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「ズルい奴ほどよく吠える」7

■07 職員室(夜)
 
雪が残業をしている。
西川が手持無沙汰で雪を待っている体。
 
雪   「(手を止めて)コウジ、変わったよね」
西川  「変わった?そうかな」
雪   「大人になった、悪い意味で」
西川  「悪い意味でって」
雪   「コウジは何で先生になろうと思ったの?」
西川  「何で?」
雪   「そう、何で」
西川  「笑うなよ」
雪   「笑わない」
西川  「小学校のときの先生がさ、俺を助けてくれたんだよね」
雪   「へえー」
西川  「俺、いじめっ子だったんだ」
雪   「そうなの?意外」
西川  「ある日先生が俺に『いじめをしてるだろ』って言うんだよ。俺が 
    『してません』って言ったら『ウソを言うとお前のことを信じられ   
     なくなっちゃうから本当のことを言ってくれ』って泣くんだよ
     ね」
雪   「うん」
西川  「それで『ちょっとだけやってました』って言ったら先生、泣きな
     がら俺のことをぶっ飛ばしたんだ」
雪   「え?暴力?」
西川  「俺、はじめて人に殴られて『痛み』ってものを理解したんだ」
雪   「それで?その先生はどうなったの?」
西川  「即刻クビ。その後は全然分からないけど、俺はその先生に助けら
     れたと思ってる・・・それで俺も先生になりたいって思ったって
     わけ」
雪   「コウジにとっては必要な先生だったんだね」
西川  「でも今はそんな風に子どもたちと付き合えない。教師は勉強だけ
     教えていればいいんだって思われてる」
雪   「そうかな?」
西川  「学校は企業、生徒はお客様、そう思わなくちゃ先生なんてできな
     いよ」
雪   「でもいい先生に巡りあったと思ってるんでしょ」
西川  「クビになったバカな先生だよ。社会人としては最低」
雪   「私はバカでもいいから子どもたちに寄り添ってあげられる先生で
     いたいよ」
西川  「金八先生みたいな先生なんて今は何の評価もされない。そもそも
     子どもたちがそんな先生を求めてないから」
雪   「コウジのそういう所が分からない。正しいことを曲げてまで校長
     先生や吉岡先生の肩を持とうとする」
西川  「それが社会人なんだよ。寄らば大樹の陰」
雪   「もういい。今日のデートは中止。先に帰って」
西川  「何だよ。折角イタリアン予約したのに」
雪   「帰って」
 
そこに来る政春。
 
政春  「・・・入っていいですか」
西川  「織部先生・・・」
雪   「お帰りになったんじゃないんですか」
政春  「ああ、ちょっとやらなくちゃいけないことを思い出したん
     で・・・どうぞ」
西川  「え?」
政春  「お二人、お付き合いしてたんですね」
西川  「知ってたんですか?」
政春  「いえ、今知りました」
西川  「・・・そうですか。じゃあお先します」
政春  「あ、お疲れ様でした」
 
西川、帰っていく。
 
雪   「・・・」
 
雪、怒って帰る準備をしている。
 
政春  「大丈夫ですか」
雪   「ええ」
政春  「ケンカしたんですか?」
雪   「まあ」
政春  「西川先生はいい先生なんでしょうね」
雪   「何でですか?西川先生なんかより織部先生のほうがずっといい先
     生だと思いますけど」
政春  「職務をちゃんと全うしてます」
雪   「まあ・・・そうですね」
政春  「僕にはできないです」
雪   「できなくていいと思いますけど」
政春  「そんなことないです。南雲先生、西川先生にいっぱい守ってもら
     ってるじゃないですか」
雪   「そうですか?」
政春  「大熊さんが来たときも冷静に発言してたし。もし僕だったら一緒
     に怒ってどうにもならなくなってたと思います」
雪   「でも、たまには一緒に怒って欲しいです」
政春  「・・・そうですか」
 
政春、メモをノートに書き写したりしながら。
 
政春  「僕、結婚するんです」
雪   「え?そうなんですか!おめでとうございます」
政春  「ありがとうございます」
雪   「織部先生幸せですね」
政春  「幸せ・・・幸せか」
雪   「どんな人なんですか?」
政春  「いい人ですよ。僕なんかを好きになってくれるんですから」
雪   「織部先生は魅力的ですよ」
政春  「そんなことないですよ」
雪   「魅力的ですって」
政春  「やめてください」
雪   「自信を持ってください」
政春  「無理です!」
雪   「!」
政春  「僕は何もできないダメな人間なんです!」
雪   「織部先生・・・」
政春  「すいません・・・」
雪   「織部先生、私は織部先生のこと尊敬してますよ」
政春  「・・・」
雪   「失礼します」
 
雪、出て行く
政春、現金の入った封筒を出して
 
政春  「・・・」
 
石原が来る。
咄嗟に封筒を隠す。
 
政春  「校長先生、どうしたんですかこんな時間に」
石原  「いえ、電気がついていたので」
政春  「すいません、すぐ帰ります」
 
暗転。

無音。


<8,8A,8B、8C>に続く


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