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「ズルい奴ほどよく吠える」3

■03 福沢学園小学校・職員室
 
 小学校の終業のチャイム。
 雪、西川、城田。奥に教諭主任の吉岡。
 立っている政春にやってきた城田がぶつかる。
 散乱する書類。
     
城田  「織部先生、邪魔ですよ」
政春  「すいません」
雪   「大丈夫ですか?」
政春  「ええ」
あすさ 「城田先生何やってるんですか」
城田  「何がです?」
雪   「一言声かければいいじゃないです」
城田  「はあ?ボーっとつっ立ってるほうが悪いでしょ」
雪   「ぶつかるほうが悪いに決まってるじゃないですか。ねえ西川先生」
西川  「え?いや僕は・・・」
城田  「何言ってるかよく分かんないんだよ」
政春  「・・・」
雪   「城田先生!」
西川  「南雲先生、もういいじゃないですか」
雪   「良くないです。こんないじめみたいなこと私たち教師がしちゃダメです」
西川  「いじめって・・・」
政春  「すいません・・・僕がちょっとボーっとしてたから」
城田  「ほら!南雲先生変な言いがかりはやめてください」
雪   「ちょっと待ってください」
西川  「南雲先生、今日は大事なお客様がいらっしゃってるんですから」
雪   「・・・」
政春  「南雲先生、大丈夫ですから」
城田  「もういいですか。トイレ行って来ます」
吉岡  「城田先生、ちょっと」
城田  「はい」
雪   「・・・」
政春  「すいません・・・」
雪   「先生。言うときはちゃんと言わないと」
政春  「はあ・・・」
西川  「南雲先生」
雪   「何ですか?」
西川  「クールダウンクールダウン」
雪   「教師がこんなことしてるから子どもたちがいじめをしてもいいって思っちゃうのよ」
西川  「子どもたちが見てるわけじゃないんだから」
雪   「何その言い方」
西川  「あ痛っ」
雪   「・・・」
 
 そこへ入ってくる石原と大熊。
 
石原  「どうぞ、こちらが職員室です」
大熊  「どうも」
石原  「皆さん注目してください。こちらは大熊健太くんのお父様です」
大熊  「大熊です。息子がお世話になっております」
石原  「大熊さんは我が福沢学園にとって、大変大切な方です。本日も我が校のために多額の寄付金を」
大熊  「校長、余計なことは言わなくて結構ですから」
石原  「えっ、でも」
大熊  「いいですから」
石原  「では、大熊さん、今後ともよろしくお願いいたします」
皆さん 「よろしくお願いいたします」
大熊  「校長、ひとつだけよろしいですか」
石原  「何でしょうか?」
大熊  「健太の担任の先生は?」
雪   「はい。私です」
吉岡  「大熊様、南雲先生は子どもたちに人気があるんですよ」
雪   「はあ」
大熊  「南雲先生。あなたはうちの健太に言いがかりをつけたそうですね」
石原  「言いがかり?南雲先生どうなんです?」
雪   「何のことでしょう?」
大熊  「健太がいじめをしたと、でっち上げたそうですね」
石原  「でっち上げ?」
雪   「いえ、でっち上げなんてしてません」
大熊  「健太は『いじめなどしていないのに先生に無理矢理謝らせられた』と」
石原  「まあ、それが事実なら大問題ですよ」
吉岡  「どうなんですか。南雲先生」
雪   「私は泣いていた女の子から健太くんに悪口を言われたと聞いたので確認をしたんです」
大熊  「それで?」
雪   「健太くんは自分の非を認めて自分から謝りました」
大熊  「君が謝れと迫ったから仕方なく謝ったと健太は言ってるんですが」
雪   「それは違います。健太くんはちゃんと」
大熊  「あなたは、あなたの勝手な思い込みでうちの子を叱ったんじゃないですか」
雪   「違います!」
大熊  「大体、健太がいじめをするなんて有り得ないんです。私は健太にいじめはいけないことだと小さい頃から言って聞かせてきました」
雪   「それでもやってしまうのが子供なんじゃないでしょうか。悪いことをしたらちゃんと叱ってあげることで、子供たちは学んでいくんじゃないでしょうか」
大熊  「うーん、話になりませんね」
雪   「・・・」
石原  「南雲先生、私たちは大切なお子さんをお預かりしている立場なんです。教師の思い込みでお子さんを叱るなんて言語道断です」
雪   「ちょっと待ってください」
石原  「あなたは黙ってなさい」
雪   「・・・」
石原  「申し訳ありません。南雲先生は若いので間違うこともございまして」
大熊  「私たち保護者は安くはない学費を払っているんです。それに見合った先生を揃えていただかないと困りますね」
石原  「重々承知しております。南雲先生は厳しく指導いたします」
政春  「あの」
石原  「何ですか?」
政春  「ちゃんと確認してみたらいかがでしょう」
石原  「確認なんて必要ありません」
政春  「でも」
石原  「必要ないと言ってるでしょう」
政春  「すいません」
雪   「・・・」
政春  「・・・」
石原  「南雲先生、健太くんはいじめなどしていませんね」
雪   「いえ、いじめは・・・」
西川  「していません」
雪   「え?」
西川  「健太くんはいじめなどしていません。南雲先生はちょっと勘違いをしていただけだと言っています」
雪   「ちょっと」
西川  「そうですよね?」
雪   「(口を塞がれて)モゴモゴ」
西川  「南雲先生もこう申しておりますので今回はお許しいただけませんか」
大熊  「・・・担任を代えていただけませんか」
石原  「代える?と申しますと」
大熊  「5年1組の担任を代えてください」
石原  「しかし年度が変わらないのに担任を代えると言うのは、他の子たちもショックを受けてしまうこともありまして・・・」
大熊  「そうですか。ではうちの子は転校させていただきます」
雪   「健太くんを転校させるんですか?」
大熊  「ええ、寄付金の返還手続きをしないといけませんね」
石原  「返還?」
大熊  「それはそうでしょう」
石原  「いえ、ちょっとお待ちください」
大熊  「転校の手続きをさせてもらっていいですか」
石原  「分かりました。迅速に担任を代えさせていただきます」
雪   「えっ」
大熊  「そうですか」
石原  「いいですね、南雲先生」
雪   「・・・」
石原  「学園としましても健太くんが安心して我が校に通っていただけるよう、一層の努力をいたしますので」
大熊  「校長先生、誠意ある対応ありがとうございます。ただ・・・」
石原  「なんでしょうか」
大熊  「南雲先生にちゃんと謝罪の言葉をいただきたいですね」
雪   「え?」
石原  「それはそうです」
大熊  「そうでないと健太に説明がつかないので」
石原  「ほら南雲先生、大熊様に謝罪を」
雪   「謝罪なんてできません。私は健太くんが悪いことをしたから叱っただけです」
石原  「それはあなたの誤解でしょう」
雪   「誤解じゃありません」
石原  「いいから謝りなさい!だいたい教師が勘違いで子供を叱るなんて有り得ません。それを大熊様は謝れば許すと仰ってるんです」
雪   「でも・・・」
石原  「謝りなさい!」
西川  「申し訳ありませんでした。ほら」
雪   「・・・申し訳ありませんでした」
大熊  「南雲先生、早くいい先生になってください」
雪   「・・・」
大熊  「では校長、また」
石原  「あ、お送りいたします。吉岡先生」
吉岡  「お供します」
 
 去ろうとすると政春が大熊の目に留まる。
 
大熊  「そうだ。君が5年1組の担任になればいいじゃないですか」
政春  「え?」
石原  「それはいい考えですね!吉岡先生」
吉岡  「そ、そうですね。では明日から早速織部先生に担任を」
政春  「いやそれはちょっと」
石原  「これは校長命令です。いいわね」
政春  「・・・はい」
大熊  「頑張ってください」
 
 大熊去る。追うように石原と吉岡、城田も去る。
 
雪   「・・・」
政春  「すいません」
雪   「いえ、織部先生のせいじゃないです」
政春  「校長も酷いですね。あんな露骨に保護者の言いなりになるなんて」
雪   「・・・」
政春  「僕には何もできませんでした」
雪   「仕方ないですよ」
政春  「子どものいじめと一緒です」
雪   「え?」
政春  「攻撃される側には誰もついてくれない。そんなの大人も子供も一緒です。すいませんでした」
雪   「もう結構ですから」
西川  「南雲先生」 
雪   「西川先生!何であんなことをしたんですか?」
西川  「その方がいいからです」
雪   「全然良くないです」
西川  「あの、ちょっといいですか」
雪   「何ですか?」
西川  「まあまあ。あっちで(話しましょう」」
 
 西川と雪、舞台隅に移動して
 
西川  「大丈夫か?」
雪   「何であんなこと言うのよ」
西川  「仕方ないだろ。ああするしかなかったんだから」
雪   「私、間違ってないよね?」
西川  「間違ってはいない」
雪   「だったら」
西川  「でも相手がまずいよ。大熊さんには校長だって頭が上がらない」
雪   「じゃあ教師は子どもたちに善悪の判断を教えちゃいけないってこと?実際、健太くんは未久ちゃんをいじめてたんだよ」
西川  「昭和だったら違うんだろうけど」
雪   「時代の問題?」
西川  「学校に親がどんどん口を出せるようになったからな。逆に俺たち教師は親の顔色も見なくちゃいけない」
雪   「そんなのおかしい」
西川  「いつも言ってるだろ、今、教師は聖職なんかじゃない。サラリーマンだ」
雪   「だから?」
西川  「もっと上手く生きろよ。自分のためにさ」
雪   「・・・もう嫌だこんな学校」
西川  「だったら辞めて俺の嫁さんになる?」
雪   「今そういうこと言う?」
西川  「ごめん。じゃあどうするつもり?」
雪   「やめないわよ。こんなことで辞めたら子どもたちに顔向けできないもん」
西川  「そんなに熱くなるなよ。俺たちはサラリーマン。給料を払ってくれる人のために働けばいいんだよ」
雪   「あのね、私は子どもたちにいい大人になって欲しいの。だから教師になったの」
西川  「分かってるけどさ」
雪   「子どもたちのためにも、この学校をいい学校にしたいの」
西川  「気持ちは分かるけど・・・この学校、いい学校になんてなるのかなあ」
雪   「するの。子どもたちのために」
西川  「雪は強いな」
雪   「強くなんてない。みんながおかしいのよ」
西川  「その考え方、尊敬するよ」
 
 雪、西川の背中をバシーンと叩く。
 
西川  「あ痛っ」
雪   「・・・大丈夫かなあ織部先生」
西川  「え?」
雪   「織部先生、健太くんの担任になるんだよ」
西川  「ああ・・・」
 
二人、織部を心配そうに見る。

暗転。
機械音。ダダダダダッ!ダッ!ダッ!ダッ!。

<4、4Aに続く> 


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