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news|「鯨寄る浜、海辺の物語を手繰る」(苫小牧市美術博物館・企画展「NITTAN ART FILE4:土地の記憶~結晶化する表象」のこと)

 鯨に導かれるように、海を伝うようにさまざまな土地を訪れてきた。ある時、苫小牧で聞いた話が、頭から離れなくなった。かつて苫小牧の浜辺が広い砂浜だった頃、砂山の上にあった恵比寿神社と稲荷神社に鯨の骨が祀られていたという。

 それはどんな光景だったのだろう。なぜ人々は鯨の骨を大切にしたのだろう。さまざまな海浜植物が花を咲かせた広い砂浜も、鯨の骨が祀られたという神社も、すでに失われた、今。海辺に立ち辺りを見渡しても、かつての眺めを想像することは難しい。

 東北から北海道南部の海辺のまちを訪れるうち、同じように鯨の骨を祀ったという話を聞いた。鯨は魚を連れてきてくれるから。鯨は恵みとなる、ありがたい存在だから。そんな語りとともに。海でつながる土地々々で見たもの、聞いた話の数々に、かつて苫小牧で盛んだったイワシ漁の記録と、砂山に祀られていた鯨の骨への想像を重ねてみた。

 苫小牧市美術博物館には、勇払で見つかった鯨の骨がある。約6,000年前のものと考えられている。海辺では時の流れが捻れることがあるようだ。数千年前の生物の骨、かつて誰かが使った木の舟、さまざまな道具——そうしたものがある日突然、姿を現すことがある。はるか昔の海に生きた大きな生物の骨に触れる。その体の上を通り過ぎて行った時の重なりを思わずにはいられない。

 記憶が地層のようなものだとしたら。私は、この街を通り過ぎて行った人々が踏み固めた土の上に立つ。深く根を伸ばす浜辺の植物は、地中に閉じ込められた物語を、春や夏の花の色に変えているのかもしれない。大海から打ち寄せる波は、浜辺に埋もれた記憶を洗い出す。やがて海潮に溶け出した物語は、大きな生き物に飲み込まれて、水平線のはるか向こうにある浜辺まで届いていく。

 鯨の骨にまつわる物語は、そんな航海へと私を誘う。

2022年1月 是恒さくら

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苫小牧市美術博物館にて、企画展「NITTAN ART FILE4:土地の記憶~結晶化する表象」が始まりました。

● 企画展「NITTAN ART FILE4:土地の記憶~結晶化する表象」
https://www.city.tomakomai.hokkaido.jp/hakubutsukan/tenrankai/nittan4.html
出品作家:こだま・みわこ(版画家)、是恒さくら (美術家)、佐藤祐治 (写真家)、山脇克彦 (構造家)
会期:2022年1月15日(土)~3月13日(日)
休館日:月曜日
開館時間:9:30~17:00(最終入館16:30まで)
会場:苫小牧市美術博物館
観覧料:一般300(240)円、高大生200円(140)円、小中学生以下無料
※( )内は10名以上の団体料金 / ※年間観覧券による観覧可能 / ※免除申請についてはお問い合わせください。/ ※併せて中庭展示、常設展示もご覧いただけます。
主催:苫小牧市美術博物館
協力:NPO法人樽前artyプラス
後援:苫小牧信用金庫、北海道新聞苫小牧支社、株式会社苫小牧民報社、株式会社三星、北海道新幹線×nittan地域戦略会議

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昨年秋から住んでいる苫小牧には、数年前からたびたび訪れていました。この海辺の土地の記憶のひとつの層を、鯨を通して見つめるような展示となりました。
この展示では、昨年秋より「タルマイ浜編集部」として発行しているフリーペーパー「Carta Cetaceaくじらじまの海図」の資料室を設けています。参加メンバー(NPO法人樽前arty+、苫小牧市美術博物館、他のみなさん)の取材、執筆、配布活動を通して集まった資料やスケッチ、ドローイング、地図と、「ストランディングネットワーク北海道」から提供いただいた資料も紹介しています。

● Carta Cetacea くじらじまの海図https://www.sakurakoretsune.com/cartacetacea.html

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