見出し画像

図書室の放課後


小学校から高校まで、私の学校には委員会活動というものがあった。

任意加入のクラブ活動と違い、生徒全員が必ず何らかの委員会に所属して、校内の行事や活動に参加しないといけなかった。


小学校は覚えていないが、私は中学校で放送委員、高校は図書委員を3年間やっていた。
そしてどちらも3年時には委員長を任された。
特にリーダーシップがあった訳ではなく、他になり手がいなかったからだ。

なのに調子に乗って悪ふざけを繰り返し、顧問の教師や後輩たちを困らせてばかりだった。
自分は人の上に立てる人間ではなかったのだと今でもしみじみ思っている。



中学校の放送委員会は入学式や卒業式・文化祭などといった大舞台の他に、毎日の役割として昼の放送という仕事があった。
月曜から金曜までの当番制で、担当になった委員は4時限目が終わると給食を持って放送室に入り、昼休み時間中の音楽やトピックスなどを校内放送で流したりアナウンスする。

音楽は備品のレコードが殆どだったが、たまに委員が好きな音楽をかけたりもしていた。
私も最初は大人しくビリー・ジョエルなどを流していたのだけれど、委員長になる頃にはそれだけではつまらなく感じていた。


そこである日、自宅からカセットに録音してきた『金太の大冒険』を勝手に放送してみた。

みんな喜んでくれるだろうと思っていたのが、放送して5分もしないうちに顧問の教師が音楽をヤメロと怒鳴り込んできた。
放送を聴き、教室で牛乳を吹き出す生徒が続出したらしい。


こってり絞られて教室に戻ってみると、一部の生徒から「さすが委員長」と称賛された。
私はいい気になった。
きっとみんなもこれまでの放送に飽き飽きしていたに違いない。
たとえクビになっても私が何とかしなくては。

変な使命感に燃えた私は、後輩の制止を振り切り『スネークマンショー』を翌週に放送した。


結果やはり先週と同じ光景が教室で繰り広げられたらしい。
私はめでたく委員長を解任され、その後は平穏でつまらない放送が卒業まで続いたのだった。




高校の図書委員長は、中学時代よりもきちんと取り組んでいたと思う。
解任されずに任期を終了できたし。

図書関連の仕事が面白かったので、貸出し業務などで放課後の活動時間が多くても楽しめたから続いたのだろう。


図書室の香りと雰囲気が好きだった。
本屋さんとはちょっと違う、古い本と新しい本がごちゃ混ぜになった独特の香りがする。
それに他の教室にはない静寂が心地良かった。


手空きの時間は貸出しカードを眺めていた。
返却された本の裏表紙からカードを抜き取り、最初に借りられた日付や借りた人の名前を読んでみる。
殆ど知らない名前しか書いてない本もあれば、友人だったり懐かしい先輩の名前が書いてある本もあり、見ていて飽きなかった。


図書委員主催で年に数回開かれる読書会では、委員長が課題の本を決めて開催日まで参加者に読了してもらう。
当日は皆でお茶とお菓子を頂きながら、感想を述べあう催しだ。

私はたまにちょっと変わった本を選んだ。
たとえば、カフカの『変身

これを難しかったという生徒もいれば、解りやすいという感想も出る。
毒虫になったザムザが可哀想だという意見や、いやこれは必然なのだとする評価もあった。

1つの作品が読む人によって様々に解釈され、作者の意図にかかわらず沢山の答えが導き出されていくのを見るのはとても面白かった。



図書委員では迷惑どころか真面目にやっていたような書き方をしているが、私がそんな優等生なら誰も困らない。
ウラでは図書準備室で酒盛りしたり、記録用の写真を撮ると偽って予算から個人用のフィルム代を調達していたのがバレなかっただけだ。

黙って隠蔽してくれた後輩たちには心から感謝している。



中学と高校は他にもいろんな委員会があった。
保健委員や風紀(生活)委員、美化(環境)委員など学校によって呼び方が違ったりその学校独自の委員会も存在した。

忙しい委員会とそうでない所で時間的な負担に差があって、生徒はなるべく楽な委員会を選ぶ傾向が強かった。
私は全然考えずに図書委員会を選んで、後からそこが校内でも屈指の忙しい所だと知って少し後悔した。

でももう一度委員会を選べることがあったら、たとえ忙しいと解っていてもやはり図書委員になるんだろうな、と今の私は思っている。



本に囲まれて仕事していた時間は楽しかった。
今後2度とあのような時間は訪れまいと思うと少し寂しく感じる。

近い将来、私が入る老人ホームにもし委員会があったら、きっと喜んで図書委員へ立候補するに違いない。

また読書会で『変身』を語り合うために。







みついさんの記事から回想しました。
ありがとうございます。


この記事が参加している募集

この経験に学べ

サポートはいりません。 そのお気持ちだけで結構です😊