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読書の足跡、娘への記録

「生まれて初めて開いた絵本から順番に、自分が今まで読んできた本を全部見られたらなあ」
「それは、いいねえ。個人読書録ライブラリー、懐かしいだろうなあ。」

恩田陸『三月は深き紅の縁を』


贅沢な夢である。

学校の図書室を思う存分利用してきた。
じかんどろぼうの話や武器を緑に変える少年の話に最初に出会ったのも図書室でだったと思う。
ドラマに原作の本があるのを知ったのも小学校の図書室で偶然手に取ったものからだ。
同じ頃しゃれこうべが出てくるようなお話をよく読んでいて
『野ざらしのしゃれこうべが風に乗せて自分を殺した男の名を伝える』という話が大好きだったのに、いまでは題名も思い出せない。

図書室で沢山の本に出会い、沢山忘れてしまった。


中学の頃だったか、増える本の置き場所に困ってきたのとうちに遊びに来る友人の前で、自分の本棚に並ぶ児童書のたぐいを恥ずかしく思えてきたのとで本棚の中身を今で言う「断捨離」したことがある。
こどもっぽく思えたふたごの名探偵シリーズの本や星座の物語の本など紐で縛りゴミ捨て場に置いてきた。
家に、私の部屋に今まであった本達がゴミと並び雨に濡れ、乾いてカピカピになっていく。
見たわけではないはずだし、そんな長い期間ゴミ捨て場に置いておかれたはずはない。
なので当時の私の勝手なイメージだと思う。
なのにそのイメージはいまだに消えない。

後悔している。

大好きだったおしゃべりする猫が大かつやくするお話は捨てたはずはないが、今読み返したくても見当たらない。

あの日から私は本を捨てていない。
溢れた本は売ることにした。
まだチェーン店の古本屋などない昔、まとめた本を自転車のカゴに積んで地元の古本屋に持っていく
「マンガならもっと高く買い取れるけど…」と本屋のおじさんは言う。
お金だけの問題じゃない。
「これは引き取りは出来るけど値はつかないよ」構わない。
私に必要となくなった本が誰かの助けになればいい、などの高尚な思いもない。
私はもう本をゴミと捨てたくない。

「読んで、増えた本は捨てる。誰かが新作で買ったほうが作者の印税になるから」
と人が言うのも聞いたことがある。
そうなんだろうと思う。
ただ私には捨てるという別れ方は合わなかった。

その本の作者が「売ってくれるな捨ててくれ」と望むと聞いたらまた方法を考えようとは思う。


悲しいけれど大富豪ではないから場所には限りがあって、全ての本を手元に置いておくことはできない。


一度読んで、内容を知っていても何度も読みたくなる。そんな本が沢山ある。
「あれ、美味しかったなあ。また食べたいな。」の欲求に似ている。
「あれ、面白かったな。また読み返したいな。」
知っているからといって満足できない、知っているからこそまた触れたい。
ストーリーが知れればいいというのではなく、それらの文章、リズムに触れたい。


ミステリーばかり読んでいた時期。
特定の作家ばかり追いかけていた時期。
図書館で手当たり次第借りていた時期。
読んだことを忘れたままの本も沢山ある。
あると思う。

個人読書録ライブラリーがあったらなぁ。


この春に引越しをしたが、これまで住んでいた所は図書館がスキップで行けてしまうほど近くて、子どもと公園で遊ぶ気力や体力がないときは
「図書館いこうか」
と連れ出して好きな絵本を毎回2、3冊選ばせ借りて帰っていた。

その図書館に「ご自由にどうぞ」と区のゆるキャラを表紙に印刷した読書記録帳がおかれてあった。
開くと読んだ日、題名、作者名、感想などを簡潔に記入出来るスペースがある。
とってもいいな、と思って2歳(当時)の娘の為に一冊持ち帰った。

それから娘が図書館で借りた本だけでも、と記入していっている。
感想まで書くと続けるのが面倒になりそうなので、日付と題名、作者名くらいだ。

きっとすぐに追えなくなる。
本は自分で借りたりするだろうし、そもそも本に興味を持たなくなるかもしれない。
既に幼稚園に通いだして図書館に行く頻度はグッと減ったし、引越した今、図書館は電車に乗らなければ行けない距離になってしまった。

それでも、できる限りは続けたい。
既にいま見返す私が懐かしい。

擬音ばかりで読みやすかった絵本
繰り返し読まされた絵本
絵がこわいと途中でやめて、数ヶ月後また借りてみた絵本 

娘のための記録と思っていたけど、これはもう私の読書録、なのかもしれない。


少女の頃のひたすら読書に没頭していたあの頃を自分の一番の読書紀だったと思っていたけど、振り返ってみたときに幼い子に読んで聞かせているこの時もまた素晴らしい読書紀になっていくのかもしれない。

解らないから、忘れやすいから、この絵本ばかりの読書録を続けてみようと思う。



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