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【ショートショート】俺と彼女とチキンタツタの季節

 店員の元気の良い「ありがとうございました」を背に、ドライブスルーから自宅に向けて車を走らせる。助手席の彼女の膝の上。空腹をこれでもかとくすぐるジャンクな匂い。早くかぶりつきたいそれに、気持ちは時速三〇〇キロ。現実は丁寧に丁寧を重ねた安全運転。
 まだまだ色んな店のLEDが眩しい、大きな国道の夜。空いた窓から期間限定の匂いをお裾分けだ。

「タツタっ!タツタ~っ!」
「まずは手洗い!」
「イエッサー!」

 駐車場に車を停め、降りた瞬間から彼女の足は常に軽い。エレベーターでも廊下でも、足踏みのような小躍りのようなステップは止まる気配がなかった。
 そしてようやく玄関をくぐれば、謎のタツタソングが彼女の口から飛び出す。ダイニングテーブルにお馴染みの茶色い袋を置いた彼女は、上機嫌で敬礼し洗面台へと向かった。その後を追って二人共手洗いを終えれば、ハンバーガーをいただく儀式は完璧。

 椅子に腰かけ、いざ開封。

「はあ~~~っ……今年もこの季節が来た~っ!」
「佳菜子が一番好きなマックだもんな」
「もうチキンタツタがレギュラーじゃないのが許せないって思いながら過ごして、でもこの季節になったらおいし過ぎて全部忘れちゃうのー!」
「馬鹿じゃん」

 鶏も吃驚な彼女のとんでも発言にツッコミを入れつつ、毎年恒例のチキンタツタの匂いで一気に涎が分泌される。どうやら俺も彼女と然して変わらないようだ。
 角をひとつ破った紙袋にがさりとポテトを広げてから、いただきますと手を合わせハンバーガーの包みを解く。ぱかりと箱を開けばその瞬間、ぷくりと丸く膨らんだバンズと目が合い、胃袋を掴まれた。
 無心でかじりついたそれは、ふわふわと柔らかいバンズ・生姜の効いたチキン・クリーミーながらも主張し過ぎないソース・しゃきしゃきのキャベツが毎年恒例、極上ハーモニーの大合唱。共に期間限定の三種類の柑橘がミックスされたジュースでごくごくと喉を鳴らせば、満足感と爽快さが胃袋に吹き荒れた。

「おいしいー……毎日食べたい……」
「太るぞ」
「タツタが終わったらダイエットするもん。てかこのジュースのカップ可愛い。洗って取っておこうかなあ」
「何に使うんだよ」
「んー……ペン立て?」
「倒れるわ」



チキンタツタがマクドの中で一番好き。
あとマジでマックフィズのカップが可愛い。

追記(2024/4/25)
 ようやく油淋鶏バージョンも食べました。ばちくそうめぇ。

てりたまバージョンはこちら。

下記に今まで書いた小説をまとめてますので、お暇な時にでも是非。

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