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#120 英語学習の未来予想図🌍

英語学習を取り巻く状況が急速に変わろうとしています。その変化は世界中同じではなく、国や地域によって異なるようです。

僕は、学生時代には受験産業の中で高校受験や大学受験のための英語を教え、卒業後は中高で英語を教えました。その後は海外営業の舞台で「共通語としての英語」を使ったビジネスを12年間。その後再度教育畑に戻り、今は「AI x 英語教育」に携わっています。



まずは現状を把握しよう

「英語教育」と聞いて、何を思い浮かべますか?塾や予備校、中学高校、社会人への指導、ビジネス現場、最新技術を英語教育に取り入れる研究、海外非英語圏での英語教育、と一通り見てくると(早期英語教育は経験ありません💦)、少しずつ「未来の英語学習像」が見えてきます。
 この内容は話す人によって、「そんなこと、あり得ないよ」と言われることもありますが、範囲は狭いながら実体験に基づいた話です。「都合の悪い事実」も含めて、まずは現状を把握してみよう、というのが今日の意図です。

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中国エリートの覚悟🇨🇳

では、中国エリートの実情から。中国人はビザの関係で、簡単に英語圏に行くことはできません。特に米国は厳しいので自然とオーストラリアやヨーロッパ(英語で勉強・研究できる)に人が集まります。友人のケースでは、中国の大学で学部および修士を出た後、現在はドイツの大学の博士課程で研究をしています。博士課程大学院生は研究員として雇用されて「教える義務」があり、英語で学部生の授業や卒業論文の指導をします。
 その友人は、博士課程進学でドイツへ来たのが、「生まれて初めての海外」だったそうです。ドイツ到着後半年もすれば、英語でドイツ人学生に授業をし、論文指導をするわけです。中国にいる間に「問題なく話し、議論し、英語で専門分野を教えられるところまで準備した」とのことです。この覚悟には、頭が下がります。

英語教育の雄、オランダ🇳🇱

オランダは、非英語圏における英語力指標として最もよく参考にされている EF EPI 指数で、5年連続世界1位を誇ります。専門家が聞けば分かりますが、一般の人が聞けばオランダ人の英語はネイティブと区別がつかないと思います。僕の海外ビジネス経験でも、非英語圏ではオランダ人の英語がピカイチです。
 2023年の日本の順位は87位で、一つ手前の86位はアフリカのマラウイ共和国、一つあとの88位はアフガニスタンでした。日本がどういう位置にいるか、よく分かります。

最近、オランダでの英語教育に携わる人たちと話す機会があったのですが、AI 技術を利用してさらなる英語力アップを図ろうとしています。オランダは小さい国ですが、オランダに生まれた人が世界で英国人や米国人と対等にやっていけるように、との心意気を感じます。

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日本の大学の理系学部

自分が在籍していたので、そのままの事実です。理系の研究論文はほぼ英語で書かれていますが、「もう英語で読む必要はないよね 〜 DeepL(AI 翻訳)あるしね」というのが一般的な雰囲気だと思います。もちろん大学のレベルにもよるとは思いますが、この傾向はどんどん強くなってきているはずです。論文を書く方も、「AI 翻訳で訳して、手直しすればいいし、学会発表も原稿を準備して読めば大丈夫だから、別に英語書けなくても、話せなくてもいいよね」が定着しつつあります。

大学名は出せませんが、友人がとある理系大学の教養課程英語の責任者を務めています。ここ最近の授業内容はほぼ「AI 翻訳をいかに使いこなすか」だということです。「自分で英語を使えるようになる」ことを放棄しつつあるというのが、大勢の現実のようです。
 こう書くと、「そんなことあり得ない!」と「そうそうその通り!」という二つの反応にに真っ二つに割れるのだと思います。自分がどんな世界にいるかによって、英語学習の現実の見え方は大きく違ってきます。大学の英米文学科や国際コミュニケーション学科で教えている先生方には、ぜひこの現実を知っていただきたいと思います。

note の世界

note の世界は、日本社会全体の縮図ではありません。書いたり議論したり発信したりするのが好きな人が集う場所なので、言語能力の平均や分布が日本人の母平均・母分布とは異なるはずです(平均は高く、分散が小さいと思います)。note の世界では、「自分で英語を身につけたい」と思う人の記事も、指導する側の発信も多いですが、現実社会では「AI 翻訳ツールがあるなら、そんなにあくせく英語を勉強しなくてもいいんじゃない?」というトーンが優勢です。

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英語力がほぼ問われない未来

ここからは話を日本に限ります。中高大学から企業に目を移すと、汎用の AI 翻訳システムを、その企業が扱う文書に特化させるための技術が確立しつつあります。具体的には翻訳に用いる大規模言語モデルを LoRA(Low-Rank Adaptation → こちらの論文)と呼ばれるモデルで安価にその会社の業務に特化させるやり方が一般的になってきました。
 つまり、社内文書を日本語と英語で扱う上では、英語力がほぼ問われない日はすぐそこまできている(あるいは既にきている)状態です。TOEIC 高得点が必ずしも就職に有利にならない時代も来るでしょう。これも、中高の英語教員や大学の先生には見えづらい事実です。さて、では今後何が起こると思いますか?

極端な二極化の時代へ

それは、日本人の英語力の「極端な二極化の時代」です。「自分で読み書き、聞き話し、議論もできる」状態を目指す層と、「AI 翻訳で書類が処理できればいいや」という層に分かれてくるのです。残念ながら、前者が2割、後者が8割くらいに分かれるように思います。
 小中高での英語教育は、「大学に入るまでは、とりあえず勉強しなきゃならない」という感じで、徐々に形骸化するはずです。総合的に見れば、AI 翻訳登場以前の「TOEIC 〇〇点以上取れていないと就職に不利」な世代よりも、日本人全体としての英語力は下がってくると思います。とても残念です。「AI 翻訳を活用して英語力アップ」という記事をよく見かけますが、そのルートに乗れるのは、上で書いた2割の方の人だけです。

そして不思議なことに、僕が知る限り、この流れは中国エリート層やヨーロッパでは起きていないのです。彼らはこの AI 時代にも、「自分で読み書き、聞き話し、議論もできる」ことにこだわります。
 ということは、日本人の「AI 翻訳で書類が処理できればいいや」グループが相対的にどんどん世界から取り残されて、「言語的鎖国」状態に入っていくカウントダウンが、すでに始まっているというのが僕の見立てです。円安が進んで日本人が海外に出られなくなる「経済的鎖国」と合わせて、日本がどんどん世界から孤立していくような気がします。

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結論は質実剛健に

ということは、AI 時代のこれからこそ逆説的に、「AI ツールなしで、中国エリート層やヨーロッパ人と英語でコミュニケーションが取れる人材」が重要になってきます。AI ツールの発展が、AI ツールを必要としない人の優位性を上げるという、面白い現象を生む未来になるはずです。
 ビジネスや学問、芸術の最前線で「AI ツールで全てのコミュニケーションを取る」時代は、僕は今後100年経っても来ないと思います。人間はやはり対面で直接話し、温度感を共有することで成り立つ生き物です。コロナ禍で「もう出社は必要ない」とか言われつつ、結局そうではなかったことが一つの証明になるのではないでしょうか。

英語を身につけるのに、遅すぎるということはありません!今から本質的な英語学習を始めれば、状況がいよいよ変わってきた頃にその真価が発揮されるのだと思います。中高生、大学生のみなさん、AI 翻訳ツールを使いこなしつつ、ツールなしで外国人と対等にやり合える大人を目指してください。尊敬する note 仲間の富田梨恵さんの記事も、とても参考になります。

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「異文化コミュニケーション」の未来の風景が、今と変わらず仲間同士で談笑している絵であり、手元の AI デバイスを操作している絵にはならない未来でありますように。僕は英語を教えることは(多分)卒業したので、人間と AI の協働(Human-Technology Interaction)の最適解を見つける旅に出ます✨

今日もお読みくださって、ありがとうございました🌏

(2024年3月27日)


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