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【ショートショート】硬い雲

 スーパーへと買い物に向かった帰り道。大きな国道の交差点で自転車を停め、信号待ちをする。牛乳パックが四本入った前カゴがゆらっと微かに傾いた。
 信号待ちで、これと言ってする事はない。携帯電話を眺めるにもぎらぎらと刺す日差しで、ポケットに手を入れる事すら億劫だ。あと暑過ぎてバッテリーが怖い。
 だがまだまだ青になる気配のない信号機。びゅんびゅんと忙しなく行き交う車。仕方がないと気持ちを無にして空を見上げてみた。

 真っ白な雲。大きな雲。別段変わり映えのしない雲。まあ青い空とのコントラストは見事だが。ああそうだ、雲が何の形に見えるかゲームでもしようか。ふと思いついた遊びを誰に言うでもなくひとり開始の笛を鳴らす。
 しかし大人の想像力とは子供のそれに遥か及ばないものだ。じーっと眺めても雲にしか見えず、己の発想力の衰えを痛感した。子供の頃はアイスや動物、はたまた龍まで色んなものに見えていたと言うのに。
 そう思いながら浅く溜め息を吐いて視線をずらす。その先でふと、雲が目に留まった。嫌に質感が硬く見える雲だった。周りの雲は柔らかくふわふわと軽そうに見えるのに、その雲だけ硬く重く、まるで雲ではないように見えた。

 しかし雲は雲。どんな質感に見えようが雲は雲。まばたき数回のうちにゆっくりと空を流れていく。形を変えていく。私が感じた事など幻だったかのように流れていく。

「早く帰ろ」

 丁度地上は車の動きが止まった頃、さっそく牛乳を飲む事を考えながら自転車のペダルを漕いだ。


かってぇ雲を見かけたんですよ。


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