【ショートショート】弄ぶ雪

「寒い日は暖房の効いた部屋で炬燵、そしてアイスに限りますなあ」
「寒いのか暑いのかどっちだよ」

 隣で白い餅に包まれたアイスをもぐもぐと食べ、幸せそうに炬燵で温まる彼女の、異常気象の朝晩寒暖差も裸足で逃げ出す発言にツッコミを入れる。俺は暖房の効いた部屋で炬燵に入りながら、もくもくと湯気の立つコーヒーを飲んでいると言うのに。
 しかし彼女があまりにも幸せそうに食べる為、自分も少し食べたくなってくる。だがその判断は致命傷になるぞと言わんばかりに、窓の外は冷たい強風がはしゃぎ回っていた。朝早くに干した洗濯物が激しく踊らされている。

 あー、そのアイスが白い餅に包まれたやつじゃなくて、バーゲンみたいな名前のくせにお高いやつだったら絶対に食べたのに。

「あれ?ねぇ外、雪降ってない?」
「え?うっわマジかよ」
「洗濯物取り込まなきゃ!」
「天気予報マジで仕事しろよー!」

 ずずずっとコーヒーを飲んでは炬燵でだらだらと過ごしていると、アイスを食べる手を止めた彼女が窓を外を指さした。目を凝らすと指摘通り、白い雪が強風に舞いながらちらついている。
 寒さに身震いしながら二人で勢い良く炬燵を飛び出した。雪のゆの字も言っていなかった天気予報のサボり具合に恨み節を吐き、窓を開ける。瞬間、はしゃぎ回る強風が俺達を直撃して部屋の温度を下げた。
 口を尖らせ大急ぎで物干し竿から洗濯物を取る。靴下を干しているピンチをひとつひとつ外すのに苛立って、舌打ちをこぼした頃。彼女が真っ白のニットを抱えながら、「マジかぁ」と呟いた。

「雪、止んだみたい」
「マジかー……一瞬過ぎねぇ?」
「ねー。マジ一瞬だったね」

 ほんの一瞬、強風を舞っただけの雪に弄ばれた。ぬくぬくと過ごしていた指先はぐんと冷え、なんと無駄な時間を過ごしたのだろうかと虚しさを煽る。

「洗濯物、どうする?もう一回干すか?」
「風強いからもう乾いてるし、このまま全部取り込んじゃお」
「りょーかいー」
「ふふっ、なんか一瞬過ぎて笑えてきた」
「それな。大慌てしたの馬鹿馬鹿しいー」
「まあ冬の良い運動になったって事で」


だいぶ前に実際にあった事。

下記に今まで書いた小説をまとめてますので、お暇な時にでも是非。

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