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「ズルい奴ほどよく吠える」6,6A

■06 福沢学園小学校・職員室
 
雪、城田、西川。
石原、吉岡が入ってくる。
 
吉岡  「織部先生!」
城田  「まだ教室から戻って来ていません」
吉岡  「城田先生、織部先生を呼んできてください」
城田  「わかりました」
 
城田出ていく。
 
吉岡  「こんなときに何をしてるんだ」
雪   「織部先生はお楽しみ会の指導をしてると思うんですけど」
吉岡  「お楽しみ会?」
雪   「はい。5年生がクラスごとに出し物をするんです」
吉岡  「大熊さんのご子息は?」
雪   「健太くんですか?」
吉岡  「そう、健太くん、健太くんです」
雪   「健太くんは漫才をやるそうです」
吉岡  「漫才を?」
雪   「ええ、健太くんが自分でやりたいって言ったみたいです」
吉岡  「へえー」
雪   「健太くんが自分から何かをやりたいって言い出すなんて初めてな    
     んで私も嬉しくて」
吉岡  「そうですか・・・」
石原  「すぐにやめさせなさい」
吉岡  「すぐにやめさせなさい」
雪   「何でですか?」
石原  「大熊さんからお電話がありました。芸人の真似事なんて止めさせ  
     るようにと」
雪   「そんな。折角健太くんがやる気になってるのに」
石原  「とにかくお父様がお怒りなんです」
雪   「校長はどうお考えなんですか?」
石原  「どうって?」
雪   「健太くんが折角自分でやりたいことを見つけたんです。やらせて
     あげたいとは思わないんですか」
石原  「私の気持ちなんてどうでもいいんです」
雪   「健太くんのお父さんに掛け合ってあげられないんですか。お父さ
     んだってきっと分ってくれます」
石原  「南雲先生の気持ちは分ります」
雪   「だったら」
石原  「しかし、大熊さんの教育方針に反するわけには行きません」
雪   「お父さんだって健太くんがやりたいことをやらせてあげたいんじ
     ゃないですか」
石原  「何で言い切れるの?」
雪   「何で?」
石原  「寄付金を貰えなくなったらどうするの?」
雪   「寄付金?」
石原  「とにかくやめさせなさい」
雪   「いやです」
西川  「校長先生、南雲先生はお疲れなんです」
雪   「ちょっと」
西川  「いいから・・・漫才の代わりに何をさせたらいいんですか」
吉岡  「え?」
石原  「大熊さんはバイオリン演奏が良いと」
西川  「分かりました。バイオリン演奏に変更しましょう」
雪   「健太くんはそんなことしたいと思ってない」
吉岡  「南雲先生!」
西川  「大丈夫です。南雲先生には後でちゃんとお話しておきますので。
     いいですね南雲先生」
雪   「ちょっと」
西川  「ここは引いてくれ」
雪   「・・・」
 
政春と城田、入ってくる。
 
城田  「織部先生を連れて来ました。お楽しみ会の練習に熱が入ってて」
政春  「すいません」
城田  「ちょうど健太くんたちが漫才の練習をしてて、いやあ笑った笑っ
     た」
吉岡  「城田先生はあちらへ行ってなさい」
城田  「はい」
 
城田、自席へ。
 
西川  「織部先生、健太くんの出し物、バイオリン演奏に変更になりまし
     た」
政春  「バイオリン演奏?何でですか?」
西川  「お父様からのご要望です」
政春  「いやでも健太くんは、一生懸命漫才のネタを考えて来て、かなり
     いい出来なんです。それをいきなりバイオリンだなんて」
石原  「大熊さんがそう仰ってるんです。私たちが口を挟むことじゃない
     でしょう」
政春  「でも健太くん、漫才を考えてるとき、ホント活き活きしてて」
雪   「校長先生、なんとか健太くんの意思を尊重してあげられません
     か」
西川  「南雲先生、子供たちのことを尊重するだけでなく、保護者のお気
     持ちを尊重するのが教師の仕事じゃないですか」
雪   「ちょっと!」
石原  「西川先生の言う通りです」
吉岡  「西川先生の言う通りです」
政春  「分かりました。健太くんとも相談してどうするか決めます」
西川  「健太くんはいい子だからきっとお父様の言うことを聞くと思いま
     す」
石原  「織部先生よろしくお願いします」
吉岡  「よろしくお願いします」
政春  「はい・・・」
西川  「僕からも健太くんに言っておきます」
政春  「ありがとうございます」
石原  「他の先生方も西川先生を見習うように」
 
石原、拍手をする。
吉岡、城田もそれに続く。
 
石原  「織部先生、ちょっと校長室に来てください」
 
石原と政春校長室に移動する。
 
 
■06A 校長室
 
石原  「どうぞ」
政春  「失礼いたします」
 
木田が登場。
 
木田  「お久しぶりです」
政春  「何であなたが!」
木田  「私のことは気になさらないで下さい」
政春  「気になりますよ」
石原  「織部先生」
政春  「なんでしょう?」
石原  「ご自宅は印刷工場を営んでいるんでしたね」
政春  「え?ええ」
石原  「そのことで、大熊さんから直々に連絡がありましてね。彼は大熊
     さんの代理の方です」
木田  「よろしくお願いします」
政春  「僕の実家を立ち退かせて再開発をするって話ですか」
石原  「話が早いですね」
政春  「その件で家族会議をしました。うちは立ち退きには応じられませ
     ん」
石原  「ご両親が残した工場だからですか?」
政春  「・・・僕の両親は僕が小学校のときに事故で死にました。それか
     らは姉と義理の兄がずっと守ってきたんです。工場を簡単に立ち
     退けなんて言われても無理です」
石原  「お姉さんがそう言ってるんですか」
政春  「姉だって工場を手放す気はありません」
石原  「立ち退いていただかないと福沢学園としても困るんですよ」
政春  「寄付金がなくなるからですか・・・それで協力しろと言うことで
     すか」
木田  「選択肢は二つあります。土地の権利を渡すか、この学校から去る
     か」
政春  「あの、これって公私混同していませんか」
石原  「でも、一生懸命働いてくれたお二人を泣かせたくないですよね」
政春  「どういう意味ですか」
石原  「もしあなたがこの学校を辞めたらどう思うか。苦労してあなたを
     先生にしてくれたんでしょう?」
政春  「・・・」
木田  「タダで出て行けと言っているわけではないんですよ」
政春  「お金で解決できるならこんなに困っていません」
木田  「あの工場はあなたとお義兄さんとの共有名義でしょう。あなたの
     権利分だけでいいんです。売っていただけませんか」
政春  「無茶言わないでください」
木田  「土地を売っていただければ、しばらくはお金の心配もしなくて済
     むんです。それもひとつの恩返しじゃないですかねえ」
政春  「考えさせてください・・・」
 
政春、出て行く。
木田、石原に銀行封筒を渡す。

シャッター音。
 
石原  「これは?」
木田  「お茶請けにお使いください」
石原  「あ、そうですか」
木田  「引き続きよろしくお願いします」
石原  「・・・東京オリンピックが楽しみですね」
 
暗転。


<7>に続く


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