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「ズルい奴ほどよく吠える」5

■05 織部印刷工場(別の日)
 
織部と今日子。鍋を前に密談している。
 
今日子 「本当に大丈夫?」
織部  「大丈夫だよ」
今日子 「ホント?」
織部  「俺、元演劇部だぞ。中卒だけど」
今日子 「はいはい。頼んだわよ」
政春声 「ただいま」
今日子 「来た来た来た」
明日香声「お邪魔します」
 
政春と明日香来る。
 
織部  「おかえり。そしていらっしゃい」
今日子 「どうぞ、座って」
 
政春、明日香、座る。
 
政春  「お、鍋。暑くない?」
織部  「みんな揃ったら鍋だろう」
政春  「そう?」
今日子 「そうよ」
織部  「うん。まああれだ、な、今日子」
今日子 「オサムちゃん」
政春  「どうしたの?」
織部  「あれだ!今日は暑かったな、明日も暑いのかな」
政春  「なんだよ」
織部  「うん・・・ところで木田ってお友達はいるのかな?」
政春  「木田?いないよ」
織部  「そうか・・・ホントに?」
政春  「いないよ」
織部  「あそう・・・今日子ちゃんいないって」
明日香 「政春さん、木田さんと会ったことあるよね」
政春  「え?」
明日香 「大手建設の。木田さんに会ったことあるよね」
政春  「何言ってんだよ急に」
明日香 「あるでしょ?私、聞こえちゃったの。電話で木田さんと会う約束をしてるとこ」
織部  「本当なのか?」
今日子 「どうなの政春?」
政春  「・・・一回だけな。向こうから連絡が来たから・・・別に怖い人だと思ってなかったし」
織部  「何を話したんだ?」
政春  「この工場を売って欲しいって言われた」
織部  「それで?」
政春  「勿論断ったよ」
織部  「そうか」
政春  「ただ木田さんはこの工場の権利が僕にあることも知ってた」
明日香 「どういうことですか?」
今日子 「ここの土地はオサムちゃんと政春で権利を共有してるの」
明日香 「そうなんですか?」
今日子 「ここを継ぐときに、オサムちゃんがそうしようって言ってくれて」
織部  「だからマーくんをターゲットにした・・・あの人は気をつけたほうがいいって言われてる」
政春  「誰に?」
織部  「井上さん」
政春  「ああ、井上さんか」
織部  「あの人情報通だろ。気をつけろって」
政春  「分かった」
織部  「隠しごとはナシだぞ」
政春  「分かったよ」
今日子 「ホントよ?」
政春  「なんだよ。分かったって言ってるだろ。俺だってここがなくなるなんて嫌なんだから」
織部  「みんなでこの工場を守ろうな」
政春  「うん」
今日子 「良かった。心配してたのよ。それにしてもオサムちゃん芝居下手ね。本当に演劇部だったの?」
織部  「おい、鍋煮えてるぞ」
 
織部が箸を持つ。
 
政春  「実はさ、二人に報告があるんだ」
今日子 「何?」
政春  「俺たち結婚することにした」
織部  「結婚?」
明日香 「はい」
織部  「そうか。結婚かあ。おめでとう」
今日子 「おめでとう」
明日香 「ありがとうございます」
政春  「まあ、姉ちゃんとオサムちゃんのお蔭かな」
今日子 「そうなの?」
織部  「何で?」
明日香 「前にここに来た日にマーくん、プロポーズしてくれたんです」
今日子 「マーくん?」
織部  「マーくんって呼ぶようになったの?」
織部  「マーくんってプロポーズを機にそうしようってなって」
織部  「いいねえ。明日香ちゃんがどんどん家族になっていくみたいで俺も嬉しいよ」
明日香 「まだ恥ずかしいんですけど」
今日子 「なんならこの人のこともオサムちゃんって呼んであげてね」
織部  「いいよ。呼んで!」
明日香 「お、さ・・・それはまだハードルが高いです」
織部  「なんでだよ」
今日子 「まあまあ、だんだん、だんだんね」
明日香 「はい」
今日子 「で、結婚式はいつ?」
政春  「明日香が式はしなくてもいいって。な」
明日香 「ええ。家族で食事をするとか、それくらいでいいかなって」
今日子 「そう・・・」
織部  「いや。式はやったほうがいい」
政春  「でも」
織部  「明日香ちゃんにウェディングドレス着せてあげないと」
今日子 「そうね。明日香ちゃんのご両親のためにもそうしなさいよ」
明日香 「いえ、うちの親は好きにしていいって言ってますから」
今日子 「それでもよ」
明日香 「・・・」
政春  「わかった。式はやろう」
明日香 「大丈夫なの?」
政春  「今すぐにってわけには行かないけど。明日香のご両親を喜ばせてあげなくちゃ」
織部  「エライ」
明日香 「ありがとう」
政春  「何泣いてんだよ」
今日子 「嬉しいのよ。明日香ちゃんも」
織部  「(すっと仏壇へ向かう)」
 
気付いてみんなで仏壇に手を合わせる。
 
織部  「マーくん紹介してやれよ」
政春  「父さん、母さん、俺のお嫁さんだ」
明日香 「・・・マーくんの妻になります。不束者ですがよろしくお願いします」
織部  「俺たちもマーくん夫婦を応援します。二人をよろしくお願いします」
今日子 「よろしくお願いします」
織部  「よし、メシだ」
 
鍋が煮えまくっている。
 
織部  「あの、煮詰まっちゃってますけど」
今日子 「文句言わない」
明日香 「・・・美味しい」
織部  「ホント?・・・美味い!」
 
一同の明るい空気。

暗転。

学校のチャイム。

<6><6A>に続く


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