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[小児科医ママが解説] おうちで健診:子どものアトピーって、どう判断するの?アトピーは予防できる?皮膚トラブルで受診する目安。


「教えて!ドクター プロジェクト」の「乳幼児健診を知ろう!」にそって、解説させていただいている「おうちで健診」シリーズ。


前回は、乳児湿疹ってそもそも何?おうちでできるケアは?といった内容でした。

今回は、アトピー性皮膚炎について。いわゆる「乳児湿疹」の中にも含まれていましたよね。親御さんとしては「うちの子、アトピーなの?どうなの?」ということは非常に気になる点です。

アトピーの診断基準などもご紹介しつつ、また皮膚について受診する目安も、ご紹介したいと思います。

今回の参考文献はこちら。

●アトピー性皮膚炎診療ガイドライン 2018
https://www.dermatol.or.jp/uploads/uploads/files/guideline/atopic_GL2018.pdf

●UpToDate
"Treatment of atopic dermatitis (eczema)"
"Atopic dermatitis (eczema): Pathogenesis, clinical manifestations, and diagnosis"



「かゆそうで、乾燥していて、だらだら続いていて、両親や兄弟にアトピーや喘息がいるとき」 に疑うのが、アトピー。


まずは前回の記事でもすこし触れた「アトピーの診断基準」を、下記にご紹介していきます。

どの診断基準がとくに優れている、というエビデンスのある報告はなく、それぞれの医療機関や医療者が使い慣れた・使いやすい方法で、評価しています。

①日本皮膚科学会の診断基準

AD_日本皮膚科学会
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②UK Working Partyの診断基準

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③Hanifin&Rajkaの診断基準

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どうでしょうか。
医学的な用語もずらずら並んでいて、正直わかりにくいと思います。

が、上の全てに共通しているのは

「かゆそうで、乾燥していて、
だらだら続いていて、
両親や兄弟にアトピーや喘息がいるとき」

に疑うのが、アトピー

ということです。

以下に、診断基準の中から小分けにして、もう少し詳しく見ていきましょう。

赤ちゃんの場合、皮膚トラブルが「2ヶ月」以上つづくと、アトピーかも。でも、あくまで一つの目安。


どれくらいつづいていれば、アトピーっぽいのか。
というところは、実は世界的なコンセンサスはありません。

皮膚のトラブルがつづいている期間については、
日本皮膚科学会の診断基準でしか明言されていないからです。

日本皮膚科学会の診断基準では、

(1歳未満では)2ヶ月以上
(1歳以上では)6ヶ月以上

この期間、皮膚の赤み・かゆみが続く場合に、
アトピーを疑う

という提案です。

たしかに、アトピーのひとつの特徴である「くりかえす・つづいている」を判断するには、お薬をトライしつつ皮膚の観察をするケースも多いので、一定の期間をいただくことがあります。

が、親御さんのお話などから、今までのお子さんの皮膚の状態で当てはまるな、と思えば、お薬をトライする最初の時点で「アトピーでしょう」とお話することもあります。

なので、あまりこの「2ヶ月以上」あるいは「6ヶ月以上」という文言に、医療者も・親御さんもしばられる必要はありません。

かゆそう・乾燥した状態が「くりかえす・つづいている」かどうかを、なんとなく判断するというイメージです。



皮膚の「赤み」「ジュクジュク」がなくても、アトピーの可能性はある。


「皮膚が赤い・ジュクジュクしている」わけではなくても、アトピー性皮膚炎の場合は十分あります。

アトピーは一般的に

まずは乾燥からはじまり
→次第に赤みやブツブツ
→かきむしってジュクジュク・かさぶたなどが出る

という症状の進み方といわれています。

つまり見た目では、ちょっと乾燥してるかな?ぐらいでも、皮膚の下では炎症がおこっていて、のちのち赤みやブツブツを引き起こす。つまりアトピーの可能性がある。

というケースも、十分あるのです。

赤ちゃんのアトピーは「顔」に出やすい。だから、余計にアトピーかどうかわかりにくい。


上記の診断基準でもふれられていますが、
赤ちゃんのアトピーは「顔」に出やすいのが特徴です。

大人のアトピーというと、手足などの体にでているイメージも多いですが、とくに2歳未満のお子さんは、首・顔・頭に症状が出ることが多いです。
逆におむつには、アトピーの症状は出にくいです。
(Lancet. 1998;351(9117):1715.))

・・・が、「赤ちゃんのアトピーは顔に出る」という特徴が余計に、赤ちゃんがアトピーかどうかを、わかりにくくしています。

皮脂欠乏性湿疹(乾燥からくる湿疹)、脂漏性皮膚炎(黄色のかさぶたのようなものが特徴の皮膚炎)、よだれかぶれ、汗疹(あせも)、などなど。

アトピー以外にも、お顔に赤みがでる皮膚トラブルは、たくさんあります。

本当にアトピーのせいだけで、お子さんに皮膚トラブルが起きているかどうかは、とくに生後1~2年未満のお子さんにとっては判断がむずかしいのです。

ちなみに2歳をこえてくると、お顔にはアトピーの症状が目立たなくなってきます。大人と同じように、わき・膝・手首・足首などに症状が目立ってきます。

一般的に、アトピー性皮膚炎の85%は、5歳以下で発症するということもあり(Lancet. 1998;351(9117):1715.)、
赤ちゃんのときの「なんとなくお肌が弱い」という状態にくわえて、2歳以後の皮膚の症状の出方などもみながら、「あ~やっぱりアトピーなのかもねぇ」と年単位で見ながら判断されることもあります。


ご家族でアトピーがいるかどうかは、疑う一つの手がかり。


お子さんがアトピーです、と正確に断言するのは意外とむずかしい。

そこで一つの手がかりになるのが、家族歴、
つまりほかのご家族にアトピーの方がいらっしゃるかどうかです。

上記の診断基準にもありますが、「アトピー性皮膚炎・喘息・アレルギー性鼻炎など」のアレルギー性疾患をお持ちの家族がいると、たしかにお子さんがアトピーになる確率は高くなります。

たとえば、一人の親御さんがアトピー性皮膚炎だった場合は2~3倍、両方の親御さんがアトピーだった場合は3~5倍、お子さんがアトピーになるリスクがあがるのでは、という報告もあります。
(J Am Acad Dermatol. 2014;70(2):338.)

ご家族がアトピーだから、お子さんが絶対にアトピー、というわけではありません。
が、医師としては、お子さんの皮膚の状態とあわせて、アトピーかどうかを判断する手かがりにはしています。


アトピーを絶対に防げる方法はない。が、「保湿」で防げる可能性はある。


診断はむずかしいのはわかった。
でも「とりあえず、なんとかしてアトピーになるのを防ぎたい!」というのが親心。

が、結論からいうと、これをしたから、アトピーを絶対防げます!という方法はありません。

たとえば、妊娠中に卵などの食事を制限したら、お子さんが卵アレルギーになったり、アトピーになったりするリスクを下げられるか。
またお子さん自身に、卵などの食事制限をしたり、離乳食を遅らせたりしたほうが、アトピーになりにくくなるか。

そういった議論がよくされますが、結論からいうと、

妊婦さん・親御さん・お子さんへの食事制限は、
アトピーの予防にはならない。

という見解になっています。
(①Cochrane Database Syst Rev. 2008 Jan 23;(1):CD005203. ②Pediatr Allergy Immunol. 1998;9(1):13. ③Cochrane Database Syst Rev. 2012 Sep 12;(9):CD000133.)

また、ダニアレルギーかどうかを血液検査などで調べて、対策するのは意味があるか?という疑問もよくあります。
たしかにアトピー性皮膚炎の患者さんは、ダニアレルギーのことも多いです。

が、ダニを除去することで、アトピー性皮膚炎が必ず改善するかというと微妙。という見解になっています。
(①Br J Dermatol. 2013 Apr;168(4):688-91. ②Cochrane Database Syst Rev. 2015;1:CD008426. Epub 2015 Jan 19.)

そもそもダニにかかわらず、何かに対してアレルギーがある、とわかったとしても、とくに小さいお子さんの場合、アトピー性皮膚炎の治療や普段の肌ケアについては、大きく対処は変わらないです。

そんな中、やはり基本の「保湿」が、アトピー性皮膚炎の予防に一役買っているのではないか、という見解はあります。


以前の記事でも紹介しましたが、とくに、親御さんがアトピーの場合など、「アトピーのリスクが高そうだな」というお子さんにとって、保湿は、アトピー性皮膚炎を予防する一つの方法になるんでしたよね。


正しい保湿については、前回の記事を参考にされてください。
市販の保湿剤でも全然かまわないので、たっぷり塗るのが、とにかくポイントでしたね。


「爪を短く切る」「汗ケア」も立派なホームケア。


保湿以外にも、「爪を短く切る」ことや、「汗をすぐふく」というのも、立派なホームケアです。

アトピーかどうかに関わらず、お子さんは無意識のうちに・寝ているあいだに、皮膚をいじってしまうことも多いもの。
そんなときに、爪が長いと、皮膚の表面を傷つけてしまいます。

もともと皮膚の表面には、ブドウ球菌などの常在菌がいます。
普段は悪さをしない菌ですが、かきむしったりして、皮膚の中にこうした菌が入り込むと、皮膚トラブルの原因になります(「とびひ」などが代表例ですね)。

万が一かいてしまっても、皮膚をなるべく傷つけないためには、お子さんの爪を常に短くしてあげておくと良いでしょう。


また実際に、皮膚の表面の細菌と並んで、熱や湿気も、皮膚の状態を悪化させる原因になります。(Br J Dermatol. 2003;148 Suppl 63:3.)

とくに気温や湿度が高くなる時期は、汗をこまめにふいたり、お洋服や寝室などの環境の調整をしたりすることも、立派な肌ケアのひとつです。


受診の目安は「しっかり洗浄・保湿しているのに、赤みやかきむしりが、ひどくなる」。


最後に、アトピーかどうかに関わらず、お子さんの皮膚トラブルで受診したほうが良い目安を、ご紹介したいと思います。

【皮膚トラブルで、受診する目安】
しっかり洗浄・保湿しているのに・・・

●赤みがどんどん増してくる。
かきむしって、傷がついてしまっている。
膿がでたり、痛がったり、熱をおびたりしている。


上記の場合は、皮膚の炎症をしっかりおさえるために、ステロイドが必要だったり、あるいは、かきむしって感染しているために、抗生剤の治療が必要だったり、といったケースです。

もしできれば、数日~1週間の経過をスマホなどで撮って、受診した際に見せていただけると、医師としても、皮膚の状態を判断するのに助かる場合もあります。


いかがでしょうか。

記事をみて、あぁうちの子、アトピーっぽいなぁ・・・と思われた親御さんも、いらっしゃると思います。

でも、仮にアトピーだとしても、まずは洗浄&保湿が、大事なんでしたね。アトピーの治療だとしても、軽症の場合は、まずはステロイドを使わずに、こうした基本の肌ケアをするという方針は、世界的にも共通した見解です。

アトピーなのか・どうなのか。アトピーだったらどうしよう。こうして悶々とするよりは、毎日できる洗浄と保湿をしてあげて、受診するタイミングを逃さない。
できることを、毎日やって、一緒に乗り越えていきましょう!

(この記事は、2023年2月20日に一部改訂しました。)

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