是恒さくら|くじらの見える書窓

美術家。リトルプレス『ありふれたくじら』主宰(Vol.1〜6既刊)。{web: www…

是恒さくら|くじらの見える書窓

美術家。リトルプレス『ありふれたくじら』主宰(Vol.1〜6既刊)。{web: www.sakurakoretsune.com}

マガジン

  • fieldnotes(日々の記録)

    リトルプレス『ありふれたくじら』の制作プロセス、随筆、うつろいかたちを変えていく思考の記録、などなど。不定期の投稿は、こちらのマガジンにまとめていきます。

  • dialogue(ことばの集うところ)

    私の作品・展覧会・活動などについて書いてくださったみなさんのnoteを集めていきます。

  • そこでことばがうまれる。

    「ひとつの土地一冊の本」をめざしながら、鯨の話を探して訪れた土地の物語を、刺繍の挿絵とともに纏めてきた小冊子のシリーズ『Ordinary Whales / ありふれたくじら』。最新号となる『ありふれたくじら Vol.6』は、アメリカ合衆国ニューヨーク州ロングアイランドの先住民シネコックと鯨の結びつきを尋ねて歩いた旅の記録です。 これから『ありふれたくじら Vol.6』と出会う人たちは、どんな風景を見てきて、どんな風景を見ていくのだろう。海を旅してきた人、本をつくり届ける人たち、ことばを紡ぎうみだす人たちと、それぞれの場所で「そこでことばがうまれる」ときのことを話してみたい、と思いました。 いくつもの窓を開いていくような刊行記念企画です。(是恒さくら) 《助成 公益財団法人仙台市市民文化事業団》

  • ありふれたくじら Vol.1 :網地島/鮎川浜

    宮城県石巻市、牡鹿半島の先端のまち・鮎川浜は捕鯨基地として知られる。その対岸にある網地島には、鯨を奉る古い石碑がある。海をはさんで向かい合うふたつの土地で暮らしてきた人たちにとって、鯨とはどのような存在だったのだろう。2016年発行のリトルプレス『ありふれたくじら』の第1巻の日本語版。

最近の記事

P. 13 | 経緯、その鯨ほどの余白——是恒さくら展 / Sakura Koretsune Exhibition "The warp and woof of a whale of a tale" (北海道文化財団アートスペース / Hokkaido Arts Foundation Art Space)

札幌市にある北海道文化財団アートスペースにて、是恒さくら展「The warp and woof of a whale of a tale-経緯、その鯨ほどの余白」を開催します。 今回紹介するのは、一年間のノルウェー滞在中に取り組み始めた作品群です。 個展の開催は久しぶりです。個展をひらくことは、自分が探究·表現を続けていく途上、終わらない道の上で「現在地」を標として形にしていくことなのだなと思います。振り返ると過去3年間の2回の個展も北海道内で開催したので、今回の展示に向けて

    • memo.|2023年8月6日、オスロにて

      8月6日、オスロでは深夜1時、時差7時間の広島市で行われている平和記念式典のライブストリームを見ていた。8時15分の黙祷の時、静かなキッチンで一人目を瞑ると、昨年参加した式典の日差しと空気の熱が蘇るようだった。 8月4日からオスロのYoungstorgetという広場でHiroshimadagen(広島の日)というイベントが始まった。毎年開催されているそうで、今年は開幕にオスロ市長とICANノルウェーがスピーチをした。広場では複数のアーティストによる反核メッセージのポスターが

      • P.12|ノルウェーと日本の間、ある船の記憶をたぐる / Drawing a memory of a ship between Norway and Japan

        (English follows.) ノルウェーに来てから半年が過ぎました。滞在の折り返し地点です。4月下旬からオスロにて最初の展示を行います。会場はオスロ大学図書館の展示スペースです。こちらで参加している研究プロジェクト「Whales of Power」との展示です。 ここ半年ほど手繰っていた物と語りを紹介します。 ---------- それは一枚のガラスネガから始まった。撮影者はヘンリク・G・メルソム。1900年前後に日本の捕鯨船で活躍したノルウェー人砲手だ。20世紀

        • P.11|とらう / Catch

          (「VOCA展2022 現代美術の展望─新しい平面の作家たち─」出品作に寄せて) 10代の春休みの一時期、広島県の瀬戸内海にある故郷の島で「漁網編み」のアルバイトをしたことがあった。だだっ広い工場の2階、3〜4名の女性たちが片膝を立てて座り、ゴザの上に広げられた大きな漁網を編み進んでいく。黒光りするナイロンの糸は硬く、仕事を始めたばかりの私の指は3日もすると絆創膏だらけになった。 急にそのことを思い出したのは、それから約15年後のこと。東北で暮らすようになり、2018年に

        P. 13 | 経緯、その鯨ほどの余白——是恒さくら展 / Sakura Koretsune Exhibition "The warp and woof of a whale of a tale" (北海道文化財団アートスペース / Hokkaido Arts Foundation Art Space)

        マガジン

        • fieldnotes(日々の記録)
          19本
        • dialogue(ことばの集うところ)
          10本
        • そこでことばがうまれる。
          15本
        • ありふれたくじら Vol.1 :網地島/鮎川浜
          11本

        記事

          P.10|汀線をゆく 〜《「せんと、らせんと」6人のアーティスト、4人のキュレーター》 (札幌大通地下ギャラリー500m美術館)に寄せて〜

          ​「日本人だから鯨が好きでしょう?」 そう微笑んで、私のお皿に山盛りの鯨肉を分けてくれた。 アラスカで暮らした頃、鯨猟の町で育ったクラスメイトの思い出。 私の生まれ育った瀬戸内海には、大型の鯨類はほとんど来ない。学校給食でも鯨を食べなかった世代の私にとって、鯨はそれほど身近とも思えない食べ物だった。けれど、その一皿を受け取ったときの満面の笑顔は、忘れられない瞬間となった。 昔は、よく食べていたのに。 昔は、飽きるほど食べたのに。 昔は、          。 鯨はいつも誰

          P.10|汀線をゆく 〜《「せんと、らせんと」6人のアーティスト、4人のキュレーター》 (札幌大通地下ギャラリー500m美術館)に寄せて〜

          news|「鯨寄る浜、海辺の物語を手繰る」(苫小牧市美術博物館・企画展「NITTAN ART FILE4:土地の記憶~結晶化する表象」のこと)

           鯨に導かれるように、海を伝うようにさまざまな土地を訪れてきた。ある時、苫小牧で聞いた話が、頭から離れなくなった。かつて苫小牧の浜辺が広い砂浜だった頃、砂山の上にあった恵比寿神社と稲荷神社に鯨の骨が祀られていたという。  それはどんな光景だったのだろう。なぜ人々は鯨の骨を大切にしたのだろう。さまざまな海浜植物が花を咲かせた広い砂浜も、鯨の骨が祀られたという神社も、すでに失われた、今。海辺に立ち辺りを見渡しても、かつての眺めを想像することは難しい。  東北から北海道南部の海

          news|「鯨寄る浜、海辺の物語を手繰る」(苫小牧市美術博物館・企画展「NITTAN ART FILE4:土地の記憶~結晶化する表象」のこと)

          memo.|76年前、ヒロシマからそう遠くない島

          今年は札幌で過ごしている、8月6日。広島県で生まれ育った一人である私にとって、この日付はいつも特別だ。今日、周りでどんなイベントが起きていても、まず思うのは原爆投下の日ということ。何日も前から心がざわつく。 今年こそ見に行きたいと思っていたとある神社の例大祭が、昨年から2年連続して中止となった。これまでの中止は1945年のみだったという。その例大祭の関係者で、戦争を知る世代の人がコロナ禍と戦争を「同じようなものだ」と語っていた。その言葉はなんて重いのだろう、と思った。 東

          memo.|76年前、ヒロシマからそう遠くない島

          P.9|行間の風景: 1. 「砂山の鯨」

          「行間の風景」を旅する宮城県石巻市、牡鹿半島の先端にある鮎川浜は鯨の町として知られる。長年鮎川浜で暮らしてきた女性は、「鯨は陸(オカ)から見てもいねぇんだもん」と言った。と。彼女の夫は捕鯨船の銛打ちだった。捕鯨船は一度漁に出ると一週間は戻ってこなかったそうだ。沖のずっと向こう、どこまで行ったかわからない、と。 鮎川浜の人たちと鯨の関わりはさまざまだ。海を泳ぐ鯨を見たことはないけれど、鯨料理が得意な人。鯨の歯の加工の仕事を継いできた人。捕鯨船乗りや鯨の解体士も。 鯨という巨

          P.9|行間の風景: 1. 「砂山の鯨」

          P.8|「網走のカラス」のこと

          2016年の夏頃、気になるニュースが目にとまりました。アラスカからロシアに向かって弓形に延びるアリューシャン列島の小さな島に打ち上げられた鯨が、新種らしいとわかったこと、そしてこの鯨が、日本の北海道・網走の漁師たちの間で「カラス」と呼ばれ、昔から知られていた存在だったということでした。 (2019年、このクジラは「クロツチクジラ」として発表されました|プレスリリース 国立科学博物館/北海道大学) カラスと呼ばれるその鯨は、どんな風景のなかにいるのだろうと、気になってしょう

          P.8|「網走のカラス」のこと

          news|「石の知る辺」...ロングアイランドへの旅と、北海道立北方民族博物館の展示のこと

          北海道立北方民族博物館にて、ロビー展「石の知る辺~アメリカ・ニューヨーク州ロングアイランド、先住民シネコックに鯨の物語をたずねて~ 是恒さくら 本・刺繍・写真展」(2021.01.05〜24)がはじまりました。(展示の詳細はこちら) 2019年に訪れたアメリカ・ニューヨーク州ロングアイランドで、先住民シネコックの人々と鯨のかかわりを尋ねた旅の記録の写真とともに、鯨にまつわるエピソード、そこから着想された刺繍作品を紹介します。刺繍作品群は昨年発行したリトルプレス 『ありふ

          news|「石の知る辺」...ロングアイランドへの旅と、北海道立北方民族博物館の展示のこと

          news|是恒さくら+Dylan Thomas 「ふたつの水が出会うとき / When two waters meet」(Cyg art gallery、盛岡)

          盛岡・Cyg art galleryにて、是恒さくら+Dylan Thomas「ふたつの水が出会うとき / When two waters meet」を開催中です。今回の展示について、Cygのnoteで記事にしていただきました。企画を一緒にすすめてきた藤岡麻衣さんとのトークの動画も公開されました。 カナダ先住民であるコーストサリッシュのアーティストDylan Thomasとの2人展です。 Dylan Thomasの来日は叶いませんでしたが、カナダとのやりとりを通して、北西

          news|是恒さくら+Dylan Thomas 「ふたつの水が出会うとき / When two waters meet」(Cyg art gallery、盛岡)

          xiv. 作品の窓⑥「パウワウ」

          シェーンからシネコック・インディアン・パウワウについて聞いた時、不思議な話をひとつ聞いていた。ある地元の漁師が過去2年間、パウワウが開かれている間に、500頭ほどの鯨の大群が東へと移動しているのを見たという。鯨は移動を始めると一緒に行動するから、ありうる話だとシェーンはいった。彼はまた、「労働者の日を起点に、サウサンプトンからあらゆるものが移動するようだ。ミサゴ、魚、観光客、そして鯨も。」と言った。パウワウが終わる前、私は海に行き、しばらく眺めていた。けれど、一頭の鯨も見つけ

          xiv. 作品の窓⑥「パウワウ」

          xiii. {対談}『ありふれたくじら』Vol.6を読んで〜触れられる〈言葉〉を編みだす/ゲスト:詩人 カニエ・ナハさん

          様々なアーティストやダンサー、ミュージシャン等とのコラボレーションを通して、詩の新しい表現方法を模索している詩人、カニエ・ナハさん。『ありふれたくじら』シリーズは、全号読んでいただいています。鯨を通して世界を見ること、その旅の方法と行先について、カニエさんとお話ししました。 ******** 是恒:カニエさんは『ありふれたくじら』シリーズを全号、持っていらっしゃるとのことですね。初期の1、2号はすでに売り切れているので、全号持っている方は珍しいんです。 カニエ:初期から読

          xiii. {対談}『ありふれたくじら』Vol.6を読んで〜触れられる〈言葉〉を編みだす/ゲスト:詩人 カニエ・ナハさん

          xii. 作品の窓⑤「誰もが小さなパズルのピースを持っている。」

          「誰もがひとりひとり、シネコックである何かを持っている。料理が上手い人もいれば、狩猟や釣りが上手い人もいる。みんなが集まって教え合うことができたら素晴らしいことだ。誰もが小さなパズルのピースを持っている。日々の生活は、時間をかけた学びだから。」 海に生きてきたシネコックの人たちにとって、鮮やかな紫と白が美しい、貝殻製のシェルビーズは大切な装飾のアイテムだ。 *** 日本の沿岸部の民俗や伝承を調べていると、鯨は良いものと悪いものどちらも運んでくる存在だったとわかる。それは

          xii. 作品の窓⑤「誰もが小さなパズルのピースを持っている。」

          xi. {対談}『ありふれたくじら』Vol.6を読んで〜本で旅する、本を旅する。/ゲスト:ペンギン文庫 オーナー・山田絹代さん

          様々な土地で本屋を開き、本と本屋の持つ新たな可能性を探してきた移動式の本屋、「ペンギン文庫」。『ありふれたくじら』シリーズも、ペンギン文庫を通じていろんな土地に届けていただきました。『ありふれたくじら』Vol.6の感想と、最近の活動のことを、オーナーの山田絹代さんにお聞きしました。 ********** 是恒:ペンギン文庫は移動式本屋として、出店場所にあわせてセレクトした本との出会いを各地でうみだしてこられましたが、今年はどのような変化がありましたか。 山田:去年までの活

          xi. {対談}『ありふれたくじら』Vol.6を読んで〜本で旅する、本を旅する。/ゲスト:ペンギン文庫 オーナー・山田絹代さん

          ⅹ. 作品の窓④ 「鯨を呼ぶ人」

          「いつもどこかで鯨を見かけるようになってから、私はまわりの人から〈鯨を呼ぶ人〉と呼ばれるようになった。漁船で働いた頃、船長が何年も海に出ていた人だったけれど、鯨を見たことがないと言った。そこへ私が行くと、毎回鯨が現れた。そういうことが起きてきた。」 「私たちシネコックは鯨獲りでもあった。鯨が浜に打ち上がるのを待っていただけではない。私たちは100人乗りのカヌーを持っていて、何日も航海することができた。銛を使って鯨を獲った。銛にはロープが結びつけられていて、そのロープは丸太に

          ⅹ. 作品の窓④ 「鯨を呼ぶ人」