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映画『不気味の谷』が描く、仮想世界のリアルと狂気。

仮想世界に囚われてしまった人間たちをドキュメンタリータッチで描く、
SFショート『不気味の谷』。

現実とフィクションの境が溶けていく恐怖の感覚を描いたあの見事なラストシーンは、一体何を意味していたのか?

そして、この映画に散りばめられた、オタク心をくすぐる ”コンセプトづくり” の魅力とはー。

今回は映画『不気味の谷』の作品解説をお届けします!


〈作品時間〉8:53
〈監督〉Federico Heller
〈あらすじ〉仮想空間での戦闘が、ドラッグの様に中毒化する近未来。ある地域ではそんな仮想空間に囚われた人間が社会から孤立をして生活をしていた。実際に存在する理論「不気味の谷」現象に基づく恐怖のSFショート。

***

”ゲーム”の衝撃の正体

この映画が描くのは、仮想世界での戦闘ゲームに没入しすぎ、
依存症になってしまったスラム街の人々です。

彼らは現実世界での人付き合いや、退屈さ、孤独に対処できず、
もはや人生のほとんどを仮想世界で過ごしています。

しかし、そんな彼らのインタビュー映像から一変、1人の男がゲーム内で不可解なものを見つけたことにより、物語は急展開していきます。

そこには、荒れ果てたスラムの街で血を流し息絶える男性と、男性のそばで涙を流す女性の姿が…。

そう、実はただのゲーム世界だと思っていたはずなのに、実はそのゲームを通して、彼らは現実世界での戦闘用ロボットを遠隔操作していたのですね。

そして、そのターゲットは、一般市民などを含む普通の人間たちだったのです。


実際、近年では遠隔操作によるドローン戦争が見られるようになってきていますし、軍が隊員のリクルートや訓練のためにビデオゲームを活用してきた歴史もあるため、絵空事とはいえないのがまた恐ろしいところです…。


現実よりも刺激を感じることができ、それでいて死ぬこともなくシンプルな仮想世界は、彼らにとって現実世界とは完全に切り離された存在だったのかもしれません。

しかし皮肉にも、結局は現実世界と地続きであり、現実世界に利用されていたのです。



タイトルの意味とは

タイトルにもなっている「不気味の谷」とは、実在する理論のことで、
「ロボットの見た目や動きが人間に近づけば近づくほど、嫌悪感を覚えてしまう」現象を言います。

かつてのピクサーなどのCGアニメや『バイオハザード』などのビデオゲームで同じようなことを感じたことがある方もいらっしゃるかもしれませんね。

一方、近年では、CG女子高生キャラクターの「Saya」などが「不気味の谷を超えた」などと言われているように、技術の進化によってCGキャラクターへの違和感も薄れてきています。↓


劇中で描かれていたVR世界も、VFXによる映像世界も、
「不気味の谷」を超えるほど非常にリアルでした。

しかし、1人の男を除いて、彼らは仮想世界と現実の境界線を信じ、そこに不気味な ”はざま” があることに気がつかなかった…

そんなことで、ある意味では、この映画は ”不気味” の谷底に突き落とされる作品であると言えるのかもしれません。



生々しすぎるVR依存者の生活

私たちが映画の世界観に引きこまれてしまうのは、その現実味あるストーリーや演出はもちろんですが、 精巧に練られたコンセプトと細かい設定であるともいえます。


例えば、彼らが日々の食べ物として摂取していたのは、3Dフードプリンターと呼ばれる、食べ物を3Dで出力することができる技術から作り出されたものです。↓


ペーストにした食材をノズルから出すことによって、焼き鮭からスイーツのようにありとあらゆる食べ物を作り出すことができるのだとか!

まだまだ技術や衛生面での課題はありますが、食品ロスの削減や介護食の応用などが期待されており、今後より広まっていく可能性もあると言われています。


また、彼らは一歩も部屋から外に出ることがなく、鼻に装着する小さなデバイス一つでVR世界にアクセスしていました。

現在は、VRゴーグルや大きなヘルメットなど、重くて目が回るデバイスが課題とされていますが、近い将来このようなアイテムが生まれれば、
きっとVRはもっと、彼らのように生活の一部になっていくのかもしれませんね。

こうした未来を考えると、この映画の世界がますます現実味を帯びてきて少しゾッとしますよね…。



コスチュームは”あの”大人気映画から?

また、最高にクールなビジュアルデザインも、ついつい私たちのオタク心をくすぐり、魅了してくれます。

監督は、VR内の敵のデザインを考える際に、たくさんの”敵キャラ”を参考にしながらオリジナルのムードを創出していったのだそう。

やがて、”アノニマス”な存在としての、ただの黒い塊のようなキャラクターが出来上がっていったのだと言います。


Motionographer®︎ Making “Uncanny Valley,” an eye-popping sci-fi short about a very possible future
Motionographer®︎ Making “Uncanny Valley,” an eye-popping sci-fi short about a very possible future

また、このキャラクターの鮮やかな虹色のデザインは、体にペイントを施した原住民の写真からインスピレーションを受けているのだそうです。

実際に撮影する際も、ブラックライトの塗料を塗って撮影されました。



さらに、プレイヤーの戦闘服のズボンの色などは、『スターウォーズ』でおなじみのレジスタンスのパイロット服の色から着想を得ているのだとか。↓


Pablo Olivera  "Costume design for Uncanny Valley"



このように、一つ一つの細かなことではありますが、
ゲーム内の世界も、コスチュームデザインも、
この映画にはワクワクする秘密がたくさん詰め込まれていたのですね。



単にフィクションとしては見れないほど現実味を帯びていながらも、
作り込まれた細部の設定と、映画愛にあふれるビジュアルデザインが魅力の今作。


ひょっとするとこの映画はエンターテイメントでもあり、そして狂気的な魅力を孕んでいるのかもしれない…

そう思うと、やはりついついゾッとせずにはいられなくなってしまいます…。


映画『不気味の谷』はSAMANSAで公開中です!!
ぜひご覧ください!


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