パンクロッカーに憧れた少女の日記（仮）54

中三・二学期
期末の結果、いつもと変わらない感じ。同じく英語と国語が良くて、あとは嫌いだしロクに勉強してもないからボロボロ。社会は2年まで好きだったのに、3年で内容が公民になってから超つまらん。そんな分からないってわけじゃないけど興味なくてやる気が起きん。やっぱ私は地理や歴史が好きだし得意だ。でも公民の三宅は面白い奴だ。多分大学出たてで若くて、茶髪で、いつも違うグレーのスーツ着てタバコ吸いながら出勤して、門に入る前に捨ててクツで消してる。それを生徒に見られてからかわれるとなんか照れくさそうっていうかバツ悪そうに笑ってる。三宅はモテるとかそういうんじゃないけど、人気がある。何か素朴な少年って感じで、雑談も大橋にはかなわないけど面白い。それに話し方も教え方も上手い。何で社会の先生って面白くて、いい奴が多いんだろ。偶然かねぇ？私が授業中、ちょっと過激なことを言っても怒らないで、まぁそんなこと言いなさんな、とニコニコして言ってくる。三宅を見てると、将来社会の先生になるのもいいかもなって思えてくるから不思議だ。三宅は担任を持ってないし、勉強だけ教えてればいいから気楽なのかねぇ？私が担任になったら生徒は大変だろうなぁ。気合だとか根性とか絶対に言わない分、かえって生徒は混乱するかもしれん。やっぱ先生には私は向いてないや。当たり前か。それに私みたいな生徒が一人でもクラスにいたら大変だもんな。何て声かけていいか分からんし、助けてやれそうもないから。誰かに助けてほしいっていつも思ってるけど、どう助かりたいかも自分でも分からないしね。あ～それにしても、あと3か月もすれば卒業かぁ。もう学校の中に入ることもないんだろうな。用無いもんな。そう思うと、この間大橋に呼び出されて入ったあの教室でさえ妙にいとおしくなる。いとおしいは違うか。でも懐かしいってのもまだ違うしな。もうY女子行きはほぼ決定。願書提出は1月の末だけど、学校見学を兼ねて、願書は冬休み中に例の人と取りに行くハメになるようだ。嫌だなぁ、例の人はまた穴の開いたヨレヨレのジャンパーとサンダルで行くつもりなんだろうか。母親が変だから、こいつは不合格にしたいなとかY女子の教師に思われたら最悪だよ。それでなくても口を開けば相手が誰でもお喋りが止まらない変なババアだし。たったの30分でもいいから、まともなふりって出来ないものかね？例の人は自分が異常だって分かってないから無理か。例の人と親子だと思われるのが本当に嫌だ。

中三・二学期
成績がちょびっと上がってた。ちょっと意外だった。数学が５になってたのは特に驚きだ。公民も上がって6。数学は塾で散々しごかれたもんな、連立方程式やらなにやら。英語は相変わらず７なのはマジで気に食わない。実力からいったら9はもらえるはずなのに。西川は本当に私を嫌ってるんだな～。いつもテストは平均よりずっと上、多分クラスで1番か2番だし、宿題も英語だけは例の人の妨害にもかかわらずマジメにやってるというのに。最近は高校生が使う参考書もやってるくらいなのに。西川は一度誰かを嫌うと一生嫌い続けるタイプの奴なんだと思う。英語の時間だけは最近、意識してマジメな授業態度にしてるってのにさ。でも人生はそんなもんかね。That's life!　通信欄には2学期にあった色んなことのこと、1つも書いてなかった。ただ「数学と社会、よく頑張りましたね。冬休み中は風邪などひかず、受験に向かって勉強を頑張っていきましょう」って書いてあっただけ。大橋はうちの親には私の学校での出来事、言うつもりはないらしいな。多分私のことを信じてくれてるんだろうし、うちの親に言ってもしょうがないって気づいてるんだろう。大橋には本当に本当に感謝してる。今までの担任の中で、いや、出会った教師の中で最高の先生だと思う。多分、大橋みたいな先生にはもうこれから出会わない気がするよ。高校行っても、多分いない気がする。

中三・冬休み
そういえば最近は伊勢佐木町行ってないや。お父さんが家にいなくて、例の人の機嫌のいい時しか電車乗って出かけることは許されないからな。それにおこづかいがなければ行っても意味ない。有隣堂行って洋書のコーナー行って、バンド雑誌やファッション雑誌見て、ハマ楽器でCDも見たいのに。でも最近はDOLLに載ってる通販の店で買うこともあるから、CDは店で買うことは少なくなった。私の好きなバンドの輸入盤のCDは街の店じゃほとんど売ってないから。例の人に、届いてるのに届いてないと嘘を言われて捨てられるのを覚悟の上で買ってるけど、今のところ無事に届いてる。この間、カナちゃんに初めて私のCDを貸した。Dead Kennedysの「暗殺」。DOLLの記事でミチロウさんがライナーノーツ書いてるって知って、これは買わねばと思って買って聴いてみたら超かっこよかった。マコトさんに最近はDead Kennedysが好きなんだって書いたら、なんかマコトさんは好きじゃなさそうって感じの返事が来た。嫌いとは書いてないけど、やっぱりマコトさんは日本のバンドならスタークラブとかモッズとか、洋楽ならディスチャージとかSham69とかが好きだから、私とは趣味が全然違う。私はあんまりそういうパンクは好きじゃないからなあ。正直、全然いいと思わない。それでもマコトさんはいい人、信頼できる人だって事実は変わらないけどね。よく、マコトさんは手紙にバンドマンの似顔絵をよく描いてくるけど全然似てなくてウケる。マコトさんも自分で絵に自信がないってこと分かってるのか、イラストの隣にその人のバンド名と名前を書いてる。この間のあれがジョニー・ロットンだと書いてなければ誰だか分からなかった（笑）。でもマコトさんも私と同じで絵が下手なんだなって思うとなんか安心するというか、自分は本当に生きてる人間と確かにやり取りしてるんだなって実感できる。だからあの下手な似顔絵、もっと描いてよと思う。

中三・冬休み
まさかソ連がなくなるとは。2年前、ベルリンの壁が崩壊した時も驚いたけど、子供の頃図鑑で見て行きたいと憧れてた国々が、中学時代にこうなるとは思いもよらなかったよ。マジで驚きだ。私が海外旅行に行かれる日は来るのだろうか。行かれるとしたら、それはいつ、どこだろう。やっぱり初めは東欧に行きたいな、ユーゴスラビアやブルガリア、あとやっぱりベルリン。まさかブルガリアやユーゴスラビアもなくなるなんてことはないよね？こんなに超一生懸命英語を勉強してるのに、アメリカやイギリスへ一番に行きたいんじゃないのもなんかおかしいね。オーストラリアははなから興味ないしな。アメリカもイギリスも両方、行けるならもちろん行きたいけどさ。私が外国に興味持ったのは、お父さんが永田さんや会社の社長からお姉さんたちのお下がりの本を沢山もらって来て、それを熱心に読んだのがきっかけだった。小説もいっぱいあったけど私は図鑑や歴史のマンガがとにかくお気に入りだった。うちじゃ誰も本なんか読まないし、買わない。お父さんが本をもらって来なければ私は本を読むことなんかきっとなかっただろうから、私は多分もっとバカな子になってたと思う。図鑑で見た国もそうでない国も、なくなった国も、何千年以上も続いてる国も自分のこの足、この目で見てみたい。そのために頑張らなくちゃ。まずは何はともあれ受験だ。でも受からなかったらどうしよう。