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おにぎり泥棒

先日の仕事中のことだ。お昼ご飯を楽しみにしていた僕を悲劇が襲った。

午前の作業疲れを癒し、午後の鋭気を養うお昼ご飯。

そんな大切で重要な存在の昼ごはんが、あるものは忽然と姿を消し、あるものは無残な姿で地面に横たわっていた。

ここ数日、会社から軽トラで石巻市内だが40分ほどかかる場所で農作業をしている。その場所付近には飲食店やコンビニ、そして田舎によくある小さな商店すらない。山々に囲まれ、あるのは少数の民家と畑に田んぼばかり。

その為、簡単なお弁当と暖かいお茶を作って持参している。

前日からお米を洗い、炊飯器にタイマーセットして、そして次の日の朝起きておにぎりを2、3個作る。具はいつも違うが、この日は梅干し。いつもおかずなしのおにぎりだけのシンプルメニュー。しかもサイズ大の男料理的なもの。

体を動かせば多少は暖かくはなるが、それでも外での作業、作業を休めれば体も冷える。

暖かいお茶で体を温めながら一緒に食べるおにぎり。しかも、日本の原風景が残るような場所で食べるシンプルおにぎり。そんな中で、午前の農作業を終え、田んぼや畑の傍でお茶と一緒におにぎりを食べるなんて、これ以上のないおにぎりの最高の”具材”で贅沢な食べ方だ。

自ずと昔の暮らしを想い描く。そして何より、”裸の大将”画家山下清ばりに、ランニングと短パンを着て食べたくなる。

この作業場まではいつも軽トラで向かっているのだが、意外に軽トラの車内は狭い。その為、その日もお弁当や水筒を荷台に置いたカゴに入れ、移動していた。

そして、現場に到着し、お弁当を中に入れず荷台に積んだまま作業を開始していた。もちろん、お弁当(おにぎり)はお弁当袋に入れ、外から見える状態ではなかった。

犯人は羽毛を身にまとった霊長類

犯人は、カラスだった。同僚が僕の大切なお昼ごはんをカラスが先に食しているのを見たから間違いない。

どこかで、袋の中に食べ物が入っている瞬間を遠くから見たのか、匂いを嗅ぎつけて来たのか。もしかすると、昼前に差し入れでもらったピーナッツをその周りで食べていたのを見てたかもしれない。食べ残しの袋を、そのおにぎりを入れてたカゴに入れたから。

結局、残っていたのは地面にある具の梅干しと数粒の米だけ。酸っぱいのはお気に召さなかったようだ。お昼ご飯のおにぎり。食後に楽しみにしていた和菓子。そして差し入れで頂いたピーナッツ。全部やられた。

この日ほど、早弁してれば良かったと思う日はない。

カラスは頭が良い、というのは本当のようだ。見事に弁当に気付き、袋を開け、持ち帰った。

カラスが道路にクルミをわざと置いて、車にひかせて硬いクルミを割らせたりする。もしそれが失敗した時は、クルミを置き直したりもするほど、車との距離感もわかるようになる話しは有名だ。

その他、カラスの驚くべき能力がある。
・人間の言葉を覚える。
・道具を作って使える。
・仲間とのコミュニケーション能力にも長けているので、情報を共有できる。
・人間の顔をはっきり認識することができる。

お昼ごはんを取られ、その日の午後はカラスのことで頭がいっぱいだった。そしてその日の内には、ドイツまでその話題が広がった。

結局、お昼を買いに遠くのコンビニまで行ったし、余計な出費が出た。そして何よりも、お弁当と同じくらい大事な昼休憩も短くなった。

正直、仕返しや知恵比べも頭をよぎったが、同僚からカラスは自分に酷いことをした人には仕返しにもくると聞いたので、お腹を好かせた動物たちの為にご飯をやったと思うようにして、無理やりに近く自分を納得させた。

ただ、今は邪魔者扱いされがちなカラスも、日本サッカー協会のエンブレムにもなっているように、大昔は世界中で神の使いや知恵の伝道者として崇められる存在だったと聞く。

『日本書紀』に記載されている八咫烏(やたがらす)。北欧神話、オーディンの神に仕えた「思考」と「記憶」の象徴であるワタリガラス。中国古代説話、幸運吉兆の鳥とされる3本足のカラスなど。

人間がいれば食べ物がある。人の暮らしあるとこカラスあり。ゴミや食べ残しをなくしていけば、また古来のカラスのような存在に扱われるのかな。

今週は日本の原風景とおにぎり、人間とカラスなど、あんなこんな想像を巡らした週だった。

来週は絶対に大切なおにぎりを死守!!


ここで今日のドイツ語!

おにぎり:das Reisbällchen(ダス ライスベルヒェン)
カラス:die Krähe(ディ クレーエ)

それじゃ〜また来週!Bis dann!!


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