ブーケのようなご褒美を ep.わがまま?
お店を開ける前に駅の反対側にあるショッピングモールでお買い物をしてきた。
一星さんから返事が来たのは二日後のお昼過ぎだった。内容は、もちろん欲しいとの事。そこから色々考えて必要な物を買いに行ったのだ。
いざ作れる!となったらなんだか上手く作れるか不安になってきてしまった。サシェの時みたいに練習しようかな。うん、そうしよう。
葉っぱなら店内にいくらでもある。乾燥した葉っぱを見つけカエデの時と同じ工程をする。アルコール等は省いたけど。
今日一日重しで挟んで、明日にでも作ってみよう。
一応挟むだけでラミネート加工が出来るものと穴あけパンチ、それから紫と水色のリボンを買ってきた。
そうだ、カエデだけだとつまらないかもしれないからブルーレースフラワーを入れよう。それから…
「…すみれ、とか?」
いや自意識過剰かもしれないから辞めようかな。でももしかしたら喜んでくれるかもしれない。
私は日葵ちゃんに連絡してすみれの花、生花でもドライフラワーでもいいから手に入らないか聞いてみた。
ブルーレースフラワーは少し難しかったが上手くドライフラワーにすることが出来た。ドライフラワーにすると淡かった青色が、かなり濃く出てくる。この変化を楽しめるのもお花の魅力だ。
どうやらドライフラワーなら手配が出来そうという話でまとまった。元々すみれが切り花としてめぐってくるのは珍しい。ほとんどないに等しい。むしろドライフラワーの方が手に入りやすいだろう。
私はそこから数日かけて練習のしおりを作った。難しいと思ったがそこまで難易度は高くなかった。またもや練習で作ってるところをいつもの紫苑さん、日葵ちゃん、キヨさん、柳じいさんに見つかったので、皆に配り歩いた。今の所好評。
カエデの乾燥も終わったのでここからは、更に乾燥させるために文明の利器を使う。アイロンの登場!なんちゃって。
キッチンペーパーの上にクッキングシートで挟んだカエデを置く。そうしたらアイロンを
低温設定にして5秒ほど押し当てる。一度冷ましてもう一度押し当てる。これをカエデがパリッとするまでつづけるのだ。
一枚づつ丁寧に、やりすぎないように。
いい感じになったらようやく押し葉の完成。
ここからはこのカエデや同じことをした押し花たちをしおりにしていく作業なのだが、熱中し過ぎていたらしい。もうすぐ夜中の一時だった。
そろそろ寝ようか、というタイミングで一星さんから電話がかかってきた。
「もしもし」
〈起きとったん?〉
「この間のカエデを押し葉にするのに夢中になっていたらこんな時間になっちゃいました」
〈なにかに夢中になるのはええことやな〉
一星さんは絶対に否定しない。何をするにしても良いね、という。無条件に良いと言っているのではなくてどんな物事でも良い面を見つけるのが上手なんだと思う。
「一星さんはお仕事ですか?」
〈せやねん、今終わって帰ってきたとこ〉
「わぁ、お疲れ様です」
〈すみれちゃんってお酒飲むん?〉
唐突な質問に驚く。
「え、まぁそれなりですかねぇ。飲まなくても平気って感じです」
〈なるほどなぁ〉
すると電話の奥でプルタブを開けるプシュッとそうかいな音が聞こえた。
「もしかしてお酒飲んでます?」
〈あ、バレた?〉
一星さんのいたずらっ子みたいな顔が思い浮かぶ。
好きなお酒の話、今日のメンバーさんが面白かった話、一星さんはたくさん話してくれた。
前にも思ったが一星さんの会話には必ずと言って言い程メンバーさんが出てくる。しかも全部ポジティブな内容。たまにけなす事もあるけど、本当のけなしじゃなくて心の底からの愛があるからこそのけなしであることは初めて聞いた時から分かった。それだけの信頼関係が出来上がっているのだろう。
話をしていると段々と一星さんの口数が減っていく。
「一星さん」
〈んあ?〉
「もしかして眠いです?」
〈ん~そうかも~〉
酔った一星さんは語尾がゆるゆると伸びている。なんだか可愛い。新たな一星さんの一面だ。
〈すみれちゃん〉
「はい?」
〈いつ敬語辞めてくれるん?〉
「え?」
今日の電話は唐突な事が多い。
〈いや、なんもない。限界っぽいからそろそろ寝るわぁ。おやすみ〉
有無を言わさず電話が切られる。確かに私はいつまでも敬語のままだ。これが距離を感じる、ということだろうか。
これはもう癖のようなもので逆に男の人に敬語じゃなく話すことはめったにない。あるとすれば柳じいさんくらい。
それは心のどこかにまだ男の人には従わないといけないという事が染みついているからだろう。でもこれが一星さんにとって距離を感じる結果になってしまっているなら…
私はベッドのなかでゆっくりと目を閉じた。
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