【短編小説】日本酒スパーリングの夜
グラスの中でパチパチ弾けていたそれは雪のようだった。
真夏に降る雪。
僕はそれを一人公園で寂しく呑んでいる。
スーツを着て、かっちりおしゃれをした一人の男が、夜中に公園のベンチで日本酒スパークリングを呑んでいる。
どうせなら強い酒でも豪快に飲めば良いものを、ちまちま強くも弱くもない酒をすすっていた。
蛾の群がる街灯の下、そのスポットライトは僕を辱めようとくっきり足元に影を作った。
ポケットに入った小さな箱は宛先に届けることも叶わず、夜景の見えるレストランでご丁寧に拒否をされてしまった。
付き合って3年、僕はずっとあの子との将来を考えてきた。
ここまではっきり断られるとは思わなかった。
口に含んだ日本酒はそんな僕の気持ちにお構いなく、甘く、シュワシュワと喉を通っていった。
子供の頃好きだった炭酸風呂を思い出す。
ひと撫ですれば、たちまち消える。
たった一晩で終わってしまった自分のことのようでとても切なく儚かった。
最後の一口を飲み込み、僕は一歩踏み出す決心をした。
川に投げ捨てた指輪と共に、
僕も泡になって消えた。
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