2023年に続く大冒険の振り返り③
雪が降った昨夜の東京。それでも降ったのはほんの一瞬で、すぐにやんでしまいました。リヨンに住んでいた時に何度か降った雪。日本とは違いすぐにやむということはなく、大抵は長時間降って積もるフランスの雪。空は繋がっているのに降り方も量も違うんだなぁ。なんてフランスの懐かしい景色を思い出しながら雪を眺めた夜でした。
今日はこの前の続きをば。
語学学校に通いながら時間があればチーズに関連のある場所を訪れる日々。牧場やチーズ工場などに加え、住んでいるリヨンのチーズ屋さんはマルシェも含めほとんど行きました。フランスは乳製品大国と言われるだけあり、スーパーですら日本やシンガポールとは比べ物にならない数のチーズが並んでいます。一種類のチーズでも熟成違いや会社が違うもの、これまで知ってはいたけれど実物を見たことのなかったチーズなどが立ち並ぶ環境に毎回感動し、わくわくしながら歩いたことを思い出します。
そんな日々を送りつつ、チーズを学べる学校を並行して探していた私。しかし、学校を見つけるのも一苦労。私がやりたいのはチーズの製造ではなく、加工や熟成、カットやアレンジでした。フランスには熟成士という職業があります。熟成士は生産者さんからチーズを買い、自分たちの熟成庫で自分なりの熟成やアレンジをして市場に送り出す人々のこと。チーズもワインと一緒で作っただけで終わりではなく、その後の熟成や加工の仕方で味や品質、価値が変わってくるのです。熟成士さんたちが行うような加工や熟成に興味があった私はそれらを学べる場所を探していました。しかし、製造の学校はあれどなかなか熟成を学べる学校は見つかりませんでした。
けれどある時、チーズ関連の場所を巡っていた時に知り合った方から学校を教えていただき、近日説明会があるというので伺うことに。会場に向かうと、そこにはアジア人の姿はなく、自分よりも大分若い顔立ちの人々ばかり。(親同伴できている人ばかりだったので大体は10代の子かと思われます。)
加えて英語や他の国の言語は一切聞こえず、聞こえてくるのはフランス語のみ。アジア人+フランス語初心者+10代とは程遠く年の離れた私は、国籍、言語、年齢、全てにおいて場違いな人間でした。でも、その光景を見て、不安になるどころかなぜか楽しくなってしまった私。逆に自分の知らない世界が広がる光景にわくわくしてしまいました。
当然ながら先生方はネイティブに向けて話すので説明を聴き取るのは大変。けれども、豊富なプログラムの内容にますます胸が高鳴り気持ちが爆発。会場内で質問がある人はと聞かれれば、ただでさえ異色の存在なのに拙いフランス語でなんとか聞きたいことを聞こうと奮闘し周囲にガン見されていました。苦笑
今思えば恥ずかしいなと思うのですが、その時の自分は恥ずかしさよりもやっと見つけた憧れの場所への関心が上回っていたのだと思います。数年前にどうしても海外でキャリアを積みたくて、トランク一つでシンガポールとマレーシアで就職活動した時を思い出しました。その際も大変さや困難なんて全然感じなくて、あったのはやってみたいという気持ちや今後へのわくわくした気持ち。見るもの全てが新鮮で、こうして出発するために新卒から数年頑張ってきてよかったなあと日本での社会人生活を振り返ったものでした。
そんな気持ちが上昇した自分は、拙い言語力ながら説明会が終わった後も、説明官の方にさらに質問をしに向かいました。
入学条件を聞くと、答えはただ一つ。
入学後はほとんどがスタージュ(研修)メインのコースになるので自分を正社員として雇ってくれるお店(研修先)を探すこと。フランスではチーズやハムなど専門の食品を扱う店舗で働く場合には、外国人であっても国が定めたフランス人と同様の給与を店側が支払わなくてはなりません。そうした給与の支払い、私は外国人なので労働VISAを申請してくれるスタージュ先を探すのが条件でした。
説明官にも今はフランス人でも就職が困難な時代で、外国人、特に言語も違うアジア人には簡単なことではないと言われました。学校の志願者の多くは実家が牧場やチーズ屋を経営している家の子で、皆が若いのは元々家を継ぐことが決まっているため、この道で働くのは体力勝負だから若いほど良いという話も。直接は言わなくともアジア人で何のコネもなし、言語は初心者、適正年齢からは大きく外れた社会人留学の自分にはこの道はかなり難しいことは感じ取れました。
極めつけはこの学校に過去外国人が入った前例はないということでしたが、そこまで聞いても気持ちは変わりませんでした。
「この学校に絶対に入学したい!」そう思った私は、帰宅するとすぐにフランス語の履歴書をつくり、次の日に学校で大量に印刷、それを持ってそれからほぼ毎日学校後にチーズ屋さんを巡りました。
自分にあるのは根性とやる気のみ。それしかないなら、それを活かしてやってみるしかない。
その日から「面接をさせてください!」と頭を下げに行く私のチーズ屋門叩きの旅が始まったのでした。
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