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The Lost Universe 古代の巨大霊長類たち⑤古代霊長類と未確認生物

これまでは絶滅した巨大な古代霊長類についてフォーカスしてきましたが、最後にまとめ及び外伝的な立ち位置として、巨大絶滅霊長類とUMA(未確認生物)についての考察を記述していきます。学術的な記事としてよりも、エンターテインメントとして読んでいただければ幸いです。


霊長類と未確認生物の深い関係

なぜ霊長類タイプのUMAが多いのか

ネス湖のネッシーを筆頭とする未確認生物ーーいわゆるUMAと呼ばれる謎の生き物たち。その中でも、霊長類型のUMAは世界中で多数の目撃例があります。有名どころで言うなら、ヒマラヤのイエティ、北アメリカのビッグフットが挙げられ、これらは最初の目撃から現在に至るまで世界中の超常現象ファンの注目を集め続けています。
では、なぜ、こういった大型の霊長類タイプの目撃例が多いのでしょうか。同じ動物なのに、肉食獣型や鳥型のUMAは数えるほどしか報告がありません。

これは筆者の持論ですが、その多くの正体は人間であったからだと思われます。霊長類タイプのUMAの多くは2足歩行状態で目撃されたものが多く、4本足で歩いている姿の報告例は乏しいのが現状です。霊長類は人間に近い類人猿であっても基本的に4足歩行で移動しており、2本足で行動している時間は極めて少ないのです。
イエティの正体説として、ヒンドゥー教の修行僧を未知のサルと間違えたという意見があります。もし天候の悪い状態で2本足で歩く何者かと遭遇すれば、人間の影を謎のサル型生物と誤認しても不思議ではないと思います。

幻のサルを追う人々

時代が変わったとはいえ、UMAは現在も人々の心を揺さぶる存在です。海外においては、動物学のプロフェッショナルを集めたうえで、イエティやビッグフットの捜索ドキュメンタリー番組が制作されることもあります。
謎とロマンに満ちあふれたUMAへの挑戦はとてもエキサイティングであり、その実在に対して懐疑的な筆者でさえもワクワクしてしまいます。番組は冒険仕立てで作られることが多く、地元住民へのインタビューや現地調査を進めていくにつれて謎が深まっていき、視聴者は目が離せなくなります。未知なるものへの憧れなのでしょうか、今も昔も人々はUMAに魅せられているのです。

また、動物学者の中にはイエティやビッグフットの存在を固く信じ、追い続けている人々がいます。UMA研究者は世界中に存在し、未確認動物学(cryptozoology)という広義の学問が立ち上げられました。とはいえ現代社会においては、いまだオカルト研究の範疇を脱していないものと思われますが……。

もちろん、地球上にまだまだ多くの未知の霊長類が生息してる可能性は十分あります。21世紀になっても、アンゴラドワーフガラゴ、レスラ、ポッパラングールといった新種の霊長類が続々と発見されています。加えて、実はゴリラも近代まで空想上の生物だと思われており、実在を信じる人は少数でした。彼らが現実の生き物だと認知されたのは、20世紀初頭になってのことでした。
しかしながら、イエティやビッグフットの発見が成し遂げられる日は来るのか、いささか疑問です。完成度の高い捜索ドキュメンタリー番組に興奮しながらも、壮大な茶番劇を見ているような気になるのは邪推がすぎるでしょうか……。

ゴリラの全身骨格(群馬県立自然史博物館にて撮影)。かつてはゴリラも未確認動物であり、存在が疑われていました。新種の霊長類はこれからもきっと発見されると思われますが、さすがにイエティやビッグフットは……?

古代巨大霊長類の生き残り(?)とされるUMA

イエティ 〜挑んだ探検家は数知れず! 霊長類系UMAの総大将〜

ネス湖のネッシーと並び、UMAの代表として世界中に名を知られる霊長類タイプの未確認生物の代表。それがヒマラヤ山脈に棲むと言われる謎の巨大霊長類イエティです。
19世紀後半にイギリス陸軍のウォーデル氏によって証跡が発見されて以降、世界中の登山家から次々と巨大なサル型UMAの目撃情報が寄せられ、ヒマラヤには得体の知れない巨大霊長類が棲んでいると大ニュースになりました。その霊長類型の未確認生物は、ネパールに住むシェルパ族の伝説に登場する怪物の名前にちなんで『イエティ』と呼ばれました。

日本では雪男と呼ばれ一躍有名になり、以来、霊長類タイプのUMAは総括して(雪山に棲んでいなくても)雪男と呼ばれることが多くなりました。これまで足跡や体毛などの物的証拠が多く見つかっており、イエティは他のUMAに比べて実在説が強く唱えられています。

今日に至るまで世界中のありとあらゆる探検家がイエティを発見すべくヒマラヤ山脈に挑み、地球屈指の峻厳な巨山で幻のサルを追い続けてきました。その中には、日本人の探検家も含まれます。
寒さの厳しい雪山で活動できるサルは、世界中を見ても極めて少数です。果たして、寒冷地に適応した未知の巨大霊長類が本当に存在しているのでしょうか。

目撃情報から得られた特徴を総括すると、イエティは毛深いサルのような姿で、人間よりはるかに巨大とのことです。ここで存在肯定派が正体として挙げたのは、前回の記事(下記リンク参照)にて紹介した史上最大の霊長類ギガントピテクスです。ギガントピテクス自体の威厳と神秘性も相まって、多くのメディアが生存説を取り上げましたが、残念ながらイエティの正体としての可能性は極めて低いと言えます。

ギガントピテクスは巨体ゆえに、たくさんの食糧を必要とします。動物園のゴリラのオスは体重200 kg近くあり、1日に30 kgの量の餌を食べます。ずっと巨大なギガントピテクスは、さらに多量の植物質の食糧を得ないと生きていけません。ヒマラヤ山脈という植生の限定された極限環境でーーましてや、種の存続に必要な何百頭もの個体を養うほどの資源があるとは思えません。

ダメ押しとして、イエティのものとして保管されている体毛は、DNA分析の結果、ヒグマの毛であることが判明しました。さらに、イエティの生体を撮影したとされる1996年のフィルムも、捏造であったことがわかりました。
こうした流れも踏まえ、今では「イエティの正体=古代の巨大類人猿ギガントピテクス」は妄説とされています。

イエティの伝説は古来から現地で語り継がれていますが、正体がヒグマであることはヒマラヤ地方に住む多くの民族概ね認めているようです。イエティはヒグマの恐ろしさに基づいて生まれ、宗教的なシンボルへと変容したのです。結果的に、それがUMAとしての神秘性を色濃くし、イエティの存在感を強くしています。

ヒグマの剥製(神奈川県立生命の星・地球博物館にて撮影)。イエティの正体として最も有力であり、物的証拠であるイエティの体毛もDNA分析でヒグマのものとわかりました。また、ヒグマも状況次第では短距離を2本足で歩くことがあり、イエティだと思われていた可能性が高まっています。

なお、イエティと双璧をなす霊長類UMAビッグフットについては、さらに正体についての議論が迷走しています。古代で霊長類の繁栄が絶えた北アメリカ大陸では、巨大類人猿説はかなり無理があります。
そのため、ベーリング海峡を渡ってきた古代人類説(これはまだまし)の他に、UFOに乗って宇宙からやってきたエイリアン説まで、突拍子のない意見が多数提唱されています。まさか存在肯定者の想像がはるか地球外の世界にまで及ぶとは、UMAの持つ底知れぬ影響力には驚愕を禁じえません。

巨大インドリ 〜マダガスカルの怪物! 古代キツネザルの生き残り?〜

キツネザルの楽園にして、貴重な固有生物の宝庫・マダガスカル。
この島に息づく生命は、稀有な環境の中で独自の進化を遂げており、今もなお多数の新種が発見され続けています。センセーショナルな新発見の裏では、UMAの目撃が幾度も報告されています。

その一つが、森の中に棲むという巨大なインドリの話です。
インドリはマダガスカルの北東部から中東部の森林に生息しており、現在生きている種類の中では最大のキツネザルです。成体では体長70 cm、体重8 kgにも及びますが、なんと件の巨大インドリは人間以上の大きさがあると報告されています。

巨大インドリは勇猛な気質をしており、自衛のために人間を攻撃することがあるようです。ハンターが槍を投げつけると、驚くべきことに、巨大インドリは逆に槍を掴んで投げ返してくると言われています。
意外な攻撃能力を有する謎の巨大インドリ。その正体として候補に挙がっているのが、過去の記事(下記リンク参照)で紹介した古代の大型キツネザルであるメガラダピスです。

巨大インドリの大きさは人間ほどもあるとされ、体格だけならばメガラダピスと共通していると言えます。ただ、生態については結構な相違があります。

まず、槍を掴んで投げ返してくるという証言についてですが、キツネザルの前足は投擲には適していません。類人猿ならば、動物園のチンパンジーが来園者に物を投げつけたという事例があるものの、キツネザルの腕の構造ではかなり難しい話です。
そもそも、過去の記事で紹介した通り、メガラダピスは植物食性のおとなしい動物だったというのが定説です。いくら自衛のためとはいえ、ハンターに向けて槍を投げ返してくるという荒々しい行動は、いささか擬人化がすぎると思わざるをえません。考察すればするほど、正体は人間であるような気がするのですが……。

クロシロエリマキキツネザルの剥製(ミュージアムパーク茨城県自然博物館 特別展にて撮影)。私たち人間の手とは異なり、キツネザルの前足は物体を投げることに適していません。槍を投げ返してくる巨大インドリの正体は、本当に古代のキツネザルなのでしょうか。

今回取り上げたサル型の未確認生物は2種のみですが、世界に目を向けてみると、霊長類系UMAの総数はなんと数十体にものぼります。これはもはや超常現象界における一大コンテンツと言ってもいいでしょう。
確かに、壮大なヒマラヤ山脈やマダガスカル島の大自然に未知の大型生物が生息していても、何ら不思議ではありません。ですが、それらが古代の絶滅霊長類の生き残りである可能性は、残念ながらあまり高くはないと言わざるをえません。

とはいえ、UMAは過去も現在もミステリーファンの心を強く捕えて離さない魅力的な存在です。人類の歴史が続く限り、彼らは永遠に神秘の対象として在り続けるでしょう。かく言う筆者も、実はかなりのUMA好きだったりします。

【参考文献】
ダニエル・ロクストン, ドナルド・R・プロセロ(2016), 松浦俊輔(訳)『未確認生物UMAを科学する モンスターはなぜ目撃され続けるのか』化学同人
高井正成・中務真人(2022)『化石が語るサルの進化・ヒトの誕生』丸善出版
羽仁礼(2022) ムーweb『ヒマラヤの雪男「イエティ」は実在する! 直立二足歩行する獣人UMAの正体とは !?/羽仁礼・ムーペディア』https://web-mu.jp/paranormal/2986/
UMAファン 〜 未確認動物 http://umafan.blog72.fc2.com/


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