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【経営企画担当者のためのIR/SR実践講座】第1回:IRの目的とは?

複数回にわたってIR(Investor Relations)やSR(Shareholder Relations)について書いたみたいと思う。

IR/SRは当然上場している企業にとっては対応不可欠な経営課題であることはもちろん、今後上場を志向する企業にとっても、将来的なIR/SRを見越した資本政策を検討する必要があるため、上場前に相当程度の知識を得ておく必要がある。

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はじめに

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この連載でも明らかにしてゆくが、IRの対象となる「アクティブ投資」はインデックスファンドとのパフォーマンス比較の文脈や、AI等のコンピュータ投資の先鋭化によってシュリンクしてゆくことは間違いないとの考えは変わっていない。

しかし、少なからずGPIFのような大手資金提供者がアクティブ投資に資金提供を行なっている現状や、個人投資家による投資信託運用においてもアクティブ投資が選択されていることも多いことから、今すぐにアクティブ投資が終焉するとは思っていない。

したがって、将来的には不要となる(かもしれない)IRという存在と、仮にIRがなくなっても近年コーポレートガバナンスの観点から注目されているSRという存在は、少なからず企業経営や経営企画を担当する者にとっては必須の習得すべき知識・ノウハウとなると思われる。

また、実際にIR/SRの実務を担当していない人にとっても、資本政策の構築や自社の株主認識等、IR/SRの観点はコーポレート部門に従事する者にとって必要不可欠となることから、是非とも理解を深めてもらいたい。

IR/SRとは?

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まずはIR/SRとは何なのか?
アカデミックな観点ではなく、実務的な観点から概観してみたい。

IRとは?

IRとはInvestor Relationsの略語で、企業が株主や投資家に対し、財務状況など投資の判断に必要な情報を提供していく活動全般のことを指す。

ではなぜ株主や投資家に対して会社情報の提供を行う必要があるのか?

一義的には法律や取引所ルールで定められているから…、だ。上場企業(もしくは一定の外部投資家を集めている未上場企業)は、的確な投資判断を投資家や株主にしてもらうために、公平公正、かつ正確な情報を外部に公表することが定められている。

学術的というか法的には上記のような理由なのだが、一方で、実務的、経営的な観点からはより具体的な目的が明確となる。

すなわち、上場を維持するために、資本市場から適切に資金調達するために、もしくは適正な株価を市場において形成させるために適切な情報を外部に提供することが最も大きな目的かと思われる。

上場維持の観点

企業が上場する理由は様々だ。

創業者の一定の創業者利益の獲得のためや、資本市場からの資金調達をするため、上場による信用力・知名度アップのため、などなど。

創業者利益は上場とともに概ね獲得されることから、上場を維持するという観点においては後者の資本市場からの資金調達、そして上場による信用力・知名度の獲得といった観点がメインのテーマとなるだろう。

正直スモールキャップ企業にとってはIPOのタイミングや、マザーズから1部へのステップアップ上場の際の売り出しや公募といったタイミングの他に、equityでの資金調達はなかなか上場後は難しいものの、時価総額帯が改善してゆけばPO(公募増資)による資金調達も不可能ではない。

また、信用力や知名度の改善という観点においては、正直現状においては上場企業でも倒産する可能性はないわけでもないし、新卒・中途を問わず人材市場においても上場というキーワードが就職先選定における最優先事項ではなくなってきているものの、少なからずルールに基づいたディスクロージャーを行なっているという点において信用力や知名度は担保されうるものとなっている(銀行融資における債務者格付の観点においても、上場しているということは、それだけで信用補完になることは事実だ)。

したがって、上場維持の観点からIRは必要なこととなるが、上場維持は上場廃止基準に該当しないことと同義であるが、東証の上場廃止基準における東証1部の廃止基準の特に気をつける点は以下の通りだ。

株主数が所要株主数(2,000人)に満たないとき
時価総額が20億円未満である場合において、9か月以内に20億円以上とならないとき
※東証の上場区分変更の方針公表により、株主数や時価総額基準に変更あり

従来からの東証による1部上場銘柄を手厚くする方針から、マザーズ経由で多くのベンチャー企業が1部上場となった。

結果、時価総額が20億円前後をウロウロしていたり、株主数が2,000名を下回ったりする銘柄も多数存在する。

そういった会社にとってはIRのまずもっての目的は会社を認識してもらい、魅力を感じてもらいつつ自社株式を買ってもらう、ということになる。

適正株価形成の観点

PO(公募増資)により資金調達するにしても現株主のキャピタルゲイン創出のためにも適正株価形成は必要な問題だ。

よくIRでは「株価を上げる!」ことを目的と勘違いしている人も多いのが実情だが、株価は本来捏造されるべきものではなく、適切に形成されるものだ。

ファイナンス理論的にはDCFや配当等の株主還元から導出されるバリエーションが存在し、社内外の情報格差等の阻害要因がなければ本来的には適正な価格に株価は収斂するはずだ。

したがって適正株価形成という観点においてはフェアディスクローズ(公平な情報開示による情報格差をなくす取り組みのこと)における適切な情報開示が肝になる。

適正株価が形成されれば将来業績の期待が株価に反映され、業績拡大基調が確認されればPO(公募増資)の際、必要な資金が必要な量、調達することが可能となる可能性が高い。

SRとは?

もう1つのキーワードである、SRとはShareholder Relationsの略で、近年村上ファンド等アクティビストや敵対的買収という文脈から脚光を浴びてきている。また、コーポレートガバナンスコードやスチュワードシップコード、伊藤レポートなどで話題となることの多いキーワードだ。

1990年代くらいまでは護送船団方式下における金融機関や、事業上の提携関係にある事業会社、もしくは財閥関係にある企業間等による「株式持ち合い」が横行していたため、あまり外部株主や、ましてやアクティビストなどを意識することはなかった。そもそも議決権において「外圧」を意識する必要などなかった。

強いて言えば「総会屋」と呼ばれる、株主総会で騒ぎ立てる輩を排除するために事前にそれらの輩にネゴっておく程度の役割しか認められていなかった。

しかし近年、株式持ち合いが解消された結果、上場企業にとって自社の独立を危ぶまさせられるような株主提案や買収提案、そして株主総会における議案の否決リスク等が取りざたされるようになり、SRは企業経営における重要事項と位置付けられるようになりつつある。

具体的なSRの仕事とは「株主との対話」であり、IR同様、自社の情報を適時適切に公表するとともに、既存株主との会話を通じて自社の経営方針について必要な了解を得ておくことが必要となっている。


T&AフィナンシャルマネジメントのIR/SRコンサルティングサービス

T&AフィナンシャルマネジメントCFOサービスの一環としてIR/SRコンサルティングサービスをご提供している。

上場企業のみならず、将来的にIPOを志向している企業で、資本政策の立案から上場を意識した機関投資家との対話を考えられている起業からのお問い合わせを受け付けている。

経営企画担当者のためのIR/SR実践講座
第2回:IRの対象とは?
第3回:個人投資家向けIRとは?
第4回:機関投資家向けIRとは?
第5回:SRの目的と手法とは?
第6回:IR支援会社が提供するIR/SRコンサルティングとは?
第7回:実質株主判明調査とは?
第8回:実質株主判明調査を活用したIR/SR戦略
【(新版)経営企画担当者のためのIR/SR実践講座】
第1回:IR/SRってなんだろう?
第2回:IRの目的とは?
第3回:SRの目的とは?
第4回:(コラム)「東証市場区分変更」
第5回:IRの対象とは?
第6回:機関投資家の種類とは?
第7回:個人投資家向けIRとは?
第8回:SRの手法とは?
第9回:(コラム)経営企画担当者が知っておくべき「コーポレートガバナンスコード」とは?
第10回:IR支援会社が提供するIR/SRコンサルティングサービスとは?
第11回:実質株主判明調査とは?
第12回:実質株主判明調査を活用したIR/SR戦略とは?


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