津々井サクラ

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ブーケのようなご褒美を 

イベリスのお花に水をあげたら、店内のお花たちにもお水をあげたり入れ替えたり。それが終われば今度はカフェの準備。お店のBGMを付けて今日の紅茶の選定をする。紅茶の選定は自分の気分で選ぶことが多い。もちろんそんなこと関係なしに頼んで来る人もいる。それはそれで楽しい。  今日の気分はミルクティー。気分はとことん甘く。まずは自分用に入れる。なんて言ったって今日は待ちに待った日なのだ。 「こんにちわ~」  お店の扉を開けて入ってきたのは一週間に一回来てくれる、私の大切なひまわりこ

    • ブーケのようなご褒美を ep.小さな声8

      季節がまためぐって、私たちは元気にお花を咲かせています。ただ、少し暑く感じる時期が増えてきたのでまた終わりかな?なんて思ってもいます。  すみれちゃんが鼻歌を歌いながらお水を持ってきてくれました。なんだか今日はいつもよりご機嫌です。  あれかな?デートかな?そうでしょ? 「今日はねぇデートなんだぁ。去年から約束してたの」  あらあら、顔が緩みっぱなしよ。しゃんとして、ほら。今日は早めにお客さんが来てますよ。 「あ、いらっしゃいませ!」 「まだ早いかしら?」 「い

      • ブーケのようなご褒美を ep.甘く甘く

        「なにっ!!してんねんっ!!」  一気に男が私の体から離れ、間に別の人が入ってきた。私はこの人を、この人の香りをよく知っている。会いたくて会いたくてたまらなかった人だ。 「な、なんだよ!」  まさかの男の介入に驚きを隠せないといった声色をしていた。というのも、一星さんの大きな背中のおかげで私から男は見えないのだ。これほど頼もしいことはない。  気が付くと私は一星さんの背中にしがみついていた。怖かった心が一気にお花畑に来た気分だ。  一星さんの右手が私の背中に回ってポ

        • ブーケのようなご褒美を ep.恐怖

           一星さんがお店に顔を出せなくなって、寒い季節も温かくなっていく季節も過ぎた。イベリスの花もあと二ヶ月もしたら枯れてしまう。咲いているうちに来てくれないかなと思っていた期待はもはや希薄になっている。  更に最近の私の憂鬱な気分の原因は冬あたりから来るようになった男性客。きっと最初はフラッと寄った程度だったのだろうが、なにか気に入ったのかよく来るようになって、今ではほとんど毎日来ている。  気に入った理由は恐らく私だ。さすがの私も毎日のように来られて毎日のように、かわいいだ

        ブーケのようなご褒美を 

          ブーケのようなご褒美を ep.小さな声7

          私たちは夏に一度お花を枯らして、冬にもう一度花を咲かせます。  もう一度お花を咲かせて、もう一度枯れそうになった時にもまだ一星さんはこのお店に来ていないみたいでした。すみれちゃん、寂しがってるよ。私たちには分かります。  でもすみれちゃんもちゃんと心を決めたみたいで、寂しそうではあるけれど辛抱強く待っています。  それに最近なんだかしつこいお客さんがいて少し迷惑そうにしてるから、早く一星さん助けてあげて。その人が来てからなんだかため息が増えたの。 「はぁ…」  ほら

          ブーケのようなご褒美を ep.小さな声7

          ブーケのようなご褒美を ep.不安

           それから一星さんはお店に来なくなった。連絡だけは毎日コンスタントに届いている。でもそれもかなり遅い時間や早い時間、少しだけだったりとかなり不規則だった。  不安にならないかと言われればウソになる。いや、とても不安だ。でも長谷川さんの言葉や紫苑さんに話を聞いてもらったりなどしてどうにかこうにか不安をやり過ごした。  一星さんも時間が取れた時は電話をかけてくれたりと、不安になり過ぎないように努力してくれている。そんな努力を私のわがままで潰してしまうのは間違っている。 「こ

          ブーケのようなご褒美を ep.不安

          ブーケのようなご褒美を ep.本心

          次の日、私は営業中にしおりを完成させた。  一つはすみれを入れて紫のリボンを巻いたもの。もうひとつはブルーレースフラワーを入れて青いリボンを巻いたもの。  これは自画自賛してもいい具合に良い出来栄えだった。  早速写真を取って一星さんに送ると、これ以上ないほど褒めて貰えた。そして 〈そのすみれが入ってる方が俺のでええやんな?〉  というメッセージが追加で届いた。  私は逆だと思っていた旨を伝えると即刻〈いやや〉と届いた。 〈そのすみれのは俺のや。そしたら辛い時に

          ブーケのようなご褒美を ep.本心

          ブーケのようなご褒美を ep.わがまま?

          お店を開ける前に駅の反対側にあるショッピングモールでお買い物をしてきた。  一星さんから返事が来たのは二日後のお昼過ぎだった。内容は、もちろん欲しいとの事。そこから色々考えて必要な物を買いに行ったのだ。  いざ作れる!となったらなんだか上手く作れるか不安になってきてしまった。サシェの時みたいに練習しようかな。うん、そうしよう。  葉っぱなら店内にいくらでもある。乾燥した葉っぱを見つけカエデの時と同じ工程をする。アルコール等は省いたけど。  今日一日重しで挟んで、明日に

          ブーケのようなご褒美を ep.わがまま?

          ブーケのようなご褒美を ep.小さな声6

          少し前から一星さんの姿をあまり見かけなくなりました。  すみれちゃんが言うにはお仕事が忙しいんだとか。すみれちゃん元気が無くなっちゃうんじゃないかなんて心配もしたけど、すみれちゃんは強い子。まったくへこたれてません。  私はそういうすみれちゃんが大好きよ。 「おはよぉ」  すみれちゃんがどこかお買い物に行ってきたみたい。片手にお買い物の時の袋をぶら下げてる。どこに行ってきたの?何を買ったんだろうって気になるなぁ。  きっとそれ、一星さんにプレゼントする為の物でしょ。

          ブーケのようなご褒美を ep.小さな声6

          ブーケのようなご褒美を ep.思い出の保管

          一星さんにマンションまで送ってもらって、家に帰ると私は早速貰った落ち葉を押し葉にする準備をする。  まずは新聞にふたつカエデを並べる。  こうしてみると私と一星さんが並んでいるみたいで微笑ましくなった。  ここから一時間近く乾燥させる。車の中でも手に持っていたのでほとんどないとは思うが万が一虫がついていた時のことを考え、乾燥するのと同時に虫を落とす、という意味もこの作業には含まれている。  乾燥させている間に溜まってしまっていた家事をこなす。洗濯は好き。皿洗いは嫌い。

          ブーケのようなご褒美を ep.思い出の保管

          ブーケのようなご褒美を ep.大切な思い出

           そこからしばらくはなんだかほわほわしたままだった。たった二文字。されど二文字。その言葉だけでこんなにも心穏やかに過ごせるのだ。  嬉しくなったと同時に私は一星さんを誰にも取られたくないという気持ちがふつふつと浮かび上がった。私にとってこの感情は怖い感情。  この感情のせいで父親は暴走し始めたのだ。この感情のせいで女性社員に陰口を言われるようになったのだ。この感情のせいで先輩の奥さんが怒鳴り込んできたのだ。  「独占欲」「嫉妬」これ以上に怖い人間の感情はない。  浮か

          ブーケのようなご褒美を ep.大切な思い出

          ブーケのようなご褒美を ep.電話

          そんな話をした次の日、一星さんから連絡が届き、今までは閉店後にちょろっとだけ寄るくらいは出来たけどそれが出来なくなる、という連絡だった。  ライブのリハーサルにドラマの打ち合わせ、それに伴って番線の為のバラエティー番組の撮影、雑誌の撮影、自分たちの冠番組の撮影と聞くだけでめまいがしそうだ。  ごめんやで、って電話でたくさん言って貰ったけど私はそれよりも一星さんの体が心配だった。  それを伝えると大体ライブ前はこんな感じなのだそう。 〈まぁ、今回はドラマもあるからいつも

          ブーケのようなご褒美を ep.電話

          ブーケのようなご褒美を ep.女子会

          そこから一星さんは今までの定期的に来てくれていた時とは打って変わって、あまり顔を出さなくなった。たまーに来ても閉店後しばらくしてからだった。どんな仕事をしていたのか聞くとライブのリハーサルをしている、とのことだった。こんな時間まで!?と驚くことが増えた。  かといって関係性が進んだかと聞かれたらほとんどあの夜の前から変わっていない。  唯一変わったことと言えば連絡先を交換したことくらい。逆に今まで交換していなかったことにお互い驚きを隠せなかった。それくらいお互い仲良くして

          ブーケのようなご褒美を ep.女子会

          ブーケのようなご褒美を ep.なんで…?

           そろそろお店を閉めようかなという時間に外が異様に騒がしいことに気が付いた。ずっと図鑑を読んでいて気が付かなかった。赤い光がちらちらと見えている。  何事かと思ってお店の外に出てみる。  すると駅の方角から騒がしさが届いていた。駅前のロータリーには複数台のパトカーが赤いランプをチカチカとさせている。その周辺には恐らく報道の車。救急車までもが複数台到着している。現場は騒然としているのか、内容は分からないが叫び声はここまで聞こえてくる。 「葵衣!」  母親の不倫相手が母親

          ブーケのようなご褒美を ep.なんで…?

          ブーケのようなご褒美を ep.アイドル

           秋晴れとはこのことを言うのだろうというほどの快晴。思わず外に出た瞬間伸びをしてしまった。  お墓参りをしてから3ヶ月が経過し10月に突入した。外に出るだけで汗が吹き出るような暑さだったのにいまは長袖を着なくては少し肌寒い程になった。ここから本格的に冬が訪れそうだ。  冬になると途端にお花が少なくなるので少し寂しい気持ちになるのだが、その代わりに空気が乾燥してくるのでお花をドライフラワーにしやすくなるという利点もある。つい昨日からカスミソウをドライフラワーにしようと吊るしてい

          ブーケのようなご褒美を ep.アイドル

          ブーケのようなご褒美を ep.小さな声5

           少し前まではこれでもかというほど太陽が顔を出していたのに、気が付くと空気が少し冷たくなってきました。  一度夏にお花が無くなってしまった私たちですがこれからの季節にまたお花を咲かせます。すみれちゃんも楽しみにしてくれているみたい。いつもニコニコです。 「また元気にお花咲かせてね」  なんて声をかけてくれます。そんなすみれちゃんに私たちはみんな揃って任せて!とはっぱを揺らすのです。  そうそう、あの大きな人。最近よく来ます。ポプリをすみれちゃんに貰ってからお店が開く前

          ブーケのようなご褒美を ep.小さな声5