act:24-偽りのひよこ饅頭 タダシくんの事件簿と大多喜無敵探検隊 誕生秘話
オレには1歳年上の竹中タダシくんという友達がいる。
タダシくんとはじめて会ったのは、オレが小学1年生のときだ。
小さいころのオレは体が弱くて、しょっちゅう保育園を休んでいたので、小学校に通うようになっても、まともに友達がいなかったんだ。
そんなとき、やさしく声をかけてくれてくれたのが近所のタダシくん。あのころはよく青龍神社で一緒に遊んでくれたっけ。オレは兄さんができたみたいでとっても嬉しかったんだよなぁ。
タダシくんには高校生のお兄さんがいるんだけど、歳が離れてるのであまり一緒に遊ぶことがないようで、かわりにオレを弟のように思っていてくれたんじゃないだろうか。
そんなタダシくんがこの3月で卒業かぁ、そして4月からは夷隅川の向こうの大多喜中学校に通うんだな。
しかし中学生だなんて、ずいぶん大人になっちゃうんだなタダシくん。
タダシくんは、両親が学校の先生で、立派な家の子なんだ。もちろん勉強もよくできるので、いつも先生からは良い子に思われている。うちの父さん母さんもタダシくんが遊んでくれるなら安心だと言っていた。
そうそう、実は大多喜無敵探検隊の初代隊長はこのタダシくん、でも彼はあるとき突然「上を目指す」と言い、当時3年生になったばかりのオレに大多喜の愛と平和を陰ながら守る「大多喜無敵探検隊」を引き継いだんだ。
タダシくんは、あのときの決心通りに「上」を目指せたようで、現在では学年で成績TOP、さらに大多喜小学校の生徒会長を務めている。
だがなタダシくんオレは知っているぞ、
タダシくんは正真正銘のサイコ野郎だということをな!
何年付き合ってると思ってるんだ全部お見通しだ!
サイコ野郎といってもバビル二世(※1)の「サイコキネシス(※2)」野郎ではなく「サイコパス(※3)」野郎のほうだ。タダシくんは度々常軌を逸した予測不能な行動をしては、オレたちを恐怖と混乱のどん底に陥れる人生の愉快犯なんだ。
しかも大人や親しくない子供たちの前ではその本性を一切出さず、どこまでも良い子なので非常にクセが悪い!いつも垂らしてる青っぱなも引っ込めて、キリッと喋る良い子に化けるんだ。
そんなタダシくんの実態を誰も知らないし、たとえ彼の普段からのナンセンスな行いを大人に話しても、勉強ができていつも礼儀正しいあのタダシくんが、そんなことするわけないと一向に信じてもらえない。
お陰でオレが、今までどれだけ忌々しい思いをしてきたことか‥。
今回、そんなタダシくんの卒業を記念して、彼がどれだけトンでもない男なのかを暴露していきたいと思う。
うん、ザっと振り返っただけでもタダシくんが引き起こした事件がこれだけ浮かんだ、まだまだあるぞー!ひとまずその詳細を語ろうじゃないか。
‥とはいえ、人一倍エレガントなオレが本来苦手とする下品な下ネタばかり、だがタダシくんを語る上で、下品な下ネタは避けて通れないのだ。
もしその手が苦手ならば今すぐここから立ち去ってほしい、それでも知りたいという猛者であれば、どうか心して最後までお付き合い願いたい。
1.ひよこまんじゅう事件
まずは軽くひよこまんじゅう事件からお話ししよう。あれはたしか、オレが小学2年生のころだったな。
今まで一緒に空を見上げていたタダシくんが、不意に語りかけてきたんだ。
「おーいサナダぁ、ひよこまんじゅういるか~?」と
ひよこ饅頭(※4)とは、なんでもタダシくんのお母さんの実家の町の名物らしい。親戚がこのまえ遊びにきてお土産でくれたんで、オレに一つくれるということだった。
「じゃーさ、目ぇつぶって手だして」
オレはいわれるままに目をつぶり、ワクワクしながらタダシくんのほうに手を差し出した。
やがてポテッとなにかが手のひらに載った感触があり、オレは目を開いた。
そこにはパンツをずりおろし、自分の大事なものをオレの手のひらに載せて不気味にニヤニヤするタダシくんの姿が‥。
あのときオレは叫んだね
今思いだしても、まったくありえねぇ!
自分の手を切り落としたくなったよ!
2.毒ガス噴射事件
あれはいつのころだったかなぁ、オレが坊主頭にする前だったんで、やはり2年生のころだったと思う。
いつものように青龍神社で一緒に遊んでるときに、ふとタダシくんが自分の足元の地面を指さして言ったんだ。
「お~いサナダぁ、このアリの巣を見てみな~」って。
何だろうとオレがタダシくんの足元を覗き込んだ瞬間、タダシくんはオレの頭をさっと押さえつけたまま、クルっとオレに尻を向けて
ブブッ、ブッ、ブブゥッ!
く、くっさぁ~!!
おかしいだろアイツ!しかも驚きの5連発だ!
このときのオレはいったい何が起きたのかがわからず、叫ぶどころか声を失ってしまったんだっけ、しかも鼻の奥にこびりつくような強烈なにおい!これは本気の毒ガスじゃないのか!?
タダシくん普段いったい何食ってんだ!
放心したまま見上げると、タダシくんはあの相変わらずの不穏な笑みで、ジィィーっとオレを見ていたんだ。
3.振りむいたら悪夢事件
続いてこれも暴露だ、ひよこまんじゅう事件と似たような話だが、オレが大多喜無敵探検隊の隊長になったころなんで、3年生のころか。
オレが引き継いだとはいえ、タダシくんは隊の駐屯地である青龍神社に、ちょこちょこと顔を出していた。
あれはたしか、オレがユーイチやヒロツンと地べたに座って何か話している時だったよなぁ、
「おーいサナダぁ~♪」
不意に背後からオレを呼ぶ声がしたんだ。
その声に反射的にふりむいたら、オレのホッペタに何かがグニャッと‥
それはタダシくんのひよこまんじゅうの先っぽだった。
そこにはやはりパンツをおろして腰を突きだし、自分の大事なものをぶらぶらさせながら笑みを浮かべるタダシくんが‥
振りむいたら悪夢ってわけだ。
このときもオレは叫んだね、思い出しても吐き気がする!
今でもホッペタを引きはがしたくなるんだ!
まったくありえねぇ!
4.ケツだしオニ事件
オレが大多喜無敵探検隊を引き継いだ後も、タダシくんは心配なのか、それとも寂しいのか、ちょいちょいと様子を見にきてたというのは前にも話した通りだが、、今から話すこの事件は、みんなで青龍神社で鬼ごっこをしていたときの、確かオレが4年生になりたてのころの話だ。
オレはユーイチやヒロツン、クニオやヤッチャンたちと高オニ、ようは高いところに逃げる鬼ごっこをしていたんだ。
そのときいつものようにフラッとタダシくんが現れて、しばしオレたちの鬼ごっこの様子をジィィィーと見ていた。
誘ったけど彼は鬼ごっこには入らず、ただずっと腕を組んでオレたちを観察していたんだ。
そうしてしばらくたったころだったな、タダシくんがポツリと呟いた。
「諸君らのホンキとはその程度なのか?」と、
さらに続けて
「もっとスリルを味わいたくないのか?生きている実感を味わいたくはないのか?」と。
彼がいうには、鬼ごっことは常に殺されそうな緊迫感が必須であり、それゆえに面白いのだという。しかし残念ながらオレたちが今やってる高オニには、その危機感、真剣味がまったく足りていないということだった。
挙句の果てには、君たちはそれでいいのかぁ~!とこぶしを握り締めて、オレたちに説教をする始末。
ではどうすればいいというのだタダシくん?
オレたちは彼に詰め寄った。
そこで彼から仰々しく提案されたのが「ケツだしオニ」だった。
それはパンツを下ろして尻をプリっと出した鬼が人々を追いかけまわすという、変態さん顔負けの鬼ごっこだった。
当然、次に鬼になった人物も尻を出して疾走しなければならない。尻なんて誰も出したくないので鬼は恐怖の大王そのものだ、そりゃ万一でも捕まったら恥ずかしさで悶絶死するぐらいの緊迫感を伴うことだろう。
うん、確かにタダシ君の言うことは正しいぞ、想像しただけでその並々ならぬ緊張感が伝わってくる。相変わらず予想の斜め上の発想で意表をつかれたな!
ではそのケツだしオニだが、じゃあオレたちが実際にやってみたいかと問われたら、もちろん誰もやりたがらない。
当たり前だろう誰がやるものか!
そんなオレたちの煮え切らない態度に苛立ちをみせたタダシくんは、いきなり自らズボンとパンツを引きおろし尻をむき出した!そして漫画みたいに「ぎゃははははー!」と大笑いしながら悪魔の形相でオレたちに迫ってきたのだ!
うわマジ怖えぇ!ヘンタイだ捕まったら死ぬ!
みんな蜘蛛の子を散らす勢いで一斉に逃げ出した!彼の姿は「変な人」なんてかわいいレベルじゃない、あきらかに狂人だ!
皆が皆、尻を出したくないのでタダシくんから必死で逃げる!でもそれ以上に捕まったら本気でコロされそう、そんな恐怖を本能的に感じるんだ!
挙句にユーイチやヒロツン、クニオにヤッチャンは、青龍神社の境内をとっくに飛び出して、そのままどこかにスッ飛んで逃げていってしまった。
しまった残るはオレだけだ!完全に逃げそびれたぞ大ピンチ!
そんなオレに、不気味な笑みを浮かべてジワジワと間合いを詰めてくるタダシくん。さんざん尻を出して走り回ってたせいで、すでにパンツはずり落ちて、ひよこまんじゅうも丸見えだ
「クククッ、サナダぁ~、おまえだけは逃がさないぞ」
と、そのときだった
「きゃぁーーーー!!!!」
女子高のオネーチャンたちだった!
そう、この青龍神社の前の道は、大多喜女子高の生徒の通学路で、今まさに駅へ向かって下校中の女子高生の一団が通過したのである。そこで下半身を丸出しにしたタダシくんを発見して悲鳴をあげたのだ。
タダシくんはその声の方を向くと「チッ!」と舌打ちし、半ズボンとパンツを無造作にたくし上げてオレに言った。
「‥サナダぁ、命拾いしたな(ニヤリ)」
タダシくんこわいこわい‥。
5.バクチク野○そ事件
そういえば、前にオレは、野○そにバクチクを詰めて火をつけて、みんなで根性試しをするといった話をしたと思う。
実はアレを最初に始めたのはタダシくんなんだ。
まだタダシくんが大多喜無敵探検隊の初代隊長だったころ、みんなで大多喜城まで行軍(※5)をしたときに道端で大きな野○そを発見して、何を思ったかタダシくんが一本のバクチクを差して火をつけ爆破させたのが始まりだった。それから野○そを見つけるたびに徐々にエスカレートして、バクチクの本数を増やしていったんだっけ。
やがてオレが隊長を引き継いだ時には、このバクチク野○そは、オレたち大多喜無敵探検隊の入隊の儀式として定着していったって寸法だ。
そうだ、アレはオレが最初にやったんじゃないぞタダシくんだった。
いやいや忘れるところだった、悪いのはいつもサイコ野郎のタダシくんで、オレは彼に教えられたのである、したがってオレは無実なのである。
※参考 ↓
6.大多喜町役場ションベンタワー事件
この話もずいぶん前にここで話したはずだから、今さら深くは語らない。語らないというよりは、あまり語りたくない、永遠に封印しておきたい記憶なんだよな。
でもタダシくんの悪行を語る上で、この役場のションベンタワーの話だけは、避けては通れない。
近所の大多喜町役場は、昔からオレたちの遊び場で、役場の敷地内にそびえ立つ防災行政無線塔(広報塔)、いわゆる「チャイムの塔」も、みんなでよく頂上まで登って遊んでいたんだ。あのチャイムの塔は、根元の扉を開けると内側に鉄の梯子がかけてあり、20mぐらいの登頂部まで垂直に登れるようになっている。その最上階には大きなスピーカーがあって、そこからの見晴らしが絶景なんだ。
しかしある日のことだ、オレたちがいつものようにチャイムの塔に登り始めようとしたところ、どこからか不意にタダシくんが現れ、みんなを押しのけて先頭を登り始めたんだ。やれやれ年長さんはワガママだよなぁと思いつつも、オレたちはタダシくんに続いてチャイムの塔を登っていった。
最初にタダシくんが最上階に上がり、続いてオレがもうすぐ最上階に届きそうだというところで、上からなんとも生ぬるいお湯が降ってきたんだ。
見上げたらタダシくんが、なんと最上階から、梯子を登るオレたちめがけてションベンをまき散らしてたんだ!
オレは彼に続いて登っていたから、そのときの彼の不気味な笑みがしっかり見えた!あれは確信犯の微笑みだ!
塔の中では逃げ道はない、あきらかにタダシくんは知っててやっているんだ!それにしても、なぜ彼はこんな残酷なことができるのか‥。
もうそのあとのオレたちは阿鼻叫喚、揃っていきなり地獄に突き落とされたような様相だ。そこかしこで悲鳴があがった。
そしてみんなものすごい勢いで梯子を下りて我先にと扉に向かい、そして飛ぶように逃げていった。
あのコンクリート製のチャイムの塔の中では、いつまでもタダシくんの大きな笑い声が響き渡っていたのを今でもしっかり覚えてるぞ、反響して外までよく聞こえたわ!
タダシくんのこの蛮行のせいで、チャイムの塔は「ションベンタワー」と名付けられて忌み嫌われ、何よりキッタないので誰も近寄らなくなったんだ。
タダシくん、まったくありえねぇ!
※参考 ↓
7.新角食堂トラック通年無賃乗車事件
そうだ、これもみんなに聞いてもらわなきゃいけないよな。タダシくんは小学校の先にある食堂の保冷車(※6)の死角に、よくこっそりしがみついては、ときどき通学しているんだ。それも一度や二度じゃない、何度もオレは見ているぞ。
その新角食堂(※7)のお爺さんの保冷車がタダシくんの家の前を通過するときに、運転席から見えない背後に乗っかって、そのままちゃっかり学校のそばまで乗ってっちゃうんだ。
あのお爺さんが運転する保冷車は、良くも悪くも町内で有名なほど常に自転車並みの安全速度で走るので、タダシくんがこっそり乗るには都合がいいんだろうけどね。
なんでオレが知ってるのかというと、お爺さんのトラックは毎朝いつもオレの家の前の権現坂通りを通過してお店に向かうからなんだ。そしてタダシくんもオレを見つけると、こっちに向かって自慢げに手を振る。気付きたくなくても気付かないわけがなかろう。
初めてみたのは4年生の冬だったなぁ、オレはあれ以降、すでに5~6回は見ているぞ、タダシくん絶対にクセになってるよな。
でもさタダシくん、保冷車の背後にしがみつくってそもそも危なくないか?それに明らかに無賃乗車だし、厳密にいえば色々と犯罪だと思うんだ。よくそれで生徒会長になれたよな、みんなタダシくんの実態を知らないからなんだろうけどさ、なんかとっても違うような気がするんだ‥。
※参考 ↓
8.大多喜無敵探検隊 結成事件
そんなタダシくんだけど、最後にこれを語らないといけないよな。
今ではこのオレの活躍ですっかり有名になった大多喜町の愛と平和を陰ながら護る秘密組織「大多喜無敵探検隊」の、その誕生秘話を!
大多喜無敵探検隊が誕生したのは、あれは確か昭和49年の冬、オレがまだ小学2年生のころのことだ。冒頭でも話した通り、実はタダシくんこそが大多喜無敵探検隊の発起人であり初代隊長だったんだ。
彼は日ごろから大多喜を取り巻く様々な問題点をよく口にしては、オレたちと議論を繰り返しており、やがてそれがこの歴史的な大多喜無敵探検隊の結成へと繋がっていったんだ。
議論のテーマは主に、この大多喜町の時事、社会問題だ。こんな田舎町でも泥棒や不審者騒ぎ、交通事故などはそれなりにあり、さらに自然災害もあれば幽霊話も案外ある。彼は常日頃からそれらをよく議題とし、オレたち相手に語り合ったんだ。今でもタダシくんが当時熱意をもってオレたちに語った、その記憶に残る問題定義のいくつかを紹介しよう。
大多喜町の事件や事故について
大多喜町は空き巣や泥棒、押し売りなどの犯罪が確実に増えている。この平和な町の治安の危機である。高度経済成長で、人々の生活は豊かになった反面、みんな何か大切なものをどこかに置き忘れてしまったのかもしれない、その結果、人の心は明らかに蝕まれてしまった。
また自家用車が増えたせいで尾高屋の前の国道297号線をはじめ、いたるところで交通事故が起きている。これは明らかに交通戦争だ!
大多喜は警察署に消防団、青年団もあるけど、それだけじゃ我が町の愛と平和を守れないのではないか。
大多喜町に迫る災害や公害について
大多喜の自然は、自動車の排ガスとゴルフ場や道路の開発のせいで確実に破壊されている。現にカブトムシやクワガタも年々減っているじゃないか!
そんな中、数年前に夷隅川が氾濫して大洪水(※8)が起きて町は大変な目にあった。あれはそんな奢った人間たちへの、大多喜の大自然の報復なのではないのか。
さらに世界は今、まちがいなく氷河期に向かっているんだ(※9)、昨今の夏はいつも涼しいじゃないか、きっと大多喜町も近い将来、厚い氷に覆われて大変な目にあうだろう。
自然災害はオレたちに躊躇しないぞ、神は無慈悲だ。そんな今こそオレたちは町民の一人として何かしなければならないのではないか。
大多喜町の未来について
大多喜町の人口動態を見たか?年々確実に減っていっているんだ、間違いなく大多喜町は少子高齢化一直線だ。このままでは21世紀になるころに町の人口は1万人を切ってしまうだろう。
そんな中、大多喜町を横断する国鉄の木原線は、あろうことか赤字だからという理由で廃止が決定したんだ(※10)。鉄道がなくなった町は寂れてしまうという。諸君これでいいのか?オレたちに何かできないのか?
大多喜町の超常現象について
大多喜町はゲゲゲの鬼太郎もビックリするほどに大蛇や妖怪、幽霊話が多いのは皆ご存じの通りだが、そんな化け物以外にも、最近では新たに宇宙人が攻めてくるかもしれないといわれている。現に同級生たちのUFO目撃報告が相次いでいる。宇宙人からすれば、この人を寄せ付けない房総丘陵の大自然は、地球侵略の前線基地を作るには好都合だろう。そんな考察からも、宇宙人が地球侵略を決定した際には、きっとこの美しい大多喜町を最初に侵略にくるはずだ。その時オレたちはどうするか、蹂躙されて黙っているのか?
いいかよく聞くんだ、この町にも地球にも、悪い宇宙人と戦ってくれるアストロガンガーはもちろん、ジャイアントロボやマジンガーZ、ましてやサナダの好きなレッドバロンやマッハバロンはいないぞ、あれはすべて絵空事、あてになどできようはずがない。
みんな目を覚ますんだ!
‥など
そのうえで
「大多喜にはこんなに危機が迫っているというのに、心が曇った大人たちはまともに取り合おうとしない、もはや大人は当てにできない。大多喜町の愛と平和を護るために戦う新たな正義のヒーローが必要だ!」
・・という図式だ。
今あらためて振り返ると、おおよそ当時小学3年生の子供が、さらに年下のオレたちを交えて熱弁をふるい議論するような内容じゃないが‥、よく言えば、タダシくんの並々ならぬ非凡さが非常にわかる議題の数々ではある。おかげでオレたちも小さいうちから色々「気づき」をもらえたんだと思う。
そんな普段からの彼との会話(議論?)とオレたちの総意から、結果として導き出された答えが大多喜無敵探検隊だったんだ。
役場も警察署も消防団も青年団も当てにならないのなら、ならばオレたちがやってやろうじゃないか!そんな心意気なのであった。
初代メンバーは隊長のタダシくんに副隊長のオレ、そして当時1年生の、タダシくんの家の並びのヒロツンを入れて3人だけだった。その後ほどなくして大多喜保育園の年長さんだったオレの弟クニオや、隣家のユーイチも加わるようになっていった。
‥でも振り返ると、この隊を発足させたタダシくんの一番の動機は、多分タダシくんが住む久保地区を襲った洪水被害なんだろう。タダシくんは幼いころに大自然の猛威を直接目の当たりにしたせいで、それ以降、頭の中にしっかりとした危機意識が芽生えたんじゃないだろうか。
タダシくんの地区を襲ったあの洪水は、昭和45年7月1日の「関東地方南部の集中豪雨」(※8)といい、大多喜町の全土でものすごい被害を出したんだ。夷隅川の氾濫による家屋浸水や崩壊以外にも、道路の崩壊は町内で1,500か所ほど、橋の被害も20か所以上と壮絶なものだった。その甚大な被害状況を視察するために、当時の総理大臣、佐藤栄作さんが町にやってくるほどに酷かったらしい。
あの水害のときのオレは3歳とまだまだ幼く、そして幸いなことに我が家はギリギリ被害にあわずに済んだのであまり記憶にないんだけど、それでも父さんや母さんがアタフタと家じゅうの畳をあげていたのは何となくだが覚えている。
まぁー何はともあれ、そんな大多喜の迫りくる危機を救うべく誕生した大多喜無敵探検隊だ、その後は大多喜のために、さぞや大いに活躍したであろうと思われることだろう。でも実のところ、タダシくんが隊長だったころの思い出は特にはないんだなぁコレが。
最初にお話ししたように、オレが小学3年生になるとほぼ同時に、タダシくんは「上を目指す」といきなり言い出して隊長をオレに引き継いで、大多喜無敵探検隊をあっさりとやめちゃったんだ。
タダシくんの目指した「上」とは、実をいうとオレも今ひとつよくわからないんだけど、でもその後の彼の学業成績TOP、そして小学校の生徒会長をも務めあげた実績で何となくだがわかるような気はする。
‥でも実際のところは、タダシくんは単に大多喜無敵探検隊に「飽きた」んじゃないかなぁ。つまり「上を目指す」は方便だったような気がするんだ。
彼は突拍子のないところはあるけど知恵者で、そして沈着冷静で優しいところがある、さらに年下の子の面倒見もとても良いと思う。でもタダシくんは基本的に飽きっぽくて面倒くさがり野郎なんだ。オレだけならともかく、隊員、つまり参加者が増えてくると途端に年上として気をつかうのが億劫になって、オレに隊長を押し付けて逃げたんじゃないだろうか。
タダシくんとは、そういう掴みどころのない男なのだ。
1978年(昭和53年)2月、そんなタダシくんも、もうすぐ中学生だ。
そして今度はオレが小学6年生になる。
そろそろオレも、ヒロツンやユーイチにまかせて隊を引退かな?
クニオやヤッチャンはやらないだろうしなぁ‥
【注意】登場人物名及び組織・団体名称などは全てフィクションであり画像は全てイメージです…というご理解でお願いします。
大多喜町MAP 昭和50年代(1970年代)
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