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【短編小説】親切な人




「値段見ないで!」



その男はどこにでもやってくる。




服の内側に入った値札を確認しようとする人の前に彼はやってくる。



「値段見ないで!」



「え?」


客は困惑する。



「いいの?君がそこで確認してしまったら、君はその魅力的な服を諦めてしまうかもしれない。でもよく考えて、君のその服を欲しいと思った気持ちは!!本物だろ!?!?買う理由が値段ならやめとけ!でも諦める理由が値段なら買うんだ!!買うなら今だ!!」



彼の暑苦しい熱弁に多くの人は納得し、買うための一歩になる。




そして多くがクレジットカードの明細を見ては後悔する。




しかし誰も彼のことを出禁にしない。





どの服屋も彼を絶対に出禁にはしないのだ。




なぜなら彼がいるおかげで売り上げが上がるからである。




そして客は誰も彼を追い出すことはできない。




店にクレームを入れたところで従業員ではないのだから意味がない。




そう、彼は今日も元気に



「値段見ないで!」



と言って回っている。



服屋に行った際は気をつけて欲しい。





あなたが服の中に隠れた値札に手を伸ばす時、




彼はあなたを確実に見ているのだから。


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