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【経営企画担当者のためのIR/SR実践講座】第4回:機関投資家向けIRとは?

前回の投稿で個人投資家とは?ということと、個人投資家向けIRについて書いてみた。

今回はIR業務の真骨頂ともいえる、機関投資家向けIRについて書いてみたいと思う。

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機関投資家とは?

機関投資家とは多くの人や企業から資金を集めて、投資方針にのっとった運用を行う主体である。

例えば生命保険会社や損害保険会社、信託銀行といった金融機関や、ファンドを組成して資金運用をするアセットマネジメント等、機関投資家は多種多様だ。

概して取り扱っている金額が数十億円から数兆円まで、個人投資家と比較して運用金額が大きいことも機関投資家の特徴の一つと言える。

各機関投資家には投資運用担当者(ファンドマネージャー)や議決権担当者、アナリスト等の役割分担がなされており、IR/SRにおいてどの主体にどのような説明をするのかを把握しておく必要がある。

以下に諸々の切り口から機関投資家を区分し、それらへどのようにアプローチしたらよいか?という観点において書いてみたいと思う。

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運用方法による区分

機関投資家が運用するファンドの運用手法による区分から説明したい。

運用区分は大きく分けてアクティブ運用とパッシブ運用がある。

アクティブ運用というのは自ら情報を収集し、投資対象を選別し、投資を実行する運用方法だ。

アクティブ運用においても絶対的なリターンを追求するファンドや、TOPIX等の株価指標対比での相対的リターンを追求するファンドが存在するが、概ね「自ら情報収集し、意思決定する運用方法」と理解しておけばよいと思う。

一方で、パッシブ運用という運用方法も存在する。

パッシブ運用とは、TOPIXや日経225、JPX日経400といった株価指標と同じ動きをするようにファンドを構成する(インデックスの複製(レプリカ)を生成する)運用方法で、アクティブ運用のように自ら情報収集したり、意思決定することはない。

あくまでも株価指標とリンクするようファンドサイズに合った複製(レプリカ)を生成することがメインである。

人間の叡智を駆使したアクティブ運用だが、時としてパッシブ運用に運用成績で負けることも多く、またAI等のコンピュータ取引も盛んになっていることから、昨今、アクティブ運用のウェイトは低下しているとされている。

ただ、少なからずGPIF等の大手資金提供者の運用ポートフォリオにも依然組み込まれていることからも、その重要性は維持されている。

そして以前にも書いたが、情報収集を独自に行うファンドへのIRが必要であり、機関投資家向けIRのメインターゲットはアクティブ投資家ということになる。

アナリストの属性による区分

上記から、IRの対象となるのはアクティブ運用を行う投資家ということがわかっていただけたかと思うが、次はアナリストという職業の人々の区分についてご説明する。

アクティブ運用を行う投資家は自ら情報を収集し、投資意思決定をするが、基本的に情報収集し、分析する人々をアナリストといい、アナリストの分析をもとに投資意思決定をする人をファンドマネジャーという。

従って、IRで面談したり、情報提供するのはアナリストが相手となることが多い。

ただ、小規模なファンドではファンフォマネジャーがアナリストを兼務することも多いので、ファンドの特性をよく確認する必要がある。

ただし、アナリストには主に2種類存在する。

セルサイドアナリストとバイサイドアナリストだ。

上記の文脈における、自らのファンドの運用のために情報を集め、そして分析する人をバイサイドアナリストという。

そしてセルサイドアナリストとは、主に証券会社に所属し、銘柄の情報を収集し、そして分析し、機関投資家営業という自分の証券会社の株式セールス部隊に情報を提供したり、個人投資家向けに情報を提供したりする人々を指す。

セルサイドアナリストは情報提供のツールとしてアナリストレポートを執筆し、世間に公表するため、レポートを書いてもらうことは自社の銘柄の評価を効率的に世間に知ってもらえることとなるので重要だ。

ただ、時価総額帯が500億円〜1,000億円を超える水準に達しないとセルサイドアナリストのレポートを書いてはもらえないのが実情。

当然、セルサイドアナリストも需要の多い銘柄を優先的にレポートするのが当然であるので理解できるが、中小型銘柄にとっては、セルサイドアナリストにレポートを書いてもらえないから株価が上がらない、株価が上がらないからレポートを書いてもらえない、という鶏と卵のジレンマにさいなまれることになる…

機関投資家向けIRの手法

上記を踏まえると、IRの対象は主にアクティブ運用をしているファンド等の金融機関に属するバイサイドアナリスト、および証券会社に所属し、自社銘柄を後半に世間に知らしめてくれるレポートを各セルサイドアナリストということになる。

主な機関投資家向けIRの方法は、①機関投資家向け決算説明会、②1 on 1ミーティングの実施、③その他自社説明会の実施となろう。

機関投資家向け決算説明会

これは証券アナリスト協会主催のものや、証券会社、IR支援会社主催のものなど多々存在するが、本決算や中間決算のタイミングで年2回〜四半期ごとの4回程度実施する発行体が多い。

クローズドな招待制をとって機関投資家に集まってもらい、直近決算について説明するものだ。

プロの投資家だけあって難易度の高い、自社のことをよく理解している質問が多く、1対多であるものの、濃縮な会となることが期待される。

ただ…クローズドな開催でありながらも、M&A仲介会社の営業や証券会社のPB営業が社長の個人資産目当てで紛れ込んでくることも多く、その対応に辟易とする可能性も高いのも事実。

そういった輩を完全排除するために、受付での所属確認を厳格に実施している発行体も少なからず存在する。

1 on 1ミーティング

これはバイサイド、セルサイドを問わず、1社の投資家と自社の個別のミーティングを行うことを指す。

決算説明会ではなし得ない、自社ビジネスに対する深い理解をしてもらえることと、活発な意見交換ができることが特徴だ。

大手証券会社などでは「カンファレンス」と称して、海外の機関投資家を集めてホテルの部屋に発行体のスピーカーを待機させ、事前に設定したスケジュールで機関投資家と発行体をマッチングさせるイベントを定期的に行っているケースもある。

その他自社説明会

これは一般的とまではいかないが、アナリストに集まってもらい、自社の工場や倉庫、ショールーム等をみてもらうイベントを企画することで、自社ビジネスの深い理解促進に寄与するものだ。

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まとめ

これまで、機関投資家の種類、そして機関投資家向けIRの方法について書いてきた。

自社の置かれている立ち位置やセクター、そして時価総額帯やビジネスモデルによりIRの手法は異なってくるが、基本的なIRのルーティンとしては、以下の通りだろう。

機関投資家向け説明会の開催

バイサイドアナリストとの1on1ミーティングの実施(カンファレンス等への参加)

セルサイドアナリストとの1on1もーティングの実施

これを効率的かつ、効果的に行うことがIR担当者の腕の見せ所となる。

そしてより力のあるバイサイドとの面談を増やし、そしてレポートを書いてくれるセルサイドとのミーティングを増やして行くという地道な活動が必要となってくる。IRは業績とIR結果が連動することも多く、IRの巧拙だけで適正な株価形成がなされるわけではないが、しかし、これらの活動を効果的におこなうことで適正株価形成に資することも間違いない。

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経営企画担当者のためのIR/SR実践講座
第1回:IRの目的とは?
第2回:IRの対象とは?
第3回:個人投資家向けIRとは?
第5回:SRの目的と手法とは?
第6回:IR支援会社が提供するIR/SRコンサルティングとは?
第7回:実質株主判明調査とは?
第8回:実質株主判明調査を活用したIR/SR戦略
【(新版)経営企画担当者のためのIR/SR実践講座】
第1回:IR/SRってなんだろう?
第2回:IRの目的とは?
第3回:SRの目的とは?
第4回:(コラム)「東証市場区分変更」
第5回:IRの対象とは?
第6回:機関投資家の種類とは?
第7回:個人投資家向けIRとは?
第8回:SRの手法とは?
第9回:(コラム)経営企画担当者が知っておくべき「コーポレートガバナンスコード」とは?
第10回:IR支援会社が提供するIR/SRコンサルティングサービスとは?
第11回:実質株主判明調査とは?

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