【短編小説】ハリネズミの鍋
夏は鍋だ。
ハリネズミはせっせと大きな鍋を運んだ。
やっぱり鍋といえばキムチ鍋。
ハリネズミは意気揚々と材料を準備した。
一匹には一匹用の鍋が丁度いいが、鍋というのは大勢で囲む方がより楽しい。
体くらいの大きさの土鍋を自分ごと入ってせっせと洗った。
ついでに水浴びをする。
夏にする水浴びはやはり気持ちがいい。
ぶるぶる水滴を弾き、鍋をコンロにセットした。
キムチ鍋にはやっぱり白菜、豆腐、しいたけはかかせない。
もちろんしいたけはおしゃれに切りたい。
小さな手を切らないように、丁寧に、丁寧に気をつけて切れ込みを入れる。
不格好だが、飾り切りの完成だ。
ハリネズミは料亭の板前になった気分だった。
鍋に食品サンプルかのごとく具材を綺麗に並べた。
出汁を入れて、おたまで少し味見をする。
わわ!おいしい!
ハリネズミはお目々がまんまるになり、お鼻とお耳がピクピクした。
しあわせだあ。
ハリネズミは覚悟を決めて、自ら鍋にゆっくりと入った。
丁度いい湯加減だ。
スパイスのピリつきを肌とハリで感じながら、
ハリネズミはゆっくり、
ゆっくり、
煮込まれていった。
サポートしていただくとさらに物語が紡がれます。