見出し画像

リーディング小説「生む女~茶々ってば~」第八話 女は楽器、それを奏でる男で音色は変わる

女は楽器、それを奏でる男で音色は変わる

男と女が褥をともにすること。sexするのは誰としても同じだと思っていた。
秀吉は30歳も年上でたくさんの側室もいるし、経験も豊富だ。
だから私は彼から与えられる閨のことが、男と女のすべてだと思っていた。治長は最初から、秀吉と違った。
治長は高価な青磁の器を扱うように、大切に私に触れる。
触れながら、触れられながら、わたしは幼い頃を思いだした。

同じ乳を飲んで育った私達は、おはじきをいろんなところに隠しては探す、宝探しをした。初や治長の弟たちがあちこちに隠した、色とりどりのおはじき。私と治長は力を合わせ、知恵を出し、石の下や木のくぼみ、様々なところから見つけ出した。彼に抱かれることは、一緒に宝探しをしているようだった。

どこに「快感」というおはじきが隠されているのか、時間をかけて探し出す。その作業を深めながら、私の身体はやわらかく潤びていく。身体全体がしっとり柔らかくなるのがわかり、ビックリする。爪先、指先、乳首、花芯一つ一つに治長は唇を寄せ、指でリズムを取る。リズミカルな動きに私の身体は弓なりにしなる。どうして女の身体は、先端や奥に潜んでいる場所が敏感なんだろう。そう思った時、しなった足の先から、波のような強く激しい快感がおそってきた。治長は私の髪を撫でながら、ゆっくり私の中に沈み込む。

それは、秀吉のセコセコした慌ただしい動きとはまったく違うものだった。
秀吉が入ってきた時は、いつも痛みによる吐息しか出なかった。
だが治長を迎えた今、こらえてもこらえきれない悲鳴にも似た甘い吐息が私の唇から漏れる。止めようとして止められないこの声は何?
このちがいは、一体何?

女は楽器、それを奏でる男で音色は変わる
私はその事実を、知った。

治長が果てた時、彼から放たれた子種が力強く子宮に泳いでいくさまが見えた。あとは、タイミングだけだ。

それから、秀吉が私のところに来た翌日、必ず治長が私を抱くようになった。最初は遠慮しがちに私を抱いていた治長は、肌が慣れるにつれどんどん大胆になった。私を上に乗せたり、四つん這いにさせたりたが、必ず私の同意を得て行っていた。初めは妊娠するだけが目的だったが、治長とのsexは私の隠された快感をいくつも開き、深めていった。
sexを終えた治長は、愛おしそうに私を抱きしめようとする。
だが私はいつも彼の腕を押しのけた。治長は一瞬傷ついた顔になるが、すぐ忠実な家来の顔に戻る。私はすぐ夜着をはおり、何もなかったように彼に背中を向ける。

私は海老のように背中を丸め、心をしっかり抱えていた。
少しでも心を許すと、治長に身体だけでなく心も甘い吐息を感じそうで、怖かった。身体だけでなく、心もエクスタシーを感じたら、私はもう秀吉のところに帰れない。

私は自分の不器用な性格を知っている。
二人の男を操り、どちらともうまくやるなど到底できない。
子種を受け取る手段として、治長を抱く。
そうやってきっちり一線を引き、自分を律することで心を守っていた。

その夜も、秀吉はやってきた。
いつもより酒を飲み酔った彼は、いつもよりずっと乱暴に私を扱った。
お酒でなかなか達しない自分にイライラした彼は、私の肩や乳房や太ももを噛んだ。私は唇を噛み、痛さに耐えた。屈辱に震え、一時も早くこの時間が終わることだけを願った。結局彼は達しないまま、大きないびきを立てながら私の横で眠った。彼の歯形は、奴隷の焼き印のように私の身体に赤く残された。

翌日、治長が来て惨めな私の身体を見た。
彼は一目見て、秀吉のしたことを理解した。
治長は涙を流し、私をやさしく抱きしめた。
だが秀吉とのみじめな契りが、私の身体を固くこわばらせ、男を拒んでいた。

治長は歯形の後に、唇をはわせた。
それは傷ついた獣が、母親に自分の身体をなめてもらい癒されるのに似ていた。彼の唇は徐々に、隠されたくぼみに移った。
そこに達した時、子宮が切ないほど震え始めた。
やがて、これまでに感じたことのない強いうねりに襲われた。

欲しい
ほしい

それだけしか、考えられない。
私は喉の渇きを感じ、水を求めるように初めて自分から彼を欲しがった。
彼は忠実な家来の仮面を脱ぎ捨て、一人の男の顔になり荒々しく私の中に入った。

「あっ・・・」
刹那、声がもれた。
あとは唇を噛みしめ、布団を握りしめ、心の中で叫んだ。

なに
なに?
これは、なに?

大きな波にさらわれ、どこに運ばれていくのかわからない。
身を任せる、ということが、こんなに怖いと思わなかった。
でも、この波に抗えない。

「いこう、治長・・・
いっしょにいこう」
私ははぁはぁ息をもらしながら、彼に言った。
彼はうなずいたまま、激しく動いた。
私は波に飲み込まれぬよう、しっかり手足を彼に巻きつけた。
やがて大きな波が二人を飲み込み、これまで感じたことのない稲妻のような快感が、爪先から頭の先まで貫いた。
その瞬間、勢いよく彼の子種が私に放たれた。
放たれた子種が私の子宮に着地したのを、確かに感じた。

私は受け取った!
ついに手に入れた!
ああ、そうだ。私は何の根拠もなく、ただわかった。

ゆるやかに波が引き、息が落ち着くのを待った。
私は乱れた髪を手でかき上げながら、治長に向かって微笑んだ。
「今、私の中に子種が入った。
それが、わかった」
治長は黙って私を抱き寄せた。私は抱き寄せられるに、まかせた。
彼はやさしく私の髪を撫でながら、言った。

「私にも、わかりました。
お役目は、ここまでです。
茶々様、よかったです。
これからですぞ。
これからが、本当に望む道ですぞ」

「わかっておる、治長」
そう言って私は彼の腕から抜け出て、治長に命じた。

「治長、これからもずっと私のそばにいなさい。
妻を娶るのは、かまわぬ。
子も作れば良い。
だが、ずっとその身を私に捧げなさい。
終生、私のそばにいるのです」

その約束を誓わせるため、私は彼の目の前に甲を上にした左手をさし出した。
彼はナイトのようにさし出された手を恭しく両手で受け取り、手の甲に唇を寄せた。
契約終了だ。

身なりを整えた治長が、静かに部屋を出て行った。

一人になった私は満ち足りた気持ちで、お腹を撫でた。
ここに子種がある。私は笑顔になった。
目を閉じた私は、自分の子宮という大地に子種が植え付けられ、芽吹くのが見えた。

この子は男子だ。
男子にちがいない。
豊臣の名を継ぐ、男子だ。

--------------------------------

したたかに生き愛を生むガイドブック

あなたは自分を楽器に例えると、何だと思いますか?

その楽器はどんな音色を出すと思いますか?

あなたの音色は、あなたしか出せません。

誰かに奏でさせるように見えて、あなたが奏でています。

その音色に、あなたの思いや生き方が込められています。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?