体重です。
どの時期の乳幼児健診でも、絶対にチェックする項目ですよね。

とくに生後数ヶ月は「1日あたり○g増えた」などと評価することが多く、母子手帳にもそのように書かれたことがあるかもしれません。

赤ちゃんの体重って、どれくらい増えていればOKなのか。
体重が増えなくて、受診を考えなきゃいけないときって、どんな目安があるの?

そんなことを見ていきます。

すべての「おうちで健診」シリーズに共通した、主な参考文献は以下です。

●米国小児科学会AAP “Bright Futures”
https://brightfutures.aap.org/Pages/default.aspx

●「正常ですで終わらせない! 子どものヘルス・スーパービジョン」
阪下和美、東京医学社、2017年

●「ベッドサイドの小児神経・発達の診かた(改訂4版)」
桃井眞里子・宮尾益知・水口雅、南山堂、2017年

●「乳幼児健康診査・身体診察マニュアル」
https://www.ncchd.go.jp/center/activity/kokoro_jigyo/manual.pdf
平成29 年度子ども・子育て支援推進調査研究事業
国立研究開発法人 国立成育医療研究センター

1日あたりの体重増加量は、参考文献によってもバラバラ。


「○ヶ月の赤ちゃんが、1日あたりに○g増えていれば、正常です。」という明確な基準は、実はありません。

世界保健機関(WHO)の授乳や栄養に関する文書でも、1日あたり○g、という書き方は一切でてきません。

そもそも、授乳の方法(完全母乳・完全ミルク・どれくらいの割合で混合か)、産まれたときの体重、国籍・民族・・・
赤ちゃんの体重増加は、色々な要因に左右されすぎます。

実際に、世界保健機関(WHO)が出しているデータがありますが、産まれたときの体重が同じくらいの赤ちゃんを集めても、生後数ヶ月の体重の増え方は、本当に様々だということがわかります。
(ちょっと理系な育児 ホームページ「出生体重2500-3000 gの赤ちゃんの体重増加速度」など)

・・・ですが、健診などで、パッとその子の体重の増え具合を数値ではかるには、やはり「1日あたり○g増加」が、わかりやすいっちゃーわかりやすいです。

(本当は成長曲線を見るのが一番なのですが、まだ低月齢だと、曲線をそもそも描くにも十分な日数・データがない場合も少なくないですよね。)

「だいたいの赤ちゃんが、これくらい増えてるよね~。」とか。
「これくらい増えてたら、成長曲線に沿って伸びてる感じだよね~。」とか
各国の実際のデータや、それぞれの研究などから、「一応の目安」として「1日○g」という書き方をしているのです。

なので、信頼できる医学書や、論文の報告などをみても「1日あたり○g」の部分は、バラバラです。

体重増加の資料別まとめ
体重増加_参考文献


どうでしょう。

たとえば1ヶ月健診で「う~ん、1日あたりの体重が20g未満だから、体重の増えが悪いですね。ミルクを足しましょう。」などと言われたことのある方もいるかも知れません。

でも参考文献によっては、1日あたり15gくらいの増加であっても、ギリギリ正常の範囲内で、必ずしも「異常」「体重増加不良」とは断定できないことがわかります。

逆に1ヶ月健診で「1日あたりの体重が45g増えていて、これっておっぱいあげ過ぎですか?!」と心配される親御さんも結構います。

が、1日50gも正常な増加の目安としている文献もあり、決して異常な増加ではないことがわかります(そもそも母乳に「あげすぎ」という概念はありません)。


生後3~4ヶ月頃の値についても同様です。

「教えて!ドクター」のフライヤーでは、1週間あたり200g~300g、つまり1日あたり「28.5~42.8g」とありますが、これは他の参考文献にくらべると、かなり大きい値です。

ただし「教えて!ドクター」のフライヤーの下記にあるとおり、受診が必要なのは「1週間あたり100g未満の増加」つまり「1日あたり14g未満の増加」の場合です。
これはたしかに他の文献でみても、増えが少ないという印象ですよね。


なお同じ文献・書籍内であっても、生後○ヶ月以後については、全く体重増加の目安が書いていない、という清書も珍しくありません。

とくに生後3~4ヶ月以後になってくると、1日あたりの体重増加、というよりは、産まれてから数ヶ月間の成長曲線の描き方や、そのほかの運動発達などと合わせてみるほうが大事になってくる、という側面もあります。

(実際に「教えて!ドクター」のフライヤーでも、生後4ヶ月以後については、1日あたりの体重増加については書かれていません。)


それくらい、赤ちゃんの体重増加は千差万別・測るタイミングによっても異なるので、一概に1つの目安を示すのがむずかしいんだよ、ということです。

なので、目安の増加量に多少とどいていなくても、すぐ受診!緊急事態!というわけではありません。

ただ、とくに生後数ヶ月は赤ちゃんの体重がしっかり増えることが、その後の発達にも大切になってきます。

さきほどの文献のまとめから見てみると、「急いで受診を検討する必要がありそうな、体重増加の目安」は以下になるでしょうか。


【受診を検討したほうがいいかもしれない、体重の伸びなやみ】

生後0~6ヶ月で、1日15g未満。
●短期間で、成長曲線を2本分横切ってしまっている。

生後6~12ヶ月では、1日あたりの増加に関するデータが乏しいこと。また「1日あたり○g増加」というよりは、「今までの数ヶ月単位での体重の増加のペース・曲線の描き方、発達との兼ね合い」が大事になってくるので、上記のような書き方にしました。

※「1日○g増えていればOK」が公式団体・文献・書籍でもバラバラであるように、「1日○g未満だったら受診を検討」という目安も、当然、明確な基準はありません。上記はあくまで、公式団体・文献・書籍の値をもとにした、1つの目安としてとらえてください。

さて「短期間で、成長曲線を2本分横切ってしまっている。」とはどういうことでしょうか。



「短期間で、成長曲線を2本分横切る」体重の伸び悩みは注意。


どれくらいが「短期間」なのか。という明確な定義はありません。

が、本来、成長曲線にそって伸びるはずの体重が、曲線に沿わず、下のレベルの曲線にむかって横切ってしまうような伸び悩み。
こうした体重増加不良は、わたしたち小児科医も注意して見ています。
(英語では”Failure to thrive”と呼びます。)

海外の体重増加不良の報告ですが、成長曲線の図でみると、こんな感じになります。

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N Engl J Med 2017; 377:1468-1477 より抜粋。

とくに生後6ヶ月くらいから体重が増えなくなった結果、
最初は太線(50%タイルの曲線)にのっていた体重が、
生後9ヶ月で10%タイルの曲線、生後12ヶ月で5%タイルの曲線・・・
というふうに、
1段階・また2段階と、下のレベルの成長曲線に向かって横切ってしまっています。


上記は海外の成長曲線で「%タイル」という成長曲線の書き方でしたが、
日本では「SD」という成長曲線の書き方をしていることが多いです。

日本の母子手帳にのっている成長曲線では、およそ94~95%のお子さんが入るであろう、体重の範囲が帯状に記載されています。

ここには、下位2.3%くらいの「-2SD」という曲線から、上位2.3%くらいの「+2SD」という曲線まで、の範囲が含まれています。
真ん中の線は平均の「0SD」、その間にさらに、「+1SD」とか「-1SD」とかの線が入ります。


成長曲線

●SDがちゃんとついた成長曲線は、pfizer ホームページからダウンロードできます。医療機関でも使用しています。

●無料アプリ「すくすく成長曲線」
低身長のホルモン治療に関するお薬なども販売している、ノボ・ノルディスク ファーマ株式会社によるアプリです。体重記録アプリは他にも色々ありますが、SD表示のついた成長曲線まで出してくれるのはなかなかありません。(別に白井個人はこのアプリとは何の関係もありません。)



「ちょっと要注意な体重増加不良」というのは、

もともとお子さんが「+1SD」の線にのって、順調に体重が増えていた。

にもかかわらず、ある時期から増えなくなり、徐々に「+0SD」の線にのり、さらに「-1SD」の線に下がり・・・と、徐々に曲線を横切ってしまう。

こんな伸びなやみです。

ちなみに「ずーっと、成長曲線の一番下を這うように進んでいるんですが、大丈夫ですか?」と心配の声もききますが、これは逆に安心です。
「-2SD」の曲線上であれ、その曲線にそってじわじわと増えていれば、そのお子さんなりの体重の増えかたです。


このように「2本の成長曲線を横切ってしまった」場合は、一度受診の相談をしていただき、早めに血液や画像の検査などをして、原因を探したり、治療をしてあげたりする必要もでてきます。

・・・検査の結果、急いで治療をする原因が見つからないこともあります。というのも、この「2本の成長曲線を横切るような」体重の伸び悩みが見られるお子さんは、1歳未満で3~4%に見られるという報告もあり、珍しいことではないのです(J Child Psychol Psychiatry 1994;35:521-527.)。

ただし結果として「なんだ、のんびり屋さんだったのね」で済めばいいのですが、一度、本当に異常がないかどうかは、やはり2本の成長曲線を横切った段階でチェックができると安心です。


なお生後4ヶ月頃をすぎてくると、「この1ヶ月、全然体重が増えなかった」「体重が先月にくらべて、100g減っちゃった。」ときどきそんな状況もあります

その結果、たとえば成長曲線も「+1SD」上から「±0SD」上になることも、よくあります(つまり1段階だけ成長曲線が下がる)。
これは別に2本を横切っているわけではないので、問題ありません。
こうした場合、お子さまも元気であれば、通常は「数週間~1ヶ月後にまた見させてください」ということが多いです。


そんなとき私たち小児科医としては・・・

「赤ちゃんが活発に動き出す、五感が発達してきて遊び飲みを始める。そんな発達の段階で、致し方のない、一時的な体重の伸びなやみなんだろうな。」

「首のすわりや寝返り、あやし笑いなど、ほかの発達はどうかな。遅れてきていないかな。一度できていたのに、できなくなったことはないかな(発達退行)。」

そんなことを判断しながら、「様子を見ましょう」と言っています。

いかがでしょうか。

●「1日○g増加」の目安はバラバラ。
●でも生後6ヶ月までで「1日15g未満の増加」は要注意。
●「短期間で、成長曲線を2本分横切ってしまっている」場合も受診を検討。

というポイントでした。


「1日○g増加」などとみると、体重を毎日測らなきゃいけないのかな、と思う親御さんもいます。

もちろん、親御さんのご負担にならなければ、測ること自体はOKです!が、とくに医師や専門家から指示されていない限りは、体重は1ヶ月ごとくらいの測定で大丈夫です。

「30日前に測った体重から600g増えていた。だから、1日あたり600÷30=20g増えている。」というふうに、振り返って日割りで計算すれば十分です。


通常は、病院・クリニック、保健センター、デパートなどで、赤ちゃんの体重を測れるイベントやスペースがありますが、新型コロナウイルスの影響で、そうした体重測定も制限されている地域が多いと思います。

ご自宅にベビースケールがない場合は、大人と一緒に抱っこして測って→大人の体重を引く、という測り方でもいいです。


そしてちょっと余力があれば、さきほどのpfizerのホームページからダウンロードして印刷してもいいですし、アプリでもいいですが、「+2SD」「-1SD」などとSD表示が書いてあるような成長曲線をつけてみましょう。

「あれ、体重あんまり増えてない?」と思っても、実はちゃんと成長曲線にそって増えていることがわかったり、さすがに2本は横切っていないな、とわかったりすることで、心配もやわらぎます。


さて、次回以後も「教えて!ドクター」のフライヤーに沿って、記事にしていきます。

「首、座ってますか?」「たて抱っこしてもいいですか?」などなど、首すわり1つとっても、たくさんの質問をいただきます。
おうちでチェックできる項目もふくめて、またupしていきます。

(この記事は、2023年2月14日に一部改訂しました。)

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