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記憶に刻み込まれたトリニータの終盤戦を、記録に残しておく
こういうすばらしいゲームをやってくれて、やっぱり力は足らなかったけど、それは来年に持ち越して、この悔しさを晴らしてほしい。本当に俺はトリニータを応援してるし、この悔しさを忘れないでほしいし、この舞台というのはなかなか得られるものじゃない。これを成長の糧にしてほしい。この経験を、この場を、この悔しさを次に生かそうよ。絶対みんなはできる。みんなならできる。グッドルーザーでいよう。胸を張って、顔を上げて、サポーターにしっかりあいさつしよう。絶対このチームはいいチームだから。俺は自信を持って言う。大分に残ってる選手含めてほんとうに感謝してる。みんなでしっかり顔上げて、大分に帰って、悔しい思いのサポーターもいるかもしれないけど、お礼を言って次の糧にしよう。
すばらしいピッチだ。見て。すばらしいよ。負けたけど、リーグ戦も負けたけど、それが自分たちの力なんだよ。それをしっかり真摯に受け止めて、グッドルーザーで、しっかり感謝して、みんなで大分に帰って、次に向けて準備してやっていきましょう。お疲れさま。ありがとう。
関東勢トリサポとしての1年目
3月、東京での生活を始めた。上京したらやりたいと思っていたことの1つが、トリニータのアウェーゲーム観戦だ。振り返ってみれば、計11試合を現地で観戦。関東を飛び出して、仙台や静岡にも行った。旅費は大学生にとって大きな痛手だったが、そんなことを気にする前に、体が動いていた。
一方のホームゲームは、DAZNで観戦。今まで気軽に足を運んでいた昭和電工ドームが、遠い存在になってしまったのは寂しかったけれど、毎試合パソコンの前で一喜一憂していた。リーグ戦の全試合をフルタイムで観戦したのは、これまでトリニータを応援してきて初めてのことだった。かつてないほど、トリニータを追いかけた1年だった。
苦しんだアウェー戦の先に見えた光
現地で観戦した11試合のうち、6試合がリーグ戦で、成績は1勝1分5敗。「アウェーで勝ち点が取れなかった」という、今季のトリニータの課題が顕著に表れている。しかし、J2降格が決まってから、言い方を変えれば、今季限りで片野坂監督が退任するということが発表されてからは、素晴らしい試合が続いた。
🎦 ゴール動画
— Jリーグ(日本プロサッカーリーグ) (@J_League) December 4, 2021
🏆 明治安田生命J1リーグ 第38節
🆚 柏vs大分
🔢 2-3
⌚️ 66分
⚽️ 増山 朝陽(大分)#Jリーグ#柏レイソルvs大分トリニータ
その他の動画はこちら👇https://t.co/JUEMOXumQp pic.twitter.com/T1DfJWsX7B
リーグ戦最終節、アウェー柏戦。トリニータは3-2で勝利し、アウェーで待望の勝ち点3を奪った。決勝点を挙げたのは、増山朝陽。立ち位置を調整しながら、相手のマークを次々と剥がして決めたこのゴールは、片野坂監督が今まで築き上げてきたサッカーを体現するものとなった。
試合後、監督が中心になって勝利の舞。とてもJ2に降格したチームとは思えない雰囲気が感じられた。この勢いで、次は天皇杯に臨む。
高木が呼ぶのに中々誰もこない中、最初に飛び込んだのはなんと片さん🤣👍
— とほほ (@blue_dros_boon) December 4, 2021
そのあと続々と加わる笑
最高の監督と最高の選手たち😊 pic.twitter.com/DSf0Pta6Ke
土壇場で追いついた奇跡の2試合
天皇杯準決勝の川崎戦、決勝の浦和戦では、何とも説明のしようがない、不思議な力が働いていたように思う。
川崎戦では、案の定試合を支配され、計28本のシュートを浴びせられた。だが、GK高木駿を中心とした守備陣は粘り強く守っていた。延長戦に入り疲労が見える中、マルシーニョに何度もドリブル突破を許される姿を見ていると、なんだか拷問を受けているような感覚になった。延長後半、小林悠に先制ゴールを決められた時には、悔しさよりも、よくここまで耐えてくれたという感情の方がまさっていた。
しかし、選手たちは諦めていなかった。下田北斗は失点直後、「もうパワープレーにしますよね」と監督に確認したという。その下田から送られたクロスをエンリケがゴールに叩き込んだ時は、一瞬何が起きたのか分からなかった。興奮が冷めやらぬまま、勝負はPK戦へと突入する。
トリニータがPK戦を勝てたのは
— 山末翔太 (@ya__ma__yama) December 12, 2021
片野坂監督がサポーターに向けて
この煽りをしてくれたからだと思ってる。
本気で盛り上がった瞬間だったし
雰囲気からこの時点でもう負けてなかった。 pic.twitter.com/FLudE4dY8I
ここまで来れば、トリニータに流れが傾くのも無理はない。片野坂監督がサポーターを煽り、高木駿はいかにもセーブしそうな雰囲気を醸し出す。勝利のフラグは立っていた。試合終了の笛と同時に溢れ出した涙は、しばらく止まらなかった。
嬉し涙を流したのは、いつぶりだっただろうか。自分が大学に合格した時でも、ここまで嬉しい気持ちにはならなかった気がする。自分ではなく、自分が大切に思う誰かが成し遂げたことの方が、輝いて見えたりするものだ。
試合後の光景も異様なものだった。スタジアムから出ると、あらかじめ購入していた決勝のチケットを手売りする川崎サポで溢れていた。「高木駿を育てててくれてありがとうございます!チケット買ってください!」といった声も聞こえた。自分もその場でチケットを購入。「優勝してください!」と温かい言葉をかけてくれた。
下馬評を覆す試合をしたのだと、改めて感じたひとときだった。いくらJ最強チームが相手だとしても、人間がやるスポーツに「絶対」はない。勝利できるほんの数%の可能性を、運も味方につけて手繰り寄せ、現実にした。そんな試合だった。
決勝の浦和戦も川崎戦と同様、1点ビハインドのまま試合が終わろうとしていたが、意地を見せてくれた。奇しくもまた、下田北斗の左足が起点となった。虹を描くような美しいクロスに頭で合わせ、天皇杯を無失点で勝ち進んできた浦和ゴールをこじ開けたのは、ペレイラだった。準決勝のエンリケに続き、助っ人外国人が大仕事をやってのけた。
不思議なことに、そのあと槙野智章に決められたゴールはよく覚えていない。準決勝でも決勝でも、土壇場の状況から同点に追いついた。そのシーンが強く目に焼きついていた。これからの人生で窮地に追い込まれるようなことがあった時、その2ゴールが思い出されるに違いない。そう感じるくらいだ。
あの場にいたことが財産になる
実は決勝戦の2日前、応援グッズ製作の手伝いをさせてもらった。関東圏在住のサポーターで協力して、コレオグラフィーを掲げる際に使う青い旗をひたすらつくった。大学生もいれば、仕事終わりのサラリーマンもいた。市営陸上競技場で試合をしていたころからの古参サポーターもいた。決勝を見に行けないから、少しでも力になりたいという思いで来てくれた人もいた。作業の途中、高木駿が契約を更新したという一報が入り、会場が沸くというシーンも。大分弁を飛び交わせながら、愛するクラブに貢献しようとみんなで力を合わせる、そんな素敵な空間だった。
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作業の終わりに、リーダーの方が「決勝戦では、今日参加してくれたからこそ見える景色があるはずです。」とおっしゃっていた。まさに、その通りだった。選手入場の際、ゴール裏に映える旗の青を目にして、心が震えた。同点ゴールが決まった時も、たくさんの人が旗を振ってくれていて、とても嬉しかった。
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高校の同級生も応援に駆けつけていた。試合後、記念に集合写真を撮ったのだが、みんないい笑顔だった。勝てなかったことはもちろん悔しいけれど、「負けるなら来なければよかった」と思っている人などいなかった。あの時、あの新国立競技場という場にいれたこと。二度と繰り返されることのない、かけがえのない瞬間を目の当たりにできたこと。それも勝利と等しいくらいの誇れる財産だ。
未来に向けて紡がれた最後の言葉
「この舞台というのはなかなか得られるものじゃない。」決勝戦のピッチに立てたことを誇っていいという思いは、片野坂監督も同じだったようだ。敗戦後の円陣で、監督が選手たちに語った言葉は反響を呼んだ。
【ラストゲーム
— NHK大分放送局 (@nhk_oita) December 19, 2021
片野坂監督のメッセージ】#天皇杯 試合後のピッチで、
悲願の初優勝に
あと一歩届かなかった選手たちへ、
片野坂監督がかけた最後の言葉です。#大分トリニータ #一致団結 pic.twitter.com/pJmF8j13PK
胸張って、顔あげて。このメッセージを聞いて思い出したのは、サッカーをしていた高校時代、大会で敗退が決まった直後のミーティングだった。チャップリンの名言を引用して顧問が語った言葉は、今でもスマホのボイスメモに保存されている。
「下向いても、虹見つかんないでしょ。顔あげて、胸張っていこうよ。人生は続くから。」驚くほど、片野坂監督の言葉とリンクしていた。試合の直後だ。まだ悔しさがこみ上げるなかで、未来へと目を向けさせるような言葉を選手たちにかける。そう簡単にできることではない。自分がこの先、もし指導者の立場になったら、この2人のようでありたいと強く思った。
昔のことを思い出したついでにもう1つ。高校を卒業する時、「“ありがとう”と“ごめんなさい”が言える人になりなさい」と、お世話になった先生から言われて、それを今でも心がけるようにしている。でもこれは、簡単なようで意外と難しい。自分が誰かにお世話になったことや、迷惑をかけたことを自覚できていない時もあったりする。
今シーズン限りで退任する#大分トリニータ の#片野坂知宏 監督からのご挨拶。
— Jリーグ(日本プロサッカーリーグ) (@J_League) December 2, 2021
涙ながら、6年間分の感謝のメッセージを伝えました。@TRINITAofficial#Jリーグ pic.twitter.com/kikukLWSZN
片野坂監督は、それができる方なのだと思う。ことあるごとにサポーターへの感謝の言葉を述べ、負けた時には、選手をリスペクトした上で、「私の責任だ」と言い切る。チームが降格したことに関しても、「申し訳ない」とたびたび口にしていた。常に感謝の気持ちを忘れない姿勢、責任感の強さ。監督のそんな人柄も、尊敬せずにはいられない。6年間、ありがとうございました。
それでもトリニータを応援し続ける
来季はJ2で戦い、1年でのJ1復帰を目指すことになる。下平新監督を迎え、今季主力として活躍した選手も続々と契約を更新している。カテゴリーが下がったとしても、トリニータというチームに、大分という地に残るという決断を選手がしてくれるのはありがたいし、とても嬉しい。
また個人的には、育成年代にも注目したい。実は天皇杯4回戦の群馬戦、延長戦でU-18の選手も数名出場し、決勝までのバトンを繋いでくれた。おそらく、準優勝のメダルも授与されたのではないだろうか。また天皇杯準決勝・決勝では、U-18出身の弓場将輝が未出場ながらベンチ入りした。片野坂監督が言うように、彼らにはこの経験を、次に生かしてほしい。
J1に定着することはもちろん大事だし、それを目指してほしいとは思う。でも、勝つことが当たり前になったり、毎年J1の中位に居座り続けるよりも、波乱万丈がある方が面白いのかもしれないと自分は思う。昇格したかと思えば降格したり、さらに下のカテゴリーに降格したり、ときどきジャイアントキリングを起こしたり、カップ戦の決勝まで勝ち進んじゃったり。
そんなチームは応援しがいがあるし、サポーターは「勝ったら嬉しい、負けたら悔しい」という人間としての素直な感情を大事にできると思う。今季、J2に降格してしまったことも「壮大な前振り」ととらえて、またJ1に戻った時、その分喜びを爆発させればいいのだ。まずはその日に向かって、これからもトリニータを応援し続ける。
言霊の力を信じて口にする
リーグ戦の第26節・神戸戦で敗退し、最下位に転落してしまった翌日、増山朝陽がInstagramにこんな投稿をした。
「言霊という言葉があるように、ネガティブな発言や空気がより一層現状を悪くする」「スタジアムから笑って帰ろう。」増山の熱いメッセージにサポーターも応えた。Twitterのアカウント名に「@+3」と付け加えるトリサポが現れたのは、ちょうどこの頃だったような気がする。SNS上で、ポジティブな声が増えていったのだ。チームも、勢いを盛り返していった。
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この試合を皮切りに、チームはホーム3連勝。
思えば今季の開幕前、シーズンの目標を尋ねられた松本怜は、「大分にACLを、っていう高いところを目標に。口にしないと、目指さないとできないと思うので。」と言っていた(動画の3:06あたり)。「ACLは無理だろ…」という気持ちでこの動画を見ていた当時の自分を、今では恥ずかしく思う。実際、天皇杯の決勝まで進んで、ACLへの切符を掴みかけたのだ。松本がリーグ戦で負った怪我から回復し、天皇杯準決勝、決勝の途中出場にこぎつけたのも、ACLに出場したいという強い思いがあったからに違いない。
言霊の力は侮れない、ということだ。ではその力を信じ、来季の目標を記してこのnoteを締めくくることにする。
絶対、J1に復帰するぞ!
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